第9話 魔術師
---アレン目線---
俺はテントを組み立てた後、焚き火の前に座って、皆が寝静まるのを待った。
俺達の周りを囲っている人達は、今もこちらを観察して様子を伺っている。
十分時間がたち皆が寝静まったころ、俺は立ち上がり、森の中へ移動した。
こいつらが近くにいると、俺の出番が無くなるからだ。
もしアリスが起きてしまい、敵の事を感知してしまうと、一人で片付けてしまうだろう。
ということで、皆にバレることがないように、静かに森の中へ入っていった。
夜風は気持ちがいいが、やはり夜の森は不気味だな。
そんなことを思いながら能力を発動させた。
《能力『空間知覚』の制限を解除します。》
またしても世界が無色の3D構造になった。
ふむふむ。
敵は動き始めたようだな。
ん?
全員こっちに来ていないか?
《その通りです。》
まじか。
別に全員じゃなくても良かったんだけどな。
ただ数人頂ければ良かったんだけど……
まぁ大丈夫だろう。
なんとかなるさ…… 多分。
俺は元の視界に戻した。
それから少しの間歩いて、敵が俺をしっかり視認できる距離まで待った。
はぐれて迷子になってもらっても困る。
そろそろいいかな。
そうして俺は敵がついてこれる速さで走り始めた。
《能力『空間知覚』で解析。周囲七名の加速を確認。》
よし。
ちゃんとついてきている。
俺はできるだけ守護者達から離れるようにした。
夜の森を駆け抜ける。
風が気持ちいい。
目の前に現れる木々を華麗にかわす。
どこか開けた場所ある?
《200メートル直進した先にあります。》
ありがとう。
ここか。
ザッ
俺は足を止めた。
《周囲に七名。囲まれました。》
問題ない。
あ、今回は知覚に必要な能力以外使わないから。
《了解しました。能力『並列思考』をスリープモードに移行します。》
よし。
イリスに頼らず自分で知覚の能力は操れるようにしておかないとね。
今回は能力『空間知覚』だけを使う。
暇な時にたまに空間知覚の拡大は行っていた。
だから視界は操れるだろう。
だが、今回はイリスがいないから、知覚速度を上昇させることが出来ない。
つまり人間と同じ動体視力で、攻撃をかわさないといけない。
けれど、俺の身体は人間ではない。
俺の体に神経はあるのか知らないが、神経があるのならば運動神経はとても優秀だ。
体は軽く、思った通りにスムーズに動く。
ってわけで最終確認だ。
正面にはやはりギルドで出会った、ムキムキの男がいた。
そしてもう一人リュックを背負った細身の男だ。
やっぱこいつらか。
そっちが最初に手を出してきたのに……
これが新人狩りか。
右手には剣を持った剣士と、盾と剣を持った戦士がいる。
左手も同じだ。
後ろには紫色のローブを着ており、フードを深くかぶった男がいる。
身長と同じ長さほどの木製の杖を持っており、先端の曲がった部分の中心には、赤い石のようなものがあり、薄らと赤く光っている。
魔術師のような格好だ。
魔術師ならばレア職業だろう。
強いと思っておいた方が良さそうだ。
俺は超ヤバくなったら、能力を全て使って逃げる気でいる。
本当に最終の最終手段だが。
「なんか言ったらどうだ? びびって何も言えないか。ハハハハハ。
お前の仲間はここにはいないからな。」
目の前にいる筋肉ムキムキ野郎が何か言っている。
「――大丈夫だよ。」
「ハハハハハ。お前強がりだな。そうか、お前初心者だもんな。俺達の事は知らないんだったな。俺達は全員Bランク以上のパーティでまぁまぁ名が知られてるんだわ。新人狩りって言ってな。」
ここにいる全員がBランク以上なのか。
なら目の前にいる筋肉もBランク以上……
人間の冒険者の中では強い方なのだろう。
それをザックはあんなにも華麗に美しくクールに倒したのか。
イケてるおっさんなことだ。
Bランク以上のパーティということは、AかSランクがいるという事か。
恐らく、後ろのローブを着た者だろう。
魔法攻撃とはどんなものか知りたいものだ。
ところで、相手はザックにやられているにも関わらず、お鼻が高いな。
彼らに何かいい作戦でもあるのだろうか。
万が一の為に油断などはしないが、勝てる気しかしない。
こう思っているやつほど、だいたいやられるのだけどね。
「物騒な名前だね。それより俺に何の用事?」
「そうだな。お前には他の奴らとの交渉材料になってもらおう。」
俺が交渉材料?
