2・兄妹
バサッ バサッ バサッ
羽ばたく羽根の音があたりの森に響いた。
「くそっ。外れない」
もがけばもがくほど、右足に引っかかった罠はきつくなって外れない。
しかもケガをした左足からの出血が止まらない。
裂けた脚絆の部分から血が流れ、残雪を赤く染めていた。
罠を斬るか?腰の刀に手をやるが、逆さ吊りで頭がクラクラして
手元が狂いかねない。
宙吊りになったまま、烏天狗の少年は途方にくれていた。
少年は人間の年なら8~9歳くらいだろうか。
馬乗り袴に裾を脚絆でまとめた姿で、
子供が持つには長い打ち刀と脇差しを持っていた。
肩までの黒い髪を後ろに縛って、その瞳は左右の色が違っている。
左は髪と同じ、黒曜石のような黒。
右目は大空のように真っ青な瞳。
*
「兄ちゃん。こっちこっち。罠に何かかかってる。ウサギだといいなぁ」
「志乃。走ると転ぶよ。山で転ぶと危ないから気を付けて」
7歳くらいのおかっぱ頭の少女と、18歳くらいの丸刈りの青年が
村から山へやってきた。
少女は着物。青年はシャツとズボンで、裾をゲートルでまとめていた。
「あー…」罠にかかった少年を見て、少女は少しがっかりしている。
「あれ。珍しいな。烏天狗の子か。…ケガしてるのか?」
「戦闘機が撃った弾がかすったんだ」
「アメ公か。あいつら、練習がてらやたらぶっ放すからな。
罠を外すから俺につかまって。
ケガは母さんに治してもらおう。 俺たちは比十族の末裔なんだよ。
母は治療ができるんだ」
少年の傷を手ぬぐいで包んでおんぶして、青年と少女は山を下りて行く。
「ここは、やうと村?」
「そうだよ。俺は永野慎太郎。こっちは妹の志乃。君は?」
「…愛鷹」
「へええー。愛鷹山の愛鷹か。富士山の近くに住んでいたんだろ?
よくここまで来たね。で、その左右が違う色の瞳って
烏天狗の特徴じゃないけど、何かあるの?」
「…なんでもない」
「あ、初対面の人間に言うわけないか。すまん。
俺は空を飛んでみたくて飛行兵学校に入ったんだ。
自由に飛べる愛鷹が少しうらやましいな」
慎太郎は爽やかに優しそうに笑った。白い歯が健康そうだ。
兄に背負われた愛鷹を見て、志乃は「べーっ」とやった。
「こら、志乃。ケガしてるんだ。優しくしてあげなさい」
「はぁい…」志乃は不満そうだったが、兄の言う事はよく聞いた。
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