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にこにこしながらアルバードと屋敷周辺を散歩しつつ、薬草に適した場所を探していく。
「こうやって散歩して気づきましたが、この屋敷周辺……いえ、ヘルマン領って魔力が強い土地なんですね」
以前来た時には気づかなったが、
「魔力が湧き出やすい土地なんですよ。そういう土地は魔力を帯びた植物が育ちやすくて、豊かなんですが、同時に魔物も湧き出やすくなっていて、他国も欲しがって侵略しようとしてくる」
いい事ばかりではないのですよとアルバード様が説明する。
「大変ですね」
これからその大変な事態に自分も巻き込まれるんだなと思っていたら。
「守る事は壊すよりも難しいと聞いたことあります」
壊すのは一瞬だが、守るのはずっと続けないといけないし、守られ続けるとそれが当たり前になって気が緩む。それが油断になってしまう。
慢心して、いつ守られていたものが壊されるか分からない。
「ええ。そうです。だからこそ余計に誰かを怪我させ殺してしまう攻撃魔法よりも誰かを守れる結界を作れる術師や治癒能力者はすごいと思うんですよ」
だから尊敬してますと目を見て告げられて恥ずかしくなる。
「……俺の噂は聞いてます?」
どこか不安げな声。
噂……。
「鬼とか悪魔というものですか……?」
ここに嫁ぐ前に妹(?)に言われた。可哀そうにという言葉と裏腹な面白がる愉悦の笑みを浮かべて。
「ああ。ヘルマン家はありとあらゆるものから国を守る存在として、前線に立たないといけない。うちのジジ……祖父は若い頃は俺に似ていたようだが、俺よりも綺麗な顔立ちで、舐められやすかったそうだ」
俺よりも綺麗な顔立ち……と言われてじっとアルバード様を見る。
アルバード様はよく見ると綺麗な顔立ちをしている。赤らめていたり、恥ずかしかっている様ばかり見ているとそんな印象はないが、そう。
(黙っていると綺麗だなと見とれそうな……)
黙ってじっと見られたらその顔立ちもあって、一般兵だと思わなかっただろう。
「元ご当主様が……。そういえば、お爺さまと呼んでほしいと言われました」
「………………そうか」
その長い沈黙は何だろう。
「だが、祖父は魔力はすごく豊富で、今までなかった新しい魔法も開発して、舐めて掛かる者すべてにいっそ殺してくれという恐怖を与えたんだ」
「そ、それは………すごいですね」
いったい何を行ったんだ。
「で、そんな祖父曰く。”舐められると敵はいくらでも湧いてくる。無駄に犠牲を増やしたくないのなら死んだほうがましと思わせる恐怖と圧倒的な力の差を見せつけて、あえて生かして、戦意を根本から破壊した方がいい”と」
敵を殺したらそれを理由に新たな火種を作ろうとするが、生かして、もう侵略したくないという本能の恐れを生み出したらそれが領地を守る事に繋がる。
だからこそ、敵に恐れられる噂は多くあった方がいい。
「現に父が当主を継いだら、敵が攻めてくるのが増えたそうで……、まあ、すぐに壊滅させましたが」
引継ぎの時が一番大変なんですよと説明されて苦笑いを浮かべる。
「なので、対外的に噂を流して、あと、継いだ時にあったごたごたを片付けたら悪魔とか鬼と言われるようになりまして、印象が悪くなっていないかと……」
不安げに尋ねられて。
「大変ですね」
と言葉を返す。きっと怖くないかと聞こうとしたのだろうが、怖いとは思わないし。
「教会で、すっごく怖い神官様がいたんです」
聖女候補のみんな怖がって、レイチェルすら避けていた。
聖女候補。神官候補に厳しく教えて、よく怒っている人だったが、
「誰かに好かれるように優しくするのは楽ですけど、誰かのためを思って嫌われ役を行う……叱れる人の方が実は貴重なのですよ」
優しくされれば甘えてしまい、どんどん惰性が生まれる。だけど、厳しくされれば頑張らないといけないと思ってできる事が増える。
「叱りすぎて萎縮してしまう人もいますが、私は叱ってくれて、叱られないように頑張っている方がよかったですね。で、ある日褒められるとそれがすっごく嬉しくてますます頑張ろうと思えるんですよ」
だから。
「アルバード様がみんなのために嫌われ役をやれるのはすごい事ですよ」
だから怖くないと伝えると。
「参ったな……」
苦笑い。
何か悪い事でも言ったかと不安になると。
「こっちが貴女に嫌われないように好きになってもらおうと努力しているのにカティアさんはそんなのお構いなしでますます惚れさせるような事を言ってくるから。いつまでも好きになってもらえない」
どうしたら貴女に好きになってもらえるんだろうと弱音を吐かれて。
「………世間一般では」
そんな弱音を吐いているところが可愛らしいなと思いつつ。
「普段しっかりしている人が自分の前だけ弱音を吐いてくれるところにキュンってくるそうですよ」
とドキマキしながら告げると。
「なら、カティアさんもキュンってしてくれましたか?」
とこちらを窺ってくるので、その様にノックアウトされそうになりながら。
「そっ、ソウデスネ……。キュンってなりました……」
顔が熱い。ヘルマン領に来てからずっとこうで心臓が持たないと顔を赤らめて降参してしまう。
もうすでに好きになっているだろうなと思うが、まだ確信が持てないのでそれを伝えずにアルバード様の顔を正視すると恥ずかしいのか顔を見ないように目を逸らすのであった。