俺が弱い奴だと判断されたのだろうか。
確かにギルドでは守られただけだからそう捉えられてもおかしくない。
「俺が交渉材料か、交渉して何が欲しいんだ?」
「お前らの持ってる物全てだよ。」
持っているもの全て?
それはつまり全てか?
服を脱げと言われたら俺は終わりだ。
なんだその銀ピカボディーわ!
ってなる。
それはかなりまずい。
俺にとって服はとても大事なものなのだ。
「俺らを裸にさせる気か?」
「それもいいな。女の服は貰っとくか。可愛い女の子が着てた服は特定の奴に売れば高く売れるからな。まぁ俺らの宝にするかもしれないが。」
女の服だけか。
こいつ変態だな。
俺らの宝にするかも?
はい。
もうお前は変態筋肉犯罪者確定。
女性陣がこれを聞けば、死刑判決が即下されるだろう。
だが、俺は別に殺すつもりはない。
法律により10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金、
またはその両方を科すだけだ。
ピピピピ、ピピピピ、ノーモア下着泥棒。
というかこの世界にも可愛い女の子の服を高額買取するやつはいるんだな。
全世界共通か。
「そんな事したら、女性達にボコボコにされるぞ。」
「あぁ? お前本当にBランク舐めてるな。まぁいい、ランクの違い教えてやるよ。」
いや、ホントのホントなんだけどな……
こいつらが死んでもらっても困る。
殺人パーティにはならぬぞ。
こいつらには負けてもらわなければ。
「そうかもしれない。じゃあそのランクの違い――教えてよ。」
俺は片足を軽く後ろに引き、腕を構え、戦闘姿勢をとった。
「ククク。なめた奴だな。そうゆう奴よくいるんだよな。相手の力量が分からないで大口叩くやつ。教えてやるよ。――」
笑っていた顔が真顔になった。
「やれ。」
そのかけ声で右と左からそれぞれ二人、計四人が地面を蹴った。
その全員は剣を構えている。
俺はそれぞれの動きを観察した。
タイミング良く体をひねり、振りかざされた剣をミリ単位でかわす。
立て続けに攻撃が来るが、サイドステップをふみ、これも難なくかわす。
前世の俺にこのような局面があったならば、簡単に死んでいるだろう。
一対一ならば分からないが。
絶え間なく剣による攻撃がくるが、必死にかわした。
素早い素振りで威力も強い。
まじかでBランクの実力を体験することができた。
これは十分な収穫だ。
「なるほど。分かった。」
Bランクの実力は分かったので、反撃に出ることにした。
軽く足を踏み込み右手で真正面にいる男の腹を殴り、その勢いで右肘を右手側にいる敵の横腹をえぐった。そして左手側の男の腹を殴った。
その三人はそれぞれ軽く飛んでいき、戦闘不能となり、地面に倒れた。
四人の内の最後の一人はその景色を見て怒ったのだろうか、声をあげながら斬りかかってきた。
俺は素早くその男の隣に移動し、振り下ろされた剣をかわした。
そして右手で腹を殴った。
あ、力入れすぎた。
殴られた男はくの字になり、後方の木まで飛んでいってぶつかった。
し、死んでいないよな…… こ、殺しはしたくないので、力には気をつけよう。
前方の二人は驚いて目を丸くし固まっていた。
俺も自分が殺人者になってしまったのかと思い、頭が真っ白になっていた。
少しして目の前にいる筋肉は、我に返った。
「お、おい。回復させろ。」
「…………」
「おい!」
「……あっ……すみません。」
急いで後ろに飛ばされた男の元にかけよって、手をかざし、聖魔法をかけた。
「神聖回復。」
男の体が薄く光った。
治癒の魔法か?
