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11.常識度テスト~俺のツッコミはこれからだ!~

 なんだかんだでこの世界に来てそろそろ一月になる。

 ほぼ城内での座学とは言え、日本や地球との違いもだいぶ学んだと言える。

 その間に俺の人生の中で類を見ないほど濃い人たちに大勢出会ったが…

 常に一緒に行動しているメリーさんもなぁ。最初はまともな人と思って……いやそうでもないか。


「なんだか失礼なことを考えてません?」

「めっそうも無い。メリーさん、今日は試験でしたよね」

「はい、本日は常識度試験を受けていただきます。既にカミムラ様なら市街に出ても問題ないとは思っていますが、これも規則ですので」


 ふー、あぶない。メリーさんはいつも絶好のタイミングで現れ、実は狙ってやってるのでは?と思うときがある。

 本人はまだ怪訝そうに俺を見ているが、このまましらを切り通そう。


「その常識度試験ですが、どんなことをするんですか?」

「まずは筆記試験です。日本語の読み書きから単位、通貨など一般常識を広く浅く問題として出します」


 筆記試験かぁ。就職活動でやって以来だな。久々で緊張する…




「制限時間は1時間です。始めてください」


 問題と解答用紙が配られる。

 なになに…第一問は漢字の読み書きか。食事、会話と…本当に初歩の日本語だな。内容も日常生活で使うものがほとんどだ。さてさて、最後の書き取りは…『ばら』


「書けるか―!?」


 椅子に座って書類を読んでいたメリーさんがビクッとして唐突に叫んだ俺を見つめる。そして近寄って来て問題を確認すると納得したように頷く。


「フジワラ様の指定問題です。『絶対に満点は取らせん』とのことです」

「お、大人げない…」


 日本語を自分で広めた手前、のちの勇者の言葉が通じないことを危惧して問題を作ったそうだ。問題はその時々の時代に合わせて改訂され、現在でも続けて使用されている、

 ただ薔薇(バラ)だけはいつまでも残しておくように言われたらしい。何でこんなところで変な意地を張るんだ…



 第二問は計算問題のようだ。内容自体は大して難しい物でなく、どちらかというと要点は単位や通貨に絞られる。幸いにも単位は日本で利用されていたものが踏襲されている。といってもこれは一度に全部決められたわけではない。


 数字の単位は概念なので問題ないのだが、メートルやグラムといった長さ重さが難しかった。幸い持ち込まれた教科書に目盛りが記載されていたので長さは何とかなり、グラムは財布の中に入っていた一円硬貨を利用した。

 残念ながら新品の一円硬貨ではないので正確な一グラムではないが、その時持ち込まれた物が今でも基本数値として大切に保存されているそうだ。

 時刻などはさらに後の勇者の持ち込み品から選定されている。


 唯一大きく違う所といえば貨幣の単位が『円』ではなく『アル』で、紙幣が無く硬貨のみになっているところだろう。材質は上から金銀銅で構成され、それぞれ十枚ごとに大サイズの硬貨が用意されている。

 それでも多少は日本の感覚を取り入れたのかそれぞれに刻印で数字が彫られている。例えば一アル銅貨、大サイズの十アル銅貨といった形になり十枚ごとに上の貨幣に繰り上がる。なので百アルに相当する銀貨には数字で百と彫ってある。貨幣としては大金貨の十万アルまでしかないが、それ以上は信頼の問題で書面か銀行預かりとなる。


 さて、肝心の問題は日本の小学生レベルだ。街での買い物を想定しているので単純な足し算引き算が多い。

 もちろん問題なく解いて残るは最後の一問。


―机の上に魚が三匹置いてあります。そこに猫猫人が一匹くわえて行きました。残りは何匹でしょう―


 なぜか最後が有名なひっかけ問題だ。

 普通なら三匹から一匹引いて二匹と言いたいところだが、『くわえて』が『加えて』という意味なので加算する。なので正解は四匹だ!



 第三問は社会だ。セントラル国の地理や歴史、風俗が問題として出ている。


 地理は大まかにどこに何があるか把握していれば問題ない。それより王都の中の配置が重要だ。王城を中心に円の形で貴族や大商人などが住む高級区画、店などの商業区画、住民区画となっている。あとは商業区画でもどこに武器屋があるとかそんな問題だ。


 歴史はまぁそのまんまだ。これも細かく突っ込まれるものでもないのでさらっとした流れが追えていれば良い。問題にも人魔大戦とか、王朝交代の政変くらいしか出ていない。


 問題は風俗だ…。風俗と言ってもえろいのではない。社会風俗の方だ。

 現在は王都にも多数の種族が入り混じっているので全体を通して問われるのだが、いくつか個別の重要な案件が出て来る。


 わかりやすく英語で例えると女性への敬称の違いがある。未婚のミス、既婚のミセス、どちらかわからない時はミズ、成人女性ならマダムなど。ただしこれは外見で判断がつく場合とつかない場合がある。この世界じゃ長命種だと外見では年齢はわからないし、獣人だとそもそも外見で男女の区別がつかない場合も多い。虫人に至っては言うまでもないな?


