48.かの地より、友を思う
『…いいわ。私達からも二つの話があるわ。ヤマト、まずはアーテナイの質問に答えて』
ナデシコは選んだ。俺より、少しだけ照れくさいその選択を。
『ああ。二つの質問だが、実はどちらも同じ理由だ。答えは、再現性』
俺は、アーテナイに応える。真っ直ぐに目を見てブレないように。
『再現性?もう一度、作れるか………。まさか…!』
アーテナイは口の中で繰り返して、自力で答えに達したようだ。答え合わせを行う。
『そう、これはレシピさえ知れば、普通の家庭で作れる味だ。多少の手間と、今は一般的でない調味料は使うがな。ぶっちゃけ、そこも各家庭でアレンジしても面白いものが出来ると思う』
今の具材は3つ。好みで具材を足したり、肉とタマネギだけにしても旨い。
醤油とみりんの代わりに、スパイスを使えば、いつか『カレー』にだってたどり着くかもしれない。
実を言えば、最初に考えついたのはカレーだったのだが、スパイスの比率など分かるはずも無く。
流石に家庭科レベルを超えていたので断念。
言わば、「カレーを作ろうとして肉じゃが」になったのだ。
『……ラケルにアンタらの、「ラケル煮」を根付かせるつもりだったってのかい?』
『まぁな。だから、魔力も、二度と手に入らない様な材料も使うつもりが無かったんじゃない、使えなかったんだ。……アーテナイを倒した料理が家で作れるんだ、みんな真似するし、家庭料理として難しくても、料理屋のメニュー隅にでも残れば御の字さ』
『なんで、そんな目標に…?』
困惑気味なアーテナイ。それに答えるのは、ナデシコの役目だ。
ナデシコに目線をやれば、ナデシコは頭を少し掻いて、一歩前へ。
『それが私達にとって自慢だからよ。この都市と出会えたことがね』
頼れるものなんて何もない世界に二人だけ、そんな時に出会えたのが、この都市の人々だ。
みんないい人だった。だから、そんな都市の片隅に
『…………料理だけでも残りたかったのよ。アーテナイ、あなたが作ったこの都市に…』
顔は、少しだけ赤い。だが、その対面のアーナイはもっと酷い、耳まで真っ赤だ。
『……は、はあ!?』
『あー!だから言いたくなかったのに!…いいよく聞きなさい!絶対二度と言わないから!私達は、この街を近いうちに出て行って…来れなくなる…』
それが俺達の目標だ。果たすべき願いだ。だけど、
『私達はこの都市もアーテナイを絶対忘れない!でも、アーテナイにとっては、昨日会った生意気なガキでしょ!?しかも不老不死!いつか……私達を忘れる……』
この世界の人たちの中から消えてしまうのは、寂しい。
『でも、そんな時、アンタは「ラケル煮」を食べるの!そしたら、私達に負けた事を思い出すってわけ!ざまあみろ、っての!私だけ、私達だけ、一生覚えてるなんてそんな不公平許さないから!』
思い出してほしい。生意気でガキな俺達を。
ふとした拍子でも、この都市で、喧嘩して、一緒に笑って、世話をした俺達を。
『美味しい料理を根付かせる?違うわね、この都市に刻むのは、アンタの負け!みんなが美味しいって顔してるとき、アーテナイは苦い顔をしてなさいな!……そうしたら、誰かが尋ねて、私達の話をするでしょ?』
ナデシコは、俺は、かってにだけど、一度喧嘩したら友達だと思っている。思ってしまう。
友達に忘れられるなんて……、喧嘩ぱやい、お節介焼きで、どこか抜けてる、
『忘れないでなんて、呪いだわ。…………だから、思い出してよね……アーテナイ』
強くて、優しい、大好きな友達に忘れられるなんて、嫌だ。
『この、大馬鹿が…!』
大きな腕で、抱きしめられた。二人まとめでだ。痛くはなかった。とても温かった。
『回りくどい!面倒くさい!生意気!……そんな、アンタらを忘れるもんかい…』
『『アーテナイ…』』
『それに、アタシが思い出すのは…ラケル煮を食べて思い出すのは、そんな生意気なガキ共を負かしてやって、大笑いした記憶さ。…だから、アンタ達はこの都市に、ずっとずっと残るのさ、笑い話のタネとしてね。……例え、アタシになにかあっても、……アタシと一緒にね』
アーテナイは、俺達を放した。屈んで俺達に目線を合わせる。その目は潤んでいる。
『うん、でも勝つのは私達だから』
『言ったね、勝つのはアタシさ』
二人とも笑顔だ。そして、きっと俺もそうだ。
『『『さあ、気を取り直して審査を……』』』
『『『『………出来るか、ボケェ!!』』』』
アメリアちゃん以外の審査員の合唱だった。…………なぜ?
『いやいや、無理無理、重い、重いわよ!この後に審査しろなんて、正気なの!?』
リニー、アーテナイに敬語を忘れる。
『酷いよ!これ、どっちを勝ちって言っても、ボク達が悪者になるよね!?』
ベン、理不尽を訴える。
『というか、この空気どうするんですか、観客席、ハンカチで涙拭いてますよ!?』
実況、困惑する。
『胃が、……胃が痛いです。あんなに優しい味だったのに…』
解説、胃薬の追加購入決定。
『うーん、どっちも美味しかったから、引き分けでいいとおもう』
アメリアちゃん、適当な審査。
「なにかしら、この……なに?」
仮面の達人こと、シャーロットさん、コメント不能。
こうして、ラケルの街に一つの名物料理と、人情話が生まれたのだが、後にこんな題にて書に纏められた。
『ラケル煮とそのアレンジ100選~伝説と引き分けたグルメの作り方~』
その書には、多少誇張された俺達とアーテナイの話が冒頭に面白おかしく載り、飲み屋や家庭で語られたという。
もちろん、俺達には預かり知らないことだ。
というか、知っても即、記憶から消す。
でも、今日の記憶は、きっとなんども思い出だす。
IF、審査が行われていたら、どちらに投票したか
リニー:ヤマトとナデシコ
理由:数日間の滞在で肉の串焼きにも飽きていて、野菜料理が嬉しかった
ベン:アーテナイ
理由:パフォーマンスと肉そのものの味を評価
実況:アーテナイ
理由:いつもの飲んでいる度数の強い酒に合うので
シェーヌ:ヤマトとナデシコ
理由:新調味料の発見や、新たな名物になり得る調理法を評価




