おバカな妹とテスト初日
世界に向かってもふもふ愛を叫ぶ、略してもふ愛企画の作品です。
「お姉ちゃん、お願いっ!!」
「嫌よ。私は動物が嫌いなの!」
妹からのお願いを、容赦なく断る。
「VRだし、本物じゃないし!」
なおも食い下がってくる妹。
「昔のVRと違って、今は五感もあるんでしょう?却下よ!」
「五感といっても、味覚はまだだけどねー」
妹に渡されたパンフレットを眺めながら、最新型のVRの性能に驚いた。
昔ならヘッドセットを付けて、その場で動くか、広いところで動き回るか。結局プレイヤーが動かなければいけなかった。
この最新型はダイブ型と呼ばれるやつで、映画や漫画などの世界にしかなかったものが実現化したのだ。
その変わり、お値段は高かったり、制約もいろいろとあるみたいだけど。
今回、妹はその最新型VRと同時販売されるソフトのβ版テスターに応募して受かったらしい。
でだ。馬鹿な妹は、β版テストの日程に補習が入ったのだ。
担任からは、その補習に出なければ、進級できないぞ、と言われているらしい。
では、β版テスターを辞退すればいいのだが、やはりテスターにはサービス開始時に、豪華特典がついてくる。
それを逃すのは惜しい。
だから、自分の代わりに行って欲しいとお願いされているのだ。
「そもそも、代理なんて認められてないでしょう?」
「似ているから、私の名前で参加してよ!」
今は、自分の顔が恨めしい!
妹とは二歳違いなのだが、顔や体つきは双子のようにそっくりなのだ。
「VRの世界で、動物園が作れるのよ!しかも、自分で捕獲しに行ったり、番で飼育して繁殖させたり、プレイヤー同士で動物の交換もできる!!」
動物好きな妹なら、そりゃあ楽しいでしょうよ。
でも、私は動物が苦手なのだ。
テレビとかで見るだけなら大丈夫なのだが、触ったりするのはダメだ。
動物園なんかは臭いがダメだし、大きな動物は襲われたらとか考えてしまう。
「はいはい。私はゾンビに群がられる方が癒されるわ」
「あんなの、可愛くないじゃん!」
「私のストレス発散のために、蜂の巣にされたり、燃やされたり。健気じゃない」
私もよくゲームはするのだけど、もっぱらシューティングアクション系が多い。
ゾンビものは特に大好きだ。
銃をぶっ放しながら、ゾンビたちを思う存分倒しまくるのは、ストレス発散に凄くいい。
動き回るVRのゾンビものにハマったときは、ゲームをクリアするために、格闘技を習いに行ったほどだ。
格闘技も習ってみると、凄く楽しかったし、ゲームの腕もメキメキ上達した。
さらには、体もいい感じに引き締まって、一石二鳥。
「こうなったら、お姉ちゃん!ここをよく見て!!」
妹がパンフレットを指差す。
そこには、ソフトのタイトルである、「みんなの動物園(zoo)」の他に、「フェムゲームズ」と書いてあった。
「フェムゲー!?」
フェムゲームズは、私の好きなゾンビものをよく出すゲーム会社で、名作が多いことでゲーマーには有名だ。
「今度、ゾンビの新作出るって言ってたじゃん?ひょっとしたら、製作チームの人と会えるかもしれないよ?なんなら、最新情報とかゲットできちゃうかもよ?」
くっ。妹の言葉に心が揺れる…。
いや、よく考えろ。
たかがテスターが、他のソフトの製作チームに会えるとかないだろ。
ましてや、公開される前の情報を流すなどと、常識としてないだろ!
「手強いなぁ。じゃあ、これでどうだ!」
そう言って妹は、パンフレットを目の前に突き出してきた。
「みんズーのプロデューサーは、古賀誠也さんだぞ!」
「嘘だ!ありえない!!」
古賀誠也さんといえば、フェムゲーが誇る名プロデューサー!
数々の名作を世に出してきた凄い人なのに!
「お姉ちゃん、この人の作品好きだって言ってなかったっけ?」
くぅぅぅ、自分の妹だが、ムカつく!!
でも、古賀さんに会えるかもしれないとしたら、行くしかない!!
