番外 冒険者とヤマトナデシコ 1
「……なぁ、最近の噂、知ってるか?」
ここはラケルの冒険者ギルド、時刻は昼前。
通常、冒険者は朝に、その日張り出される依頼を確認し、自分の適性に合うものを選んで受注する。
もちろん、割のいい依頼から無くなっていく。今の時間だと、残って居るのは常駐依頼か、少し難のある依頼だ。緊急依頼などは、時間を問わず張り出されるが、その案件はまれだ。
「噂だぁ?……もうけ話なら、是非聞きたいね…」
冒険者ギルドには、冒険者に格安で食事を提供している食堂が併設される。
依頼帰りで報告を終えた者が利用したり、遠出の前に軽食を済ませたい冒険者達の憩いの場所だ。
実は街からも援助金が出ていて、その日暮らしの冒険者の助けにもなっている。
その利用者は、現在三人。荒くれ二人に魔法使い風の者、三人とも男だ。
「……確か、不思議な二人組の話ですか?」
彼らのランクはC。
冒険者としては、駆け出しを卒業し、魔物との戦闘を数回経験した辺りの実力だ。
そして、彼らはパーティではない。所謂ソロ冒険者だ。
時にどこかのパーティに混ざったり、日雇いの雑用をこなすソロ冒険者は以外と多い。
農村の出稼ぎや、パーティの解散した後、次のパーティが決まらなかったりと事情は様々だ。
そんな中で、数度顔を合わせればもう知り合いだ。
挨拶も交わすし、一緒に飯を食うこともある。
「そうそう。何でも、黒髪の男女で、アーテナイ様と喧嘩して勝ったとか」
「ん?さすらいの料理人じゃなかったか?…あの屋台のマークの『仮面の達人』の弟子とか」
「運良く金鉱脈を発見して、そのせいで商人に絡まれてるって聞きましたけど?」
「………凄まじい尾ひれだな」
「もう、背びれも生えてるだろ」
「生えてるのは羽かも知れませんね」
「「それだ」」
三人とも全部本当だとは思っていない。あと、本当にツバサも生えてることも知らない。
彼らは、一度も闘技場に行っていない。入場料は彼らにはハードルが高かった。
そして、最終日は宴会で余って安売りされた酒で潰れ、日がな一日宿屋の世話になっていた。
その後は、鉱山の日雇い鉱夫や荷物運びで日銭を稼ぐ。そんな生活を続けていた。
先ほどの噂も、酒の席で赤ら顔のドワーフから聞いたもので、半分も信じていなかった。
まさか、自分たちがこの街の少数派、ヤマトナデシコを全く知らない、数少ない者だとは知るよしもない。
「それで、その噂がどうしたんです?」
「あれ、見てみろよ」
「あん?」
黒髪の男女が居た。二人とも若い。女の方はえらく美人で、男の方は杖らしきものを腰に下げている。着ている者は質が良く、育ちのいいことが分かる。二人で回りを見回している。
ご存じ、ヤマトナデシコである。
「まぁ、噂の二人ではないのでしょうが…」
噂の二人である。
「ぱっと見、強そうにも見えないしな」
魔力の強弱を見分けるには、非凡な才能かある程度鍛錬が必要で、Cランクの彼らはまだその段階にいない。
「どこぞの坊ちゃん嬢ちゃんが『冒険者ごっこ』にでも来たのか?……どれ、ちょっと『先輩』が案内してやろうかな?」
食べ終えた男が、ニヤけて立ち上がる。
冒険者登録のみをして、ろくに依頼をこなさず失効すること。
それを冒険者達は『冒険者ごっこ』と呼んで揶揄する。
強面の冒険者に声を掛けられれば、逃げ出すものもいる。
ギルド側も、余計な登録作業がなくなる為、見逃しているところがある。
そして、絡まれても逃げないなら、根性ありとして本当に案内する。
軽い時間つぶしと、酒の席でのネタ仕入れだ。
「トラブルにはならないでくださいね?」
「ほどほどにな」
「分かってる分かってる」
少しのからかいでも、ムキになって食ってかかるものも居るので、決して褒められた行為ではない。
現に、Bランクでこれを行う者はおらず、Aランクだと事前に察して行う者を止めるような行為だ。
この日、冒険者ギルドに運が悪かった者がいる。それは誰か。すぐに分かることになる。
その前に、なぜ冒険者ギルドにヤマトナデシコの二人が来たのか、それは少し時を遡る。
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「うわっ、私達の貯金多すぎ…?」
「俺以外に拾えないボケやめてね?イヤミにも聞こえるからさ」
銀行口座を確認した帰り道、口元を隠してナデシコがボケてきた。
随分古いネタだ、分かる人居るのか?
「ラケルからの大金って、料理対決とトカゲ討伐、それから鉱脈発見の謝礼よね?後は……」
「ソースはオープンソース、公開して無料利用可能にしたしな。その後、偽物も出たけど」
「オープンソースって単語をソースに使うとはやるわね」
「そーっすね」
「ルート3点」
平方根を知らない者には理解出来ない採点だった。
「冗談は置いといて、やっぱり『アレ』ね」
「……アーテナイさまぬいぐるみ、だよな」
通称『ぬいさま』。ラケルの皆には子供からお年寄りまで大人気だ。
「一過性にしても随分売れたわよね」
「売れすぎたな」
「私達の取り分が売上の5パーセントだっけ?」
「受け取りを拒否したら怒られたやつ」
「貯金合わせたら『あっち』だと車が買えるわね。それも高級車」
「高校生が持っていい額じゃねぇな」
以前計算した、王都での生活費、滞在期間が延びたので流石に出すようにしたラケルでの生活費、旅費も十分稼げている。もしもの時の貯金としても、十分以上だろう。
誕生日プレゼントとして受け取る予定の装備品の料金を払うか。いや、それは逆に職人達を怒らせるかもしれない。お酒でも差し入れしよう。
「贅沢な悩みね」
「しかし、俺達が使う予定もない金持ってると、経済が滞るだよなぁ」
「あ、おじいちゃんの言葉」
金は使ってこそ、金を死蔵するな。
など、ナデシコの祖父は俺達が小学生の頃から言っていた。思えば、随分早くから経済学もどきを習っていた。
尊敬出来る人物だ。その発言が、新しい骨董品を買ってナデシコの祖母から怒られた後でなければ、もっと。
「そうだ。コホン……私にいい考えがある。ついてきたまえ」
「大丈夫なんですか、ナデシコ指令」
今はコソボイより、オプティマス何某の方が通りがいいのだろうか。悩みどころだ。
とりあえず、ナデシコについて行くことにした。
『実績:冒険者ギルドへの訪問』が解除されました。




