260.番外 貴族令嬢とヤマトナデシコ 完
ゾーイ達とのお茶会から数日たった。
あの後は、昼食を何度か食べたりと、気兼ねのない友達付き合いを続けている。
すでに俺のポケットにはあの時のハンカチがあるが、その口実はもう不要だろう。
そして今日は、報告会兼、お茶会の腕前のご披露ということで、『エサルカ城』でお茶会を主催した。
招待客は、教師を含む『若葉組』一同とネリーとフルリス、お茶会の師匠であるルスィスさんも今日は席に着いて貰っている。。
座席割りは、大人組と子供組を分けた。
そして、ライリー、イザベラ、メグは現在、メイド服装備のナデシコがもてなしているのだが…。
「それで、仲良くなってからは、王都の化粧品とか一緒に見に行ったんだ。……アタシ達とはまだ行ってないくせに…」
「わたくし達とは出来ない大人の付き合い、というやつですの?」
「正直、面白くありませんね」
「わ、悪かったって……」
三方向からのジト目に、ナデシコはいつもの強気はどこへやら。まるで三人の令嬢から意地悪をされてる無辜のメイドだ。
ちなみに、それぞれのお気に入りはライリーはサンドイッチ、イザベラはパウンドケーキ、メグはクッキーだ。
だが、三人の機嫌を直したのは、この後ナデシコが交わした小さな約束だという。
当日は俺も荷物持ちに呼ばれることになるのだが、この話はまたの機会に。
一方、今の俺はと言えば、従者服での淑女の皆様への奉仕活動真っ最中。
「厳しい夏の暑さのなか、本日も業務に励まれる皆様のお姿を拝見しておりました。
乾いた喉と日々の疲れを優しく癒やす、特製の水出し茶でございます。午後のひととき、私どものもてなしで、少しでもお疲れが解けますように」
「いいでしょう。お茶の味含め、合格点です」
言葉をくれたのはルスィスさんのみ、他のエマ先生、ネリー、フルリスは口を開いているし、ユディット先生は考え込んでしまった。
「……ふむ、キミ達は目を少し離すと面白い事になる、ね。…恐らく、マインドセット、特定の条件下で決まった言動を取れるような訓練の結果だろう、ね。…怪しいのは、いつもより締められたタイ、かな?」
「えーい!」
ユディット先生の分析の後、ネリーが俺の首元に手を伸ばし、タイを解く。
「何すんだよ、ネリー」
「あ、戻りましたね」
「…もう少し、見ていたかった気も…なんでもありません」
エマ先生はほっと一息をつき、フルリスは目を逸らしてお茶を啜った。
「……さて、事の次第はあらかた聞いた後だが、一つ問おう。…無論、担任教師としてではなく、極めて個人的問いかけだ。
…貴族や王族は、貴族という仕組みが身近に無くなって久しいキミの目にはどう映ったか、な?」
貴族。俺達の友人曰く、面倒くさい。元女王ネリー曰く、頑張り屋。
数多くの『説明』を受け、その情報を元に『分析』し、実際に会って会話もした。
その上で、俺が答えを出すなら…。
「…ひとまとめにするのはもったいないな。色んなやつがいるし」
プライドが高い。悩みがある。努力家。誇り高い。負けず嫌い。意外と乙女。怒りっぽい。身長で弄られるのが嫌。ゾーイたった一人でこれだけの面を持つ。サイコロなんか目じゃない。
それも、俺が見ただけという極めて限定的な視点でだ。
「だから、貴族とか王族なんてのは、その人が持ってるいろんな面の中の、たった一つでしか無いんじゃないか?
ああ、もちろん。その一面にかける本気度、っていうか背負ってる比重は人によるだろうけど」
嫌なやつもいるだろう。そんなやつと付き合いがあれば、貴族は面倒くさいと思うだろう。
頑張ってるやつもいるだろう。その頑張りを知っていれば、頑張り屋と呼ぶだろう。
横柄な態度を取ってくる嫌なやつに見えても、それはなにか事情があるのかもしれない。
例えば、男に慣れてなかったのに強がってしまった、とかな。
「……ふむ、それもまた一つの見方だ、ね」
「私は、それ以上に大切なものを見つけました」
「…おや、それは興味深い、な」
「か、顔が近いです…!ユディット様…!」
そこには、丸付けも訂正も無かった。ただの茶飲み話なのだろう、ユディット先生にとっては。
しかし、エマ先生に対してはどこか食い気味だった。
「わたしは大切だと思うけど、家族の方が好き!」
「私は…今は一番大切ですね。王都のエルフ皆、家族ですので」
「お支えします、フルリス様」
自由な元女王と現役女王も俺を咎めるつもりはないようだ。お茶会の師匠も、此度は不問、ということで有難い。
「……さて、後はルスィスくんがお茶の世話をやってくれるだろう。…学生同士の交流に戻るといい。
…ワタシの予想だと、そろそろ売り言葉に買い言葉、というやつで…」
ユディット先生の解説の途中だったが、そこにもう一つのテーブルからの声が割って入った。
「だから!アタシ達ともっと遊びなさいって言ってるの!」
「上等よ!どこに行くか勝負で決める!?」
「ライリー、お姉様…!ここ『エサルカ城』でしてよ…!」
「なるほど、審判はお任せください」
「いや止めろよ!イザベラ!」
なにやら、今日も賑やかになりそうだった。俺は事態の収拾を図るために駆け出した。
「……ふむ、一足遅かった。…予想を超えられるのは、楽しい体験だ、ね」
俺の背後からは、大人達の零れた笑い声と、マイペースにお茶を啜る音が聞こえていた。
―――貴族令嬢とヤマトナデシコ 完
これにて番外編終了です。
王都は書いていて楽しく、またいつか短編を書きたいと思っています。
次回は、【『赤ノ章』登場人物。ステータス、赤ノ章時点のネタバレあり】になります。




