世界を書き換えた俺、だが“最初の違和感”がすべてを狂わせる
指先が、触れた。
選択肢のひとつ——**「修正」**に。
世界が、静かに“息をし直す”。
音もなく、だが確実に。
光点が一斉に揺れ、止まり、そして——再び動き出す。
「……終わり、か?」
ユウが小さく呟く。
だが、その問いに答えるものはない。
代わりに——
すべてが“自然に戻った”。
次の瞬間。
ユウは、街道に立っていた。
朝の風。
揺れる草。
遠くに見える王都の城壁。
何も変わらない景色。
「……戻ったな」
体を軽く動かす。
問題ない。
スキルも、力も、そのまま。
「……違う」
スライムが低く言う。
「何かが——」
言い切る前に。
「ユウ」
声がした。
振り向く。
そこにいたのは——
ミアだった。
「……久しぶり」
普通の顔で、普通の声で。
まるで何もなかったかのように。
「お前……」
ユウが目を細める。
「なんでここにいる」
「なんでって」
ミアは少し首を傾げる。
「一緒に王都行くって言ったでしょ?」
沈黙。
ユウの中で、何かがズレる。
「……言ってない」
はっきりと。
記憶にない。
「え?」
ミアが不思議そうな顔をする。
「何言ってるの?」
少し笑う。
「昨日、ちゃんと話したじゃん」
“昨日”。
その言葉に、引っかかる。
「昨日、俺は——」
管理者と戦っていた。
世界の外に行った。
核に触れた。
だが。
「……その記録、存在しない」
スライムが言う。
声が、明らかに揺れている。
「何?」
「履歴に矛盾」
「世界ログと記憶が一致しない」
ユウは、ゆっくりと空を見る。
何もない。
だが——
“見える”。
微細なズレ。
ほんのわずかな遅延。
現実と、構造の“噛み合わなさ”。
「……修正、したよな」
ユウが呟く。
「……はい」
スライムが答える。
「ですが——」
一瞬、言葉を選ぶように間が空く。
「“何を修正したか”が、残っていません」
沈黙。
ユウは、笑った。
静かに。
だが確実に。
「なるほどな」
理解した。
「“いい感じに直した”つもりで——」
空を見上げる。
「壊したか」
その瞬間。
視界の端に、“ノイズ”が走る。
人が、ブレる。
建物が、一瞬だけ歪む。
ミアの輪郭が、ほんの一瞬——
“別の何か”に変わる。
「……見えてる」
ユウが呟く。
「何が?」
ミアは気づいていない。
普通だ。
完全に。
だが——
ユウには見える。
この世界が、“一枚じゃない”ことが。
「ユウ」
スライムが低く言う。
「この世界——」
一瞬の間。
「“安定していません”」
風が止まる。
遠くの王都が、わずかに“ズレる”。
存在している位置が、ほんの少しだけ違う。
「……バグってるな」
ユウは小さく笑う。
だが。
その目は、楽しそうだった。
「いいじゃん」
むしろ。
「壊れてる方が、奪いやすい」
そのとき。
空が、裂けた。
音もなく。
唐突に。
その裂け目の向こうから——
“同じユウ”が、こちらを見ていた。
「……は?」
さすがに、初めて驚く。
もう一人のユウが、口を開く。
「それ以上触るな」
低い声。
同じ声。
「この世界、もう限界だ」
沈黙。
ミアは気づいていない。
スライムは、完全に沈黙している。
ユウは——
笑った。
「面白いな」
一歩、前に出る。
「お前も“俺”か」
裂け目の向こうのユウが、静かに答える。
「そうだ」
一拍。
「——お前が壊した“未来”のな」
空気が凍る。
物語は、さらに加速する。
“世界改変”の代償が、牙を剥き始めた。