 他にもこの話題はしてはいけない―とりあえず政治と宗教関係は初対面では話すのは不味い。この身体的特徴をいじってはいけない―中には未婚の男女は近寄ってはいけないなんてのもある。そんなの外見で判断つかないのはどうしろと!?


「こんな話があります。過去の勇者様が故郷で飼っていた犬に似た生き物に会いました。懐かしくなり、思わず飼っていた犬にするように(・・・・・・・)体を撫でまわしたところ、それはまだ成人前でうまく立てず四つん這いで過ごしていた獣人族の少女した。親族から身を汚したと非難され、勇者様は責任を取って妻に迎えたそうです」

「…(唖然)」

「当初は言葉も通じなかったので苦労されたそうです。注意してください」

「…肝に銘じます」


 こんな話を聞かされてはよくよく注意しないといけない。

 今でこそ日本語が普及しているとはいえ、いつでも通じるわけではないのだ。これぞ異世界!



 最後の第四問だ。

 問題かと思いきやアンケートだった。街に出たら何がしたいか、国内のどこに行きたいか。現時点で何か気になることはないか。といった今後の予定を立てるための項目らしい。

 それとメリーさんがねじ込んだと見える、何か勇者の事で思い出したことはないかという項目が気になるんだが…


 俺は召喚されたので食事も生活も元の世界と似たような形に配慮されてるし、勇者の残した部屋があるので過ごし難いということはない。だから普通の食生活など、ごく普通の市民生活を見たいかな。

 あとは前々から気になっていた王都から遠くに見える変な建物とか、時々漏れ聞こえる『夢の国』が気になる。特に『夢の国』は間違いなく勇者関係だよな…


 なんてことを書いて終了。だいたい出来たんじゃないかな?



 昼食後に採点を終えたメリーさんと顔を突き合わせて答え合わせをする。


「第一問の読み書きはバラ以外は正解ですね。さすがです」

「まあ、母国語ですから。挨拶もそんなに変わった感じでもないですし…」


 日本語ですからね、これくらいは出来ないと。バラはまぁ…書けねーよ。


「計算問題は最後の一問だけ不正解です。猫猫人は猫人より猫に近いので本能のまま魚を持っていきます。なので正解は二匹です」

「そんなのわかるかー!!」


 詳しく分けると猫猫人<猫人<猫人人<人のように細分されるらしい。そんなの知らんがな。

 先頭につく種族が多い程原種に近くなり、末尾の人が多いとほとんど人種族と区別がつかないらしい。 そんな区別いるのだろうか…アイデンティティとかその辺に関わるのかな…


「第三問は正解率は半分くらいですが、我々も同行するので大丈夫でしょう。ああ、この『会話時は目を合わせて話す』ですが一部の種族は敵対行動とみなすので注意してください」

「まるで猿のようだ…」

「さすがよくご存じで。猿人に多い傾向ですね」

「事前に説明してくださいよ!?」


 最初は何をするにも確認しないと怖いな。こりゃ慣れるまでが大変そうだ。


「第四問ですが…」

「何かマズイところでもありました?」

「いえ、勇者様について何か思い出したことは?」

「やっぱりメリーさんか」

「なんのことやら…」


 すっと視線をそらされる。心配せずとも思い出したら言いますよ。



「全体として問題ないでしょう。今後は城外での行動が許可されますが、警備の都合もありますので事前に申請してください。同伴者は主に私とライデン様に警備担当者が付く形となります」

「あれ、セバスさんは来ないんだ」

「私は街中で彼が付くと目立ってしまいます。貴人がここにいると宣言しているようなものですよ?」

「なるほど…」


 納得する俺の前に優雅なしぐさで紅茶が差し出される。試験で疲れた俺に合わせてジャスミンティーかな。細やかな心遣いが嬉しい。

 セバスさんは紅茶を出し終わると自然と後ろに控えて気配を消している。

 …うん、セバスさんクラスの執事を雇える人なんてそうそういない。これは目立つね!



 とにかく試験はクリアした。

 俺はこれから城の外に出ることで起きるだろう出来事に、淡い期待と大きな不安を胸に抱くのだった。


「バナナはおやつに入りませんよ」

「それこちらが聞くことですよね?」

「聞いて頂けそうにありませんでしたので」

「…」


 それにしてもメリーさんのテンションが高い。


「本当に楽しみですね」

「メリーさんはそうでしょうね…」

「サクラダ家は絶対見に行きましょうね!」

「…何ですかそれは」

「三百年経っても建築が未だに続いている歴史的な勇者様の家です!」

「サクラダ家…サクラダ・ファミリア!?」


 俺の異世界ツッコミはまだ終わりそうにない。

お読みいただきありがとうございました。

今回は初の長編を書いてみましたが、思ったより大変でした。他の作者さんすごいね!

とりあえず城内編が終了したところでひとまず完結とします。

一応外出編の構想もあったのですが、元がA4一枚のネタではこの辺が限界でした(笑)

それと反応が全然わからなかったので、気が向いたら感想や評価など頂けると嬉しいです。

また次回作か続編(?)でお会いしましょう。ではでは

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