九十 学生、山を目指す
俺はレンと別れた後、すぐさまアーカヴィーヴァの部屋を突撃した。ノックもせずに彼の部屋の扉を開け放つ。
「失礼します」
「えっ!?」
部屋の中には、女装姿のアーカヴィーヴァがいた。俺は彼に詰め寄りながら、早口で捲し立てる。
「ロムルスのプロポーズを受けたって本当ですか?」
彼は俺の勢いに気圧されつつも、「うん」と一言言った。
まじかよ。ちくしょう。・・・・・・いや、この際性別はどうだっていい。
「兄は、貴方の性別を知っているんですか?」
彼は首を横に振った。ナニイッテンノコイツ?
「その、ロン君の勢いに、押されちゃって」
「兄は本気にしていますよ。早く誤解だと言わないと周囲に言いふらしかねない」
「で、でも・・・・・・」
でももだってもじゃないだろう! どう収集つけんだよこれは!?
「俺が女装を止めれば、実質無かったことに」
「今も部屋の中でしている貴方が止められるわけ無いでしょ。どうしてくれるんです。ベッドの中で男だってバレたらどうするんですか?」
「べ、ベッドって」
「こんなの、貴方が女性にでもならないと解決しませんよ」
「・・・・・・じゃ、じゃあ、女になるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「俺、女になる」
覚悟が込められた瞳であった。いや、待て。そういう話じゃない。方法が無いだろ。性転換手術なんてあるはずもないし、性別が変えられる魔法なんて・・・・・・、記憶に、あるぞ?
いや、嘘、まじか。一体どこで。・・・・・・セバスチャンの研究だ。いや、でも確かあれは全部再現不可能な事象だとか。でも百年も経っていれば出来なくもない、か。しかし、セバスチャンに尋ねるのか? 俺消されるんじゃ。いや、でも・・・・・・。
「・・・・・・覚悟はわかりました。俺も対応を考えるので、くれぐれも軽率な行動はしないでくださいね」
俺はそう言い残してアーカヴィーヴァの部屋を出た。そしてそのまま真っ直ぐ、学園長室へと向かった。
きりきりと音が鳴る。胃が縮んでいるのだろうか。俺は苦痛を顔に出さないようにしながら、学園長室に入った。既に学園長はおらず、中にはセバスチャンが一人でいた。
「・・・・・・あの、お話があるのですが」
「何でしょう」
「・・・・・・図書館で、貴方の研究を読みました」
さて、どう出る。セバスチャンを見るが、彼は至って涼しい顔をしていた。
「要件は?」
どうやら、ばれても構わない情報だったのだろうか。
「性転換の術について、教えていただきたいんです」
「ティタノ伯爵家の長男、アーカヴィーヴァ・サマリノのことですか」
俺からセバスチャンにアーカヴィーヴァのことを話したことは無い。やはり、この学園における俺以外の情報収集方法をセバスチャンは持っているんだ。
「いいですよ。ただし、一つ頼まれてください」
次の日、俺はスティヴァレ領へと向かう馬車に揺られていた。セバスチャン曰く、魔法における再現は難しいが、性転換を可能とするものがあるらしい。それはスティヴァレ領の近くにある山の頂上に行けばわかるという。
そこでふと、俺は過去の記憶を思い返す。「山」って、やばい生き物の巣窟なんじゃなかったっけ?
行かなければ良かったと思いつつ、俺は溜息を吐いた。セバスチャンが補助をしてくれる冒険者を手配してくれたらしいので、彼らの能力に期待しよう。
十日近く掛かる旅路を終え、俺はスティヴァレ領内のとある町に着いた。見覚えがあると思ったら、力を使い果たして倒れた俺をデクが運んでくれた町であった。
懐かしい気分に浸っていると、聞き覚えのある声が俺の名前を呼んだ。
「ラック、久しぶり」
「デク、本当に久しぶりだ」
俺はデクと握手を交わした。彼が引く馬車の荷台に、相変わらずお嬢様が乗っている。彼らは一体いつまで一緒に居るのだろうか。結婚しているの? ねえ、白状しちゃいなよ。
勿論そんな気持ちは言葉にしない。
「俺の聞き間違いだといいんだが、ラックお前、「山」に入るんだって?」
「その、通り、です・・・・・・」
はあ、と深い溜息をデクは吐いた。
「お前なあ、いや、俺も組織として依頼されてっから、断れねえんだけども、・・・・・・そもそも、何で「山」何かに行くんだよ」
「それは・・・・・・、せ、秘宝を、探しに、だよ」
「秘宝? 何だそりゃ」
「デク。こいつ、何か隠しているわよ」
お嬢さん、そうはっきりと指摘しないでください。
「頼まれる方に真実を教えないやつは陸でもないやつよ。こんなの放っておきましょ」
「そうはいかんぞ。・・・・・・なあ、歯切れの悪いこと言ってないで、はっきり教えてくれよ。俺とお前の仲じゃねえか」
「・・・・・・性転換の方法を、探してます」
デクもお嬢様も、黙りこくって何も言わなくなった。
「俺が使うわけじゃないからな!」
「わかったわかった。何も言うな」
「貴方、もしかして今まで、デクをそういう目で」
俺が彼らを説得するまで、およそ三十分を要した。三十分後、彼らの顔には同情の色が浮かんでいたが、俺は全くもって腹立たしかった。
「随分難儀な兄貴を持っちまったなあ」
「ま、別に何だっていいけど」
「はいはい。さっさと出発しましょう」
そう自分で言って、ふと考える。
「そちらのお嬢さんも付いて来るんですか?」
「なあに? デクと二人っきりになろうっていうの? やっぱり貴方」
「いや、身を守れるのか心配で」
すると、デクがくっくっくと嬉しそうに笑い出した。
「やっぱ普通はそう思うよな。わかるぞ、ラック。でもなあ、こいつ、俺より強えんだわ」
「え?」
「まあ、ついてくりゃわかるさ」
デクは馬車を宿屋に預け、ウマにお嬢さんを乗せてつかつかと森の中に入っていった。一度入ると戻るのに苦労する結界の先。どう見ても貴族であるお嬢さんは全く恐れる様子も無く、ウマの上にいた。
俺は何も言わず、彼らの後に付いて行った。




