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最弱スライムと契約した俺、気づけば全スキルを支配していた~ぷるぷる相棒が実は最強すぎる~  作者: ローナ


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スキルなしと判定された俺、最弱スライムと契約した瞬間すべてが変わった

 目を開けたとき、黒崎ユウは「終電の床」ではなく「石の床」に頬をつけていた。


 冷たい。だが、あの会社の床よりもずっと静かだ。


 鼻に入る匂いも違う。埃と汗と、どこか甘い香り。視界の端で、誰かの靴が動いた。


「起きたか」


 低い声。見上げると、見知らぬ男が腕を組んで立っている。革鎧。腰に剣。コスプレにしては、やけに使い込まれている。


「……ここ、どこですか」


「中央神殿だ。転生者」


 言葉が、やけにすんなり理解できた。


 頭の中が妙にクリアだ。疲労もない。あれだけ毎日残業して、終電で帰る生活をしていたはずなのに、体が軽い。


 軽すぎて、逆に気持ちが悪い。


(……転生者?)


 その単語だけが、妙に重く落ちてくる。


 周囲を見回すと、同じように床に座らされている若者たちが何人もいた。皆、困惑している顔だ。服装もバラバラ。スーツ、私服、学生服。


 共通点は一つ。


 全員、ここにいる理由がわかっていない顔をしている。


「これより“天啓の儀”を行う」


 正面の高台。白いローブの老人が、水晶に手を置いて言った。


「順に前へ出よ。与えられしスキルを確認する」


 ざわめきが広がる。


「やっぱり異世界かよ……」

「マジかよ、チート来る?」

「やった、人生やり直しだ!」


 軽い興奮。安っぽい希望。


 その中で、ユウは一人、冷静だった。


(……期待していいのか、これ)


 期待して、裏切られるのは慣れている。


 どうせ、まただ。


「次」


 名前が呼ばれていく。水晶に手をかざし、光が走り、結果が告げられる。


「《火魔法》」

「《剣術強化》」

「《回復》」


 歓声が上がる。肩を叩き合う音。笑い声。


 いいな、と思う。単純に。


 持っているだけで価値になるもの。評価される理由。


 それが“最初から”あるということ。


「次、黒崎ユウ」


 呼ばれた。


 立ち上がる。足は軽い。妙に現実感がない。


 高台へ上がる。水晶が目の前にある。透明な塊。中で光がゆらゆらと揺れている。


「手を」


 言われるままに、触れた。


 ひんやりとした感触。


 次の瞬間、光が弾けるように広がった。


 おお、と誰かが声を上げる。


 だが、その声はすぐに消えた。


 静寂。


 やけに長い沈黙。


 老人の眉が、わずかに動く。


「……どういうことだ」


 小さく、呟いた。


 嫌な予感が、現実になる瞬間は、いつもこんなふうに静かだ。


「結果を述べよ!」


 別の神官が声を荒げる。


 老人は、ゆっくりと口を開いた。


「黒崎ユウ。スキルは――」


 一拍。


「《なし》」


 笑い声が、遅れて広がった。


「は?」

「なしって何だよ」

「転生者でそれは草」


 耳に入る。だが、遠い。


(ああ、またか)


 胸の奥が、すっと冷える。


 どれだけやっても、最初から“持っている奴”には勝てない。


 あの世界で嫌というほど思い知らされたことを、またここでやるのか。


「次」


 老人は興味を失ったように手を振った。


 それで終わり。


 拍子抜けするほど、あっさりと。


 ユウは高台を降りた。


 誰とも目を合わせない。合わせる必要もない。


 価値がない人間に、視線は向けられない。


 外へ出る。


 空が高い。


 風が吹く。


 知らない世界なのに、やけにリアルだ。


(……どうする)


 答えは簡単だ。


 どうにもならない。


 スキルがない。この世界で、それは致命的だ。


 冒険者にもなれない。雇われても雑用。最悪、奴隷。


(詰みだな)