「わかったわよ!行けばいいんでしょ!」
「やったー!!」
「この貸しは高いからね!」
高校最後の夏休みなのに、妹のために使うことになるとは…。
♦︎♦︎♦︎
ついにやってきてしまった。
これから一週間、フェムゲームズの本社に通うことになる。
妹に似せるために、妹の服を借りて、化粧も普段とは違いベースメイクだけにした。
するとあら不思議。妹と瓜二つ。
出かける前に、妹がどうしてもというのでツーショットを撮ったのだが、私が見ても似ていたので、身分証明の学生証の写真では見分けられないと思う。
大きなビルに入ると、美人な受付嬢のお姉様に微笑みかけられてドキッとした。
こんな清楚な感じの大人な女性になりたいものだな。
「おはようございます」
美しい人は、声まで美しい。
「おはようございます。みんなの動物園のゲームテスターとして来たのですが」
「そちら左手の奥にあるエレベーターに乗っていただき、6階までお上りください。そこから、係りの者がご案内しております」
受付嬢に言われた通りにエレベーターに乗り、6階で下りると、フロアは大勢の人で賑わっていた。
「受付がまだな方はこちらへお願いします!」
小さなお姉さんが、ぴょんぴょん跳ねながら手を振っていた。
あそこに行けばいいのだな。
「お名前と身分証の提示をお願いします」
「黒崎るりです」
妹はあんなんだが、るりという可愛らしい名前だったりする。
私はあいという、ありきたりな名前だが、藍色のあいの意味らしい。
愛の方だったら、完全に名前負けしてたなと、自分でも思う。
「では、こちらのIDカードを見えるようにつけておいてください。テスト期間中になくされますと、その時点でテストには参加できなくなりますのでご注意ください」
ストラップのついたカードケースごと渡されたが、首から下げている人と、クリップで留めている人がいる。
私はなくすのが怖いから、首から下げておこう。
「黒崎様はグリーンチームですので、呼ばれるまでこのままお待ちください」
グリーンチーム?
IDカードに入っている線が緑だから?
他の人のを盗み見てみると、赤や青、黄色もあるようだ。
そして、しばらくすると、色ごとに社員さんが呼びに来た。
「IDに緑のラインが入っている方は、こちらの部屋へお集まりください」
さっそくお呼びがかかったので、人の流れに乗って部屋に入る。
すると、周りから歓声が上がった。
卵の形に似た、椅子とソファの中間みたいなものが、たくさん並べてあった。
パンフレットでも見た、最新型のVRだ。
「それでは、お好きな場所に座ってください」
同じチームのテスターたちは、我先にとVRへ突進していく。
私はこっそりと一番端っこをキープした。
「グリーンチームのテスト内容は、通常プレイによる動作チェックになります。最初のプレイヤーアバターを作るところから始めてもらい、チュートリアルを経て、フィールドへと出てもらいます。違和感や動きにくい動作、バグと思われる個所があれば、随時報告してください」
操作方法や問題点の報告の仕方など、細かく説明された。
「では、テストを開始します」
卵型のVR機器が動き、蓋が閉まるかのように閉じ込められた。
椅子ではなく、ポッドだったのか!
空中に浮かんでいるかのように、「ようこそ、みんなの動物園へ」というテロップが映る。
そして、宇宙空間を高速移動しているかのような映像がながれ、地球がどんどん大きくなっていく。
そしてついには、だだっ広い草原へと着いた。
音声の指示に従い、自分のアバターを作り、チュートリアルへと進む。
アバターは自分をそのまま反映させることも可能だったので、それにした。
いちいち考えるのが面倒臭いし。
チュートリアルでは、どういう仕組みなのかわからないけれど、実際に歩いている感覚がした。
自分の体は動いていないにもかかわらずだ。
しかし、意外と操作が難しい。
歩く、走るくらいは簡単なのだが、しゃがんだり、ジャンプしたりすると、誤差のようなものがあるような気がした。
『野生動物を捕獲してみよう!』
テロップが出たと思ったら、マーカーまで現れた。
あそこに何かいるってことなんだろうけど、それを捕まえろと!?
どうやって?まさか、素手でとか言わないよな!
すると、アイテムの項目が光り、開いてみると「虫捕り網」が。
いろいろと申したいことがあるが、とりあえずは従ってみる。
虫捕り網を手にして、恐る恐るマーカーへと近づく。
すると、自動的に何の動物がいるのか詳細が表示された。
『ウサギ(ジャパニーズ・ホワイト)
白い毛と赤い目が特徴。飼育しやすく、性格 も穏やか』
ウサギを虫捕り網で捕まえろって、何という無茶振り!!
