九十四 学生、結婚式に出る
四人で山を下りると、ルナに加えてエイブの働きもあり、行きよりもスムーズに山を下りることが出来た。
ドラゴンを倒せて満足げなエイブと、仲良く手を繋ぐデクとルナと町で別れ、俺は一人、魔法学園へと向かった。
道中、家に寄るべきか迷ったが、俺は早く魔法学園に戻ることを優先した。
一週間の道のりを掛けて魔法学園に到着すると、何やら覚悟に満ちた様子の、女装状態のアーカヴィーヴァが俺を出迎えた。
「何でそんなに気合入っているんですか?」
「親に報告した」
・・・・・・は?
「了承も得た」
「嘘でしょ」
「本当だ。勝手にしろと言ってくれた」
それは呆れられてんだよ!
俺は怒りをぶつけるように、どん、と玉手箱を机の上に置いた。
「これは?」
「これは、性転換の秘宝です。恐らく、一度使うと、二度と男性の体には戻れません。だから慎重に考えて、その箱を開けるかどうか」
俺が説明している最中に、アーカヴィーヴァは躊躇なく箱を開けた。蓋を開け、その中を覗いたアーカヴィーヴァは突然叫び出し、彼の全身を光の粒が覆った。
ぱっと見、彼の姿は全く変わっていなかったが、彼はぽんぽんと自分の体に触れた後、当然発狂したように叫び出した。
「とち狂いました?」
「女になった!」
馬鹿な。
「ほら、見て見ろ」
アーカヴィーヴァが服を手で押さえると、確かに胸のあたりが膨らんでいるように見える。
「確かに、姿が変わっている」
しかし、パットを入れているという可能性も、無きにしも非ずでは?だがまあ、アーカヴィーヴァがエウレカエウレカ喜んでいるから別にいいか。
「所で、箱の中身は何なんですか?」
「交尾している雌雄の蛇だった」
うーん、よくわからん。
俺は箱の中身を見ないように箱に蓋をして、紐で厳重に閉じてアーカヴィーヴァの部屋を後にした。
学園長室に向かい、セバスチャンに玉手箱を進呈した。
「私の要望は通りますか?」
セバスチャンが俺に尋ねてきた。こいつもはや、自分が天網のトップであることを隠す気ないぜ。
「まだ聞いていませんが、恐らく大丈夫です」
「では任せます」
後日、ロンとアーカヴィーヴァの結婚式が行われた。・・・・・・魔法学園で。
本来は花嫁の実家で行うのが通例なのだが、稀に魔法学園で出会った二人が結婚する時は、魔法学園で結婚式を執り行うらしい。
しかし、今回はセバスチャンの提案だった。彼はその真意を俺に話はくれなかった。俺も自分なりに考えてみたが、満足のいく結論を得ることは出来なかった。
結婚式の席で、兄を祝福するレンを見ると、彼の視線は、時折ナオミの横にいるルフィに注がれていた。
俺はレンの横に行き声を掛けた。
「次は、レムスの番だよ」
「僕は、相手がいないさ」
「・・・・・・この前、俺とロムルスが話しかけた時、レムスが割って入ったよね」
「・・・・・・こいつは迂闊だった」
「何か理由があるの?」
「・・・・・・向こうには婚約者がいる」
「でも、あくまで「婚約」でしょ」
「結婚は政治だ。気持ちだけじゃどうにもならない」
「ロムルスは気持ちで結婚したじゃないか」
「我が家が特殊なだけだ。相手の家が偶々承諾してくれたのも大きい。・・・・・・彼女の家は、絶対に俺を認めないだろう」
「・・・・・・向こうの相手は、一体誰なんだよ。絶対レムスの方が良いやつだ」
俺はむきになっていた。
「ありがとう。でも、必ずしもそうとは限らないぞ。ルフィの婚約者は、ケルン・ゲルマニア。公爵家の長男だ」
あまりの世間の狭さに、俺は絶句していた。
「・・・・・・彼は、別の人に夢中だ」
「ああ。僕はその隙に潜り込めてしまったネズミに過ぎない。いずれはワシに食われる運命だというのに」
我が家は婚約済みの女性を好きになってしまう業の深い家系の様だ。
「ケルンはエルゼスとくっつくかもしれない」
「エクサゴナル公爵はそれを許さない。わざわざ同じ派閥のノルマン伯爵家を使って逐一監視報告させているようだしな」
「・・・・・・知っていたんだ」
「まあ、そのための噂集め、という意味合いもあるからな」
そうだったのか。知らなかった。
「ルシウス。お前は、くれぐれも、婚約者がいる相手を好きになるなよ」
・・・・・・レンよ、時すでに遅しだ。
ロンとアーカヴィーヴァ、改めアクアは、この結婚を機に魔法学園を去る。俺はほんの少しだけ、彼らのいなくなる寂しさを感じていた。




