繋がった代償を受け入れる俺、王都で“新たな異常”に出会う
視界が、二重になる。
右で見ている景色と、左で感じる構造。
同じ世界なのに、別の層を同時に撫でている感覚。
「……慣れねえな」
ユウは片目を細める。
だが、嫌いじゃない。
むしろ——便利だ。
「同期率、安定化中」
スライムの声が、頭の“内側”から響く。
「現在、31%」
「中途半端だな」
「急激な上昇は危険です」
「じゃあ徐々にだ」
足元の地面は、しっかりしている。
空も青い。風もある。
だがユウには、その“下”が見える。
繋がり。分岐。
人の動きに先行する“予測線”。
「……王都、遠くないな」
視界の奥に、城壁が重なる。
距離ではなく、“接続の近さ”で測れる。
「はい。通常移動でも半日」
「通常じゃない方法は?」
「複数」
間髪入れずに返ってくる。
その情報量が、以前より濃い。
「空間跳躍、短距離転移、接続移動——」
「最後のやつでいい」
「了解」
ユウは一歩踏み出す。
地面ではなく、“繋がり”へ。
世界が一瞬だけ折れ、次の瞬間には——
王都の門前。
人のざわめき。
商人の声。衛兵の槍。
現実の音が一気に戻る。
「……やっぱ楽だな」
「消費、軽微」
「いいね」
だが。
門をくぐった瞬間。
“違和感”。
人が多い。
建物も整っている。
活気がある。
それなのに——
「……静かすぎる」
ユウが呟く。
「同意」
スライムが応じる。
「表層と深層の乖離を確認」
表では賑わっている。
だが“裏”は、妙に均一。
ノイズが少なすぎる。
「……作られてるな」
そのとき。
「そこのあなた」
声がかかる。
振り向く。
白いローブの女。
年齢は二十前後。
だが、その目は妙に“澄みすぎている”。
「旅人ですよね?」
柔らかい声。
自然な笑み。
だが——
ユウの視界には、別のものが映っている。
彼女の背後に、薄く重なる“別の形”。
人型じゃない。
もっと抽象的な、管理側の影。
「……何だ」
ユウが短く返す。
「王都に入ったばかりの方には、簡単な登録が必要なんです」
丁寧な説明。
だが、その言葉の裏で——
“スキャン”されている。
「解析を確認」
スライムが低く告げる。
「対象、あなたを観測中」
「だろうな」
ユウは一歩、近づく。
「登録って、何を取る」
女は一瞬だけ間を置く。
ほんのわずか。
だが——見逃さない。
「名前と、簡単な魔力測定だけです」
「嘘だな」
即答。
空気が、ほんの少しだけ固まる。
「……どうしてそう思うんですか?」
笑顔は崩さない。
だが、“奥”が変わる。
「お前、“測ってる側”だろ」
沈黙。
そして——
女の背後の“影”が、濃くなる。
「……やはり」
声が変わる。
少し低く、機械的に。
「対象、規格外」
周囲の音が、遠のく。
人々は普通に動いている。
だが、この一角だけ——
切り離される。
「隔離フィールド、展開」
空間が閉じる。
「へえ」
ユウは笑う。
「王都、やっぱ面白いな」
「あなたは危険です」
女——いや、その“中身”が言う。
「ここで停止してもらいます」
「無理だな」
ユウは一歩、踏み出す。
その瞬間。
女の体が、完全に“変わる”。
白いローブが消え、
その内側にあった“本体”が露出する。
人型。
だが、滑らかすぎる。
関節がない。輪郭が曖昧。
「……執行者じゃないな」
「監視官」
それは答える。
「王都管理区画、直属」
「上位寄りか」
「あなたよりは下です」
さらっと言う。
「ですが——」
一歩、近づく。
「ここは、“あなたの外側”ではありません」
圧がかかる。
空間そのものが、重くなる。
「この世界では——」
「我々が“ルール”です」
ユウは、笑った。
「いいね」
肩を回す。
「ルール、ちょうど欲しかった」
スライムが静かに言う。
「注意」
「対象、通常の上位存在と異なります」
「知ってる」
ユウの目が光る。
「だから面白い」
一歩、踏み出す。
空間が歪む。
「じゃあ——」
拳を軽く握る。
「そのルール、もらうわ」
王都。
そこは、単なる街じゃない。
“管理された世界の中心”。
そして——
ユウにとっては。
“最高の狩場”だった。