だけど、このチュートリアルが終わらなければ、先へとは進めない。
気配を殺し、音を極力出さないように、さらに近づく。
ウサギは、目の前の草を食べることに集中しているのか、気づいたようすはない。
そういう仕様なのだろうが、捕まえる側としてはありがたい。
虫捕り網の長さを確認して、思いっきり振り下ろす!
『ウサギを捕まえました。檻へ入れてましょう』
再びテロップが出ると、どこからともなく、檻というか籠みたいなものが出現した。
待て!
ウサギを掴んで、それに入れろと!!
その前に、ウサギってどこを持てばいいの?
耳??
いや、絶対痛いよね!耳を掴んでぷらーんとか、耳もげるよね!!
ヘルプミー!!
『優しく抱きかかえましょう』
ヘルプミーと叫んだら、テロップが出た。
ヘルプに反応したのか?
つか、私に触れと!?
そういうゲームなのだから、仕方ないのだが、なんか柔らかそうで怖い。
優しく、優しく…。
自分に言い聞かせながら、網ごとウサギを持ち上げてみた。
うわっ!本当に毛の感触がある!
そして、やっぱり柔らかいじゃないか!!
毛か?毛が柔らかいのか!?
私が一人でわたわたしていても、ウサギは抵抗することなく、鼻をヒクヒクさせるだけだった。
そして、檻に近づけてから網から出すと、大人しく中に入ってくれた。
チュートリアルでよかったぁぁ。
ほっとしたら、今度は「アニマル」という項目が光った。
次はなんだ!
アニマルを開くと、ウサギという項目があり、展示しますか?という質問が出た。
YESが光っていたので、それを選択すると、フィールドが変わった。
動物園というよりは、学校の飼育小屋みたいなところで、そのうちの一角にウサギが一羽入っている。
どの小屋がいいかは、自分で選べるみたいだ。
配置換えでウサギを動かしてみると、ウサギが消えて、選択した小屋に現れた。
『チュートリアルを終了します』
動物を捕獲できるフィールドが増えたというお知らせが入り、「フィールド」を調べてみると、草原と森が表示された。
こうやって、動物を捕まえていき、動物の数が一定に達すると新しいフィールドが解放されるようだ。
ということは、特殊フィールドや隠しフィールドがあってもおかしくないし、解放条件も難しそうだ。
自分の動物園を公開して、来場者数がポイントとなり、ポイントを貯めて動物園の拡張アイテムを買う。
うん、仕組みはだいたい理解した。
だけど、動物を捕まえられるとは思えない!
しばらくは、フィールドをさまようだけにしておこう。
さて、新しく解放された森のフィールドに来てみた。
風が吹くと、葉擦れの音がして、鳥のさえずりまで聞こえる。
なんだか、森林浴をしているみたいだ。
さてと、さっそく仕事をしよう。
テスターであることを忘れてはいけないよね。
ザグザグと落ち葉を踏む音まで聞こえ、フィールド自体はしっかりと作りこまれているようだ。
周りの木々にも触れてみたが、これまたしっかりと感触がある。
いくつかの木を調べて、一本の木に絞った。
よし、木登りをしようじゃないか!
プレイヤーの動作チェックということなので、あまりしないような動作をチョイスしてみた。
あ、木の上にいる動物を捕まえるために登る人は多いかも。
慎重に足場を確認しながら登ってみると、木の上にはアイテムっぽいものがあった。
『薬草:ライフゲージを20%回復』
凄く不穏なアイテムだった。
ちょっと待とうか。
ライフゲージって何!?
どこに表示されてんの?
自分の視界の中には、そういったものはない。
たまに動物が反撃することもあると言っていたが、衝撃はあるものの痛みはないとも言っていた。
しかし、ライフゲージがあるということは、ダメージを受けるということで、もちろん0になればゲームオーバーだろう。
視界にライフゲージがないということは、ダメージを受けると視界に現れるのかな?
ていうか、ライフゲージの説明はチュートリアルにないとダメだろ!!
すぐさま、メニュー画面にある「GMへメール」を選択し、浮かび上がったキーボードで打ち込み、このことを報告する。
それが終わると、あとはひたすら森の中を散策してみた。
すると、木の実や果物がアイテムとしてゲットできた。
説明には、動物のご褒美にちょうどいいと書いてあった。
ドロップアイテムも動物に与えることができるのか。
そうして、アイテム探しだけで、一日目が終わった。




