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【外伝】青い鳥

実はまだ会っていないなと思って会わせてみた。

 妊娠が発覚した時もともと愛の重い夫であったアルバード様は妊婦に負担を掛けないようにとありとあらゆる書物を取り寄せて、助産婦さんとか医者とかに出産経験者にいろいろ教わってきて、過度に大切にし続けるのではなく程よい運動も必要だとしっかり学んで協力をしてくれたからかつわりもひどくなく、陣痛の時もてきぱきと動いてくれて支えてくれた。


 そんな事で出産ももっと大変だと思ったけど、そこまで辛くなく。正直、聖女候補だった時に無理やり治癒魔法を引き出す時の方がきつかったと思い出話のつもりで告げた時にアルバード様の表情が笑っているのに笑っていない気がしたが、まあ、気のせいだろう。


 生まれた女の子は私の名前のカティアとアルバード様の名前からアルティアと付けられた。


「アルティアは今日もご機嫌だな。カティアさんにそっくりな美人さんになるな」

 にこにこと結局さん付けが取れなかったアルバード様はベビーベッドからアルティアを抱き上げてあやしている。

 このベビーベッドは先々代領主であったお爺さま(と呼ぶように言われた)の亡くなった奥様が考え出した代物でベッドの上には子供の興味を引くように回転するおもちゃ付きのオルゴールが取り付けてある。

 ヘルマン領に来てからオルゴールとかチャイルドシートとかベビーカーとか便利な物を知って、まだ台数は少ないけど、その内レンタルで領民がすぐに使える環境を整えたいと言っていた。


 亡くなった前前領主の奥方の遺言の一つだそうだ。他にも遺言というか実行したかった計画書があり、それを叶えるまで絶対黄泉路に行かないとお爺さまは頑張っているとか。


 よく分からないが、その方は異世界人だったとか。

 異世界って本当にあるんですねと聞いた時驚いたものだ。


 で、いいお父さんぶりを発揮しているアルバード様の元に出産祝いとしてたくさんの贈り物を持ってきた()()()()()()()()()と名乗る人が訪ねに来た。


「何しに来たんだ。クリス」

 やや不機嫌そうに、それでいて、不快気ではなく感じ……歓迎は出来ないけど、追い出そうともしないくらい親しい方なんだろうか。


「忙しいだろう。お前」

 あら、ガラの悪いアルバード様だわ。けして自分の前では出してくれない様にドキドキしてしまうのはあまり見られない様が新鮮だからだろう。


「忙しいけど、息抜き位させてくれ。後、お前たちを祝う時間ぐらいあってもいいだろう」

 それが駄目だと言うのなら継ぐの断るぞと愚痴めいた事を告げているとアルバード様は溜息一つ吐き、

「……………仕方ないな。カティアさんに話し掛けなければ許す」

「おい、それじゃあ、土産話でお前の武勇伝教えれないだろう!!」

「武勇伝だけ話すのは許す。でも、椅子二つ挟んで会話しろ」

「相変わらず愛が重いな……」

 そんな事を言いながらも納得している様に付き合い長いのか深いんだろうなと感じ取れる。


「カティアさん。こいつはクリストファー・ブルーバード・ワイズ。一応親友です」

「一応って、まあ、親友って言ってもらえた分マシか」

「初めまして、カティア・ヘルマンと………」

 言いかけて止まった。


 ワイズという苗字は、王族のみ許された苗字だと思い出したのだ。正確には王と王妃と王太子。そして、成人前の王のご子息のみ――。


 つまり、この方は王族!! しかもどう見ても成人しているからして、王太子だ。


「………っ」

 どうしようどう対応すればいい。挨拶は正しかっただろうかと不安になって少し前の自分の挨拶を思い出そうとする。


「カティアさんがお前の対応に困っているからさっさと帰れ」

「だったらお前がフォローすれば。頼れる夫ぶりを見せてやればますます好かれるだろう」

「っ⁉ そうだなっ!!」

 王族を追い出そうとするアルバード様に、そんな切り返しをする多分…いや、絶対王太子のクリストファー様。


「名字で正体はばれたけど、ワイズの名字を使うようになったのは最近だから普通にクリスと呼んでくれていいよ。言いにくいならブルーバードでも。そっちの方が呼ばれ慣れているし」

 ブルーバード様の青い髪が揺れる。束ねる事なく腰まで伸ばしたその髪はまるでおとぎ話に出てくる青い鳥を彷彿させる。


「ブルーバード公爵令息なんですよ。で、王族の末端だったのに結界術と補助魔法が優れていて、次期王に選ばれたんです」

 アルバード様が説明する。


「そうなんですね………ああ。そういえば、王族は桁外れの魔力と結界術で外敵から国を守る立場だとか」

 聖女が王太子に嫁ぐのはその防衛の観点からだと言われている。聖女教育で学んできた。


 時折、年齢とか諸々で聖女と結婚できなかった王太子もいるが、聖女であれば身分問わない。


「じゃあ、レイチェルの嫁ぐ相手だったんですね……」

 と呟くとなぜか二人は苦笑していた。


「まあね。はぁ~。さっさと結婚出来ると思っていた俺が相手が見つからないのに、結婚出来ないだろうなと思われていたアルがさっさと結婚して、子供までいるなんて思わなかったよ」

「それは俺も思ったが、運がよかったんだな」

 にこやかにアルバードが告げると。

「運。ねえ……」

 と何か言いたげな視線を向ける。


「あ~。止め止め。気分転換に来たんだからその話題は終了!!」

 と頭を振って無理やり話を断ち切る。


「………お茶の用意を。クリス。さっさと座れ」

 とアルバード様は質のいいソファを顎で指し示す。なぜ顎でやるかと言えば今両腕にはアルティアがいまだ抱っこされているからだ。


「悪いな」

 本当は追い出されてもおかしくないと思いつつの訪問だったのだろう。どこかほっとしたような口調で、ソファに座ろうとした矢先だった。

「あ~あ~」

 がしっ

 抱っこされていたアルティアが長いクリストファー様の髪の毛を思いっきり掴んだ。


「きゃあっ♪」

 掴んで嬉しそうに歓声を上げるアルティア。


「えっと……どうしよう……」

 髪の毛を解こうとすれば解けるが、アルティアが泣くだろうと思って気を遣ってくれる様に好感が持てる。まあ、あくまで夫の友人的な意味での好感だが。


「……鋏ないかな」

「えっ? ただいまっ」

 いきなり言い出したクリストファー様の声に侍女が動いて鋏を持ってくる。


 ちょきんっ

 躊躇う事もなく鋏で自分の髪を切り落としてアルティアにあげてしまう。


「ヘルマンの執着に抵抗するのもね」

「さすが、ヘルマンの血を引いてるだけあるな……」

 理解しているなと感心しているアルバード様とそのアルバード様に抱っこされて嬉しそうに髪の毛で遊んでいるアルティア。


 でも、どこか不満げなのは気のせいだろうか。

「…………」

 娘のその様を見て、近い将来とんでもない事を言い出しそうな気がしたが、その頃にはヘルマン家の愛の重さに慣れてしまうだろうから柔軟に対応できるかもしれないとどこか予感めいたものを感じた。



「お母様!! わたくしはクリス様に嫁ぎたいので聖女修業します!!」

 年齢一桁の娘が言い出すのは数年後――。

ブルーバードの名前の由来とかいろいろあるけど、それは今回を触れない。

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