こいつも魔術師か?
そんなことより頼む頼む頼む。
死んでいないでくれ。
「傷は治りましたが、気絶したままです。」
「そうか。」
死んでいなくて良かった…… なんだか急に疲れがどっと出た感じだ。
もし殺してしまっていたら取り返しなんて出来ない。
自分の力は前世とは全く違うものだと再確認した。
だが、まだ三人の敵が残っている。
俺が一番気になっているのは、後ろに立っている魔術師だ。
前方にいる筋肉には興味はない。
隣の聖魔術を使える者は気になる。
まぁまずは筋肉を気絶させよう。
そう思い、前方二人との距離を詰めるために足を踏み込んだ。
だが、
「まって。」
後ろの魔術師が声を出した。
青年のような若い声だ。
俺は振り向いて魔術師の方向を見た。
「私が相手をする。」
表情はフードで隠れて分からない。
「そうか。あなたは魔術師か?」
「そうだ。私はAランク魔術師だ。」
Aランク。
Bランクの中でも頭一つ抜け出した存在か。
「なるほど。魔術師ってのはレアな職業なんだろ?」
「そうだ。魔法を使えるかどうかは生まれたときに決まると言われている。」
ふむ。
初耳だ。
俺は大丈夫なのだろうか。
ちゃんと魔法を使える才能はあるのだろうか。
ちょっと心配になった。
「才能という事か。さっき治癒をした人は魔術師なのか?」
「そうだ。だが、彼は聖人という方が正しいかもしれない。聖人は聖魔術が使える者がなれる。」
彼は聖人なのか。
いろいろな職業があるものだ。
「あなたは何の属性を操れるんだ?」
「敵に種を明かしてどうする。」
そりゃそうか。
まぁそれはしょうがない。
「じゃあ、そもそも属性は何種類あるんだ?」
「何も知らないのだな。」
「すみませんね。」
「まぁそれぐらいはいいだろう。この世界には基本的に六つの属性の魔法と召喚魔法がある。一つは火霊魔法。火を操る魔法だ。二つ目は水霊魔法。水を操る魔法だ。三つ目は風霊魔法。風を操る魔法だ。四つ目は地霊魔法。大地を操る魔法だ。これらが基本となる四属性だ。」
なるほどなるほど。火、水、風、地か。
「そして特殊な魔法、聖魔法と暗黒魔法がある。」
聖と暗黒か。光と闇って感じだな。
「なるほど。」
「聖魔法は主に人間だけが習得できる魔法。逆に暗黒魔法は主に魔族だけが習得できる魔法だ。」
なるほどなるほど。だから魔族にとってフィーラの聖魔法は貴重なのか。
「なるほどありがとう。一応分かったよ。」
ザックは魔法で落ち葉に火をつけていたし、戦闘でも点火で魔物を倒していた。
加減を変えることで、威力を上げたり下げたりできるようだった。
まぁ彼は火の魔法しか使わないから火霊魔法の魔術師なのだろう。
「理解出来たか。雑な説明だがな。なら勝負といこう。」
そう魔術師は言った。
筋肉とリュックは近くで俺達を見ていた。
もう戦う気は無さそうだ。
「そうだな。でもちょっとまて。」
俺は下に倒れている三人を呆然とたっている男の方へ投げた。
ドス、ドス、ドス
「いいぞ。」
俺はとても魔法というものはどんなものか気になっていた。
ザックの点火はもう見飽きた。
両者は互いを見つめ合い、タイミングを見計らっている。
俺は興奮する気持ちを静めて、冷静になった。
「よし、行くぞ。」
「おう。」
そう俺が言葉を返し、戦闘が始まった。




