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テンプレに挑戦した結果
ヘルマン領では今日も魔物が出現する。
「ひぃぃぃぃ!!」
怯えているのは観光客のみで領民は今日も平穏だ。
「大丈夫ですよ」
そんな観光客に声を掛けながら怪我人の治癒をする。
「私の夫がすぐに倒してくれますから」
今回の魔物はサイクロプスだと報告があった。普通なら手ごわい相手だろうが、
(でも大丈夫)
だって、私の夫はあっという間に仕留めて戻ってくるだろうから。
「さて、怪我人は居ますか?」
他の観光客を見渡しながら次々と治療していく。
「聖女様………」
サイクロプスによって壊された建物の下敷きになって大怪我をした人を治療したらそう拝まれてしまう。
「いいえ」
温泉が湧き出ているのが発見され、魔力が回復するのを知った人たちが療養目的で来るようになったのだが、魔物が暴れて怪我をする人を治療するたびにそんな事を言われるのは困りものだ。
確かに治癒魔法が使えるがそれも温泉の力で回復させているからに過ぎないし、それに。
「私はただの領主夫人ですよ」
元聖女候補だった時よりも誇らしげに告げる。
聖女はレイチェルだ。正式な聖女になった彼女は王太子と結婚するはずだったが、すべき事があるからと婚約の話をお断りして、その生涯を神と国に尽くすと発表されて美談になった。
やはり、レイチェルは素晴らしい。私が聖女になれないのも当然だ。
あれからいろいろあった。まず、実家のレイヴンに凶事が続いたそうだ。もともと、私が神殿に入っている間に実家に神殿からお給金が送られていたのを着服していたという事実が発覚したそうだ。
それから、領民からの税を規定より多めに取っていた実家だが、聖女候補の家が行ったという事で今までは国も強く出られなかった。私が聖女候補から外れてヘルマン家に嫁いだ事でようやく監査が入れるようになり、その結果、領地は没収という流れになったとの事。
もともと婿養子であった父が浮気してできた子供に継承権を譲ろうとしていた事で発覚したともあった。
その際私の昔持っていた品は返されたが、私はそれらに併せて、ヘルマン領で作った薬草と共にお金に換えて生活に苦しんでいるレイヴン領の民に使ってくださいとお願いした。
僅かなお金では足りないのは理解しているが、生活苦にあえいでいたのを知らなかった自分の罪を償いたかった。
レイヴン領は今は政府預かりになっているが、そのうちに誰か優秀な人に貴族籍を与えて継いでもらうか。私の子供が二人以上できたらその子供が次期レイヴンになるかもしれないとの事だ。
かつて親友の証として贈られた腕輪は今も国のために力を尽くしているレイチェルの親友と名乗るに相応しくないと思ったので同じようにお金に換えた。もっともかなり貴重な品だったので国に売る事になったのだが。
そんな元家族は妹が病気になったとの事で今は田舎で療養しているそうだ。
お見舞いに行った方がいいかもしれないが、一度しか会った事ない妹だ。どう声を掛けていいのか分からないし、きっとほぼ他人である私に会っても気を遣って休めないだろうと旦那様に止められた。
妹はともかく父と父の愛人は分からない。でもどこかで罪を償っているのだろう。
そして、私はヘルマン領で聖女候補時代に学んだ事を実践して薬草を育て、魔力回復薬などを作る事業の責任者になっている。
はっきり言って私がするには重い仕事だが、頑張っている。
まだまだ微々たるものだが、いつか領民の皆を幸せにしようと努力するだけだ。でも、それよりも。
「カティアさん!!」
今討伐完了しましたと返り血で全身を染めて手を振ってくる夫の姿が見える。
「もう、返り血を拭いてから来てください!! 皆びっくりするでしょう。後、そろそろさん付けはやめてください」
子供が困ってしまいますよ。
そう告げると。
「すみません。討伐してすぐにカティアさんに逢いた……。えっ、今、なんて………」
驚いて目を白黒させている夫が可愛いと返り血で真っ赤に染まっていて第三者から見たら怖い光景なのにそんな事を思うのは恋は盲目という現象だからだろうか。
結婚して一緒に居るとどんどん恋心がふくらんで恐ろしい事になってしまうなと今の生活が幸せすぎて困ってしまうと贅沢な悩みを抱きつつ。
「ええ。最近体調悪かったので診てもらったら三か月だそうです」
と告げた矢先に夫に抱き上げられて振り回される。
「ありがとう。ありがとうカティアさん」
嬉しそうにくるくる回る夫を見つめて、
(それは私の言葉ですよ)
と回っているので直接答えられないので心で告げる。
聖女候補じゃなくなった自分の価値が分からなくて不安だったのを夫がたくさんの愛で埋めてくれた。
そんなあなたに逢えたから。
領民よりも先に私が………。
(聖女じゃなくても愛されて幸せになれました)
「奥方は身重なんですからね。そんな事をして身体に負担になったらどうするんですかっ⁉」
「す…すまない……」
「奥方も奥方です!! そうなるのは分かっていたのですから事前に止めておかないと駄目じゃないですか!!」
「ご……ごめんなさい……」
聖女じゃない(と自分で思い込んでいる)が(愛が重い人に溺愛されて)幸せになりました




