九十三 学生、山を下りる
出てきたのは鍋だった。山に登った折昼食を抜かしていたために、俺は無我夢中で野菜や肉を口の中に運んだ。
体力が回復したのか、目が覚めた少し虚ろな様子のエイブも、おいしそうに食事をして、腹がいっぱいになったら再び眠ってしまった。
デクとルナは最初警戒していたものの、俺とエイブが上手そうに食べているのを見て口からよだれをたらし、結果五人で山の様にあった鍋を完食してしまった。
あまりの食べっぷりに、キュウビは嬉しそうに笑っていた。
結局泊まっていくことになり、俺とエイブ、デクとルナで同じ部屋になった。キュウビがデクとルナの部屋にだけ結界を張っているのを見て、俺は思わず尋ねてしまった。
「どうして結界を張ったんですか?」
「防音の結界です。皆様の安眠の為には必要なことと思いまして」
デクって実はいびきがうるさいのかと思いながら俺は自分の部屋に行き、エイブを運んで布団に寝かせた。
まだ眠る気になれなかったので食事をした居間の方へと行くと、ベッドではないことをルナが不満げにキュウビに話していた。泊めてもらう身であるというのに何という横暴さだと思っていると、キュウビが何かをルナの耳元で呟くと、彼女は納得したように部屋に戻っていった。
「おや、ルシウスさん。その後様子だと、まだ眠気が来ていないのでしょうか?」
「はい。どうやら、日中動き過ぎた様で。・・・・・・所で、彼女に何を話していたのですか?」
「何、大した話ではありません。ベッドにはベッドの、布団には布団の利点があると、僭越ながらお伝えさせていただきました。例えば、転がっても落ちる心配がない、というのは、布団の素晴らしい利点の一つです、と。」
あれ? ルナは寝相が悪いのか。それを見抜くなんて、キュウビの観察眼は人並み外れている、いや、獣、化物染みている、というべきなのか、獣だから当たり前と言うべきなのか。
「私、山の上にいる分、人と会う機会が少ないのです。折角の機会ですので、ルシウスさんの眠気がやってくるまで、私とお話などしてもらえませんか?」
「はい、喜んで」
俺はキュウビの向かいの席に座った。キュウビはお茶を俺に出し、俺をそれをすすって一息ついた。
「キュウビさんは、ぶっちゃけ、魔物何ですか?」
「ははは。そこまで直接的に言われるのは久しぶりですね。はい、そうですよ。・・・・・・まあ、私の定義では、人間もサルの魔物何ですけどね」
「確かに、それはそうかもしれませんね」
「おや、この意見に賛同してくださるとは。セフィロス・・・・・・、あ、いえ、セバスチャン以来です。・・・・・・失礼、今のは忘れてください」
「ああ、いえ、俺は彼のセフィロス、という名前を知っていますよ」
「何と。本人が話したのですか?」
「いえ、リンゴちゃんが寝ぼけてセフィロスと呼んでのを聞いてしまって」
「なるほどリンゴちゃん様が。それは、それは」
「キュウビさんは、セバスチャンと古い知り合い何ですか?」
「はい。丁度、百年ほど前のことでしょうか。彼と一緒に学校を作ったんですよ」
「もしかして、魔法学園ですか?」
「はい、そうです。もしや、学園の生徒なのですか?」
「はい」
「これは、素晴らしい」
しかし百年前か。キュウビも随分と長生きなんだなあ。それにしても、あのセバスチャンの研究は、学校創立記念にでも送ったのか? だとしたら随分と迂闊だ。それとも、リンゴちゃんに話すネタになると思って、誰か気付かないかわざと置いているとか。・・・・・・あり得る。やつならあり得る。
そこから、俺とキュウビは魔法学園のことでつい話が弾んでしまい、長話をしてしまった。
「本当に、お世話になりました」
すっかり回復した俺達四人は、キュウビに挨拶をして、山小屋を離れた。
キュウビの姿が遠くなったころ、彼の声が遠くから聞こえた。
「ルシウスさ~ん。今度は、日本の話をいたしましょ~」
・・・・・・日本? 何でキュウビさんは日本のことを知っているんだ? あれ? そう言えば、セバスチャンが、魔法学園の創設者は転生者だとか言っていたような気がする。すっかり忘れていたよそんなこと。
「は~い。今度絶対しましょ~」
俺は大きく手を振って、キュウビさんと別れた。
四人で山を下る途中、何気なく、ドラゴンの死骸がある洞窟の穴の中を覗いた。エイブは疲れ果てており、デクとルナは早く山を下りたがったので、一行が下へと向かう中、俺だけが道を逸れて洞窟の中を覗いたのだ。
そして俺は、自分の目を疑った。
そこに、ドラゴンの死骸が無かったからだ。