 そう結論づけた、そのとき。


「本当に?」


 声がした。


 足元から。


 ぷるん。


 何かが揺れている。


 青い。


 透明な、ゼリーの塊。


「……スライム?」


「その通り」


 間違いなく、今、返事をした。


 口はない。目もない。なのに、声だけがはっきりと届く。


「ただし、“ただの”ではない」


 ぷるん、と誇らしげに揺れる。


「君、“スキルなし”だったな」


「……見てたのか」


「観測していた」


 言い回しが妙に硬い。


「正確には、“なし”ではない」


「は?」


「“空欄”だ」


 その言葉に、引っかかる。


「……何が違う」


「大きく違う。“なし”は終わり。“空欄”は始まり」


 スライムは、ゆっくりと近づいてくる。


 逃げようと思えば逃げられる距離。だが、不思議と足は動かなかった。


「契約しよう」


「急だな」


「合理的な提案だ。君は何も持っていない。私は多くを持っている」


「……見た目はそう見えないけどな」


「見た目はノイズだ。本質を見ろ」


 ぷる、と震える。


「私は“スキルを扱う”存在だ」


 心臓が、わずかに強く打つ。


「扱う?」


「解析、保存、書き込み。要するに、編集だ」


 言っていることが、突飛すぎる。


 だが、なぜか嘘だとは思えなかった。


「君と契約すれば、“コピー”が使える」


「コピー……」


「触れた対象のスキルを読み取り、君に書き込む」


 一瞬、言葉を失う。


「……それって」


「奪う、と言い換えてもいい」


 その言葉は、妙にしっくり来た。


 ずっと、奪われる側だった。


 時間も、評価も、成果も。


 誰かに取られて、何も残らない。


 だったら。


「奪う側になる、か」


 スライムが、わずかに弾んだ。


「契約するか?」


 考えるまでもない。


 どうせ、何もない。


 なら、何でもいい。掴めるなら。


「する」


 短く答える。


 次の瞬間。


 スライムが光を放った。


 視界が白く染まる。


 頭の奥に、何かが流れ込んでくる。


 情報。感覚。理解。


 言葉が、自然に浮かぶ。


 ――《コピー》取得


 息を吸う。


 世界が、少しだけ違って見えた。


「契約完了」


 スライムが、満足げに揺れる。


「これで君は、“空欄”に書き込める」


「……実感はないけどな」


「すぐにわかる」


 その言葉の直後。


 ガサリ、と音がした。


 草むらが揺れる。


 低い唸り声。


 灰色の狼が姿を現した。


 鋭い牙。低い姿勢。明らかに、こちらを獲物として見ている。


「おい、初戦がそれは——」


「問題ない」


 スライムは即答した。


「触れろ」


「簡単に言うなよ」


「最適解だ」


 距離が詰まる。


 狼が地面を蹴る。


 一瞬で、目の前。


(やるしかない)


 体が勝手に動く。


 ギリギリで避ける。腕を伸ばす。


 触れた。


 その瞬間。


 ビリッ、とした衝撃。


 頭の中に、何かが刻まれる。


 ――《俊敏》解析完了


 視界が、変わる。


 世界が、遅くなる。


 狼の動きが、線で見える。


(見える……!)


 足が軽い。


 一歩で距離を取る。二歩で回り込む。


 気づけば、背後。


「……マジかよ」


 落ちていた石を掴む。


 振りかぶる。


 振り下ろす。


 鈍い音。


 狼が崩れ落ちた。


 静かだ。


 風の音だけが、残る。


「確認。コピー成功」


 スライムが言う。


「それが君の力だ」


 手を見る。


 震えている。


 恐怖じゃない。


 これは、興奮だ。


 初めてだ。


 自分が“上に立った”感覚。


「……悪くない」


 口元が、少しだけ歪む。


「だろう」


 スライムが、得意げに揺れる。


「君は何も持っていない。だから、何でも持てる」


 その言葉は、さっきよりもずっと重く、現実的に響いた。


 空欄。


 書き込める余白。


 そこに、何を入れるかは——


「全部だな」


 呟く。


「全部、もらう」


 スライムが、小さく弾んだ。


「了解。最適化を開始する」


 風が吹く。


 空は高い。


 さっきまでの絶望が、嘘みたいに薄れていく。


 代わりに、別のものが満ちてくる。


 可能性。


 そして——


 少しだけの、悪意。


「行くか」


「どこへ?」


「決まってるだろ」


 ユウは、町の方を見た。


 さっきまで自分を“なし”と笑っていた場所。


「取り返しに」


 スライムが、静かに揺れる。


「訂正。取り返す、ではない」


「?」


「奪う、だ」


 その言葉に、ユウは笑った。


 小さく、しかし確かに。


「ああ、そうだな」


 もう、“持っていない側”ではない。


 これからは——


 奪う側だ。

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