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【学園編佳境】異世界快進劇 ヤマトナデシコ ~超人カップルにとって、異世界転移は旅行同然!帰るまでが旅行です~【現:二章六節】  作者: 沢クリム
『緑ノ章 愛歌のロニア』 第五節 捧げる練習曲

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187.剣と刀。絡め手。

 


「手合わせ、といっても真剣勝負ではなく練習試合です。適度に、行いましょう」

「受けて立ちます」


 庭に呼び出された俺が挑まれたのは、三本勝負。

 武器は木剣と木刀。

 防具は無し、身体強化無し、急所への攻撃無し、付与可、降参か武器を地に落とせば負け。


 イングリットさんも元々パンツルックで動きやすい服装だった。上着を脱ぎ、剣帯と木剣を準備したのみだ。

 俺もベストを脱いだだけで準備は完了した。


「着物、お預かりします。兄上」

「ああ、ありがとう。イザベラ」

「…ご武運を」


 イザベラに荷物とベストを預ける。イザベラからの応援に何か答えようとしたが、その余裕は無くなった。

 再び、圧が、イングリットさん曰く気がこちらに向いたのが分かった。


「お互いに準備が整ったようですね」

「はい」


 木剣を腰に帯剣したイングリットさんと対峙した時、感じた印象は鞘に収められた真剣だった。

 今は抑えられていても、研ぎ澄まれたものの気配が漏れ出ているような威圧を感じていた。


「イザベラ、合図をお願いします。それから、よく見ているように」

「はい。母上」


 イザベラを審判に見立て対峙し、俺が木刀を、イングリットさんが木剣を構えた。


 俺が取るのは正眼の構え、相手の出方が分からない以上、まずは見る為の受けの姿勢。

 突きと打ち込み、どちらにも派生出来る。相手から見れば攻めにくい姿勢の筈だ。


 イングリットさんも木剣で中段の構えを取る。体重を乗せた一閃を繰り出せる攻めの構えだ。イザベラもよく同じ構えを取る。

 この構えはまず、初太刀で決着を決めることも可能な一撃を放つ。相手が回避しても切り上げの追撃、受けられても蹴り等の体術に派生する厄介な構えだ。


「…母上、兄上。三本勝負、一本目を始めます。よろしいですね?」

「ええ」

「…ああ」

「それでは、……始め!」


 ジュッ、という庭草が擦れる音が耳に届くと同時に、目の前にイングリットさんが居た。

 目は離して居ない、はずだ。しかし、その踏み込みは時間が飛んだような感覚さえしたほどだった。


 だが、剣に対する反応は間に合った。

 右からの打ち下ろし、即ち右袈裟斬り。身体は避けられる、しかしイングリットさん狙いは最初から木刀だった。


 ――――カンッ!


 木剣と木刀、魔力の付与により強化されたそれは、甲高い衝突音を奏でる。俺の手に痺れがくる。


 アーテナイとの鍛錬、受ければ即ち負けの重い一撃をなんども受けた。

 だが、重さで言えばそれほどではないイングリットさんの一撃は、ひたすらに鋭い。


 故に、流せる。


 俺はその剣と打ち合わない。手首の力を抜き、一歩踏む込む。打たれた木刀が倒れる勢いまで借りて。

 そのまま身体を翻し、反撃を打ち込もうとして、ふと気付く、木刀が手の中に無い。


「そこまで!!」


 木刀が空を舞っている。


「……!?」

「まずは一本、ですね」


 俺の漏らした息と、木刀が地面に突き立つのは同時。目の前のイングリットさんは、剣を振り上げた姿勢から自然な構えに戻った。


 最初の手合わせ、その一本目は、その結果は決定的な敗北で幕を閉じた。



「母上、今の技は…」

「今は勝負の最中。後で教えましょう」

「…すみませんでした」


 イザベラの興味深げな問いも、イングリットさんは切り捨てた。ユディット先生なら中断して、細かく解説し始めてたかもな。

 そして、俺はその間に剣を拾い、再び構えた。


「ヤマトくんは、あまり驚かれないのですね?」

「今は勝負の最中、なんで」

「…そうでしたね」


 動揺がない訳では無い。だが技に関しては、知っている技だった。

 巻き技。剣道の剣技だ。円の動きで剣を絡め取り、相手の手から落とす技。

 俺の手の痺れ、衝撃を逃がすことまで読んで、力が抜けた一瞬の内に絡め取られたのだ。


 イザベラの剣術はこういった絡め手はない。それにイザベラが質問をしていたということは、まだ教えていない、という事だろう。


「……すぅ…ハァー」


 深く息を吸い、吐く。

 おそらく、アレは警告だ。受けに回ればこうなるという。

 攻めるしかない。技量は相手が圧倒的、早さも魔力無しだとあちらに分がある。

 しかし、背丈や筋力では勝っているはずだ。

 では、スタミナはどうだ?付与魔法の工夫は?


 目の前で、イングリットさんが構えた。先ほどと同じ構えだ。

 思考を中断し、目の前に集中する。


「二本目、……始め!」


 開始と同時に、切り上げと同時に踏み込む。

 先ほどのイングリットさんは、踏み込んでから、切りつけてきた。

 だったら、こちらは踏み込みと切りつけを同時にやらないと追いつかない。


 ――――カッ!


「…ほぅ…捉えましたか」

「…くっ!」


 衝突の音は先ほどより軽い音だった。そう、俺の攻撃は受け止められている。

 切り上げと、打ち下ろし。態勢も不利。徐々に押し込まれる。


 だが、ここではっきりと分かった。

 筋力の差は体勢が互角ならやや俺の上、そして、魔力量。


 そう、魔力なら俺が上だ!


 木刀に込めるのは斬ると言う意志、斬撃特性付与。

 俺ごと押しつぶされそうだった木刀が、少しだけ木剣に食い込んだ。


「斬るッ!」


 木刀を引く、押し上げるのでもなく、逃がすのでも無く、自分へ引き戻す運動だ。

 木刀と木剣の間に、火花が散った。否、正しくはその火花を散らしたのは木剣のみ。


「そこまで!!」


 木剣は半ばから斬られ、地に落ち、庭に草を揺らした。


 二本目、勝者は俺だ。



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