八十 学生、対価を求められる
夕食の席に着くなり、ナオミは不機嫌そうな態度で俺に話しかけてきた。
「レディを待たせるとはいい度胸ね」
言い訳をしておくなら俺達は時間を指定して待ち合わせをしているわけではないし、ナオミの食事を見る限りほとんど減っていないので、恐らく俺は彼女を五分と待たせていない。
しかしナオミが怒っているのは歴とした事実であり、恐らく彼女は食堂に来る前から苛立っていて、俺がナオミより後に来たという事実に付け込んで俺に八つ当たりしているに過ぎない。
「ごめんごめん。今度はちゃんと時間を決めよう」
こういう場合、俺が折れる以外に場を上手く収める方法はない。前世のブラック上司によって鍛えられた理不尽な八つ当たりに対する正しい対処法の一つは、抵抗しないことだ。
「でも、ナオミもこの話を聞いたらきっと驚くと思うんだ。実は、さっき俺たち以外の転生者かもしれない人を見付けてね」
正しい対処法その二、話題を逸らす。
すると、ナオミはわざとらしく大きな長い溜息を吐いた。
「そう露骨に逸らさなくていいから。で? 何か聞きたいことがあったんでしょ?」
うわこっわ、感じ悪。ていうか、ユークレインの話を一応君に話したいことなんですけどナオミさん。
まあいい。さっさと一番に訊きたかったことを訊こう。
「マルセイジュ、ケルン、エルゼスの三人の関係について詳しく聞きたいんだ」
マルセイジュは自身の婚約者であるエルゼスとケルンの密会現場を見た俺に、そのこと黙っているように言ってきた。
俺はマルセイジュの行動の真意がいまいち把握しきれずにいた。
もしマルセイジュがエルゼスとの婚約を破棄したがっている場合。
ケルンとの密会の噂をばらまくか、それをネタに脅しをかければ可能だろう。しかし単に脅すにしても、ある程度の正当性を周囲に認めさせるためにやはり密会の噂は流すべきだ。
しかし現実としては、その噂をばらまくのに最適な俺という人間に敢えて口封じをした。
もしマルセイジュがエルゼスとの婚約を破棄したくない場合。
ケルンの印象を悪くする為に密会の噂を流しつつ、自身はエルゼスとの関係が良好であることを周囲にアピールすればいい。その場合にもやはり、噂を流す人物が必要なのだ。
マルセイジュと全く接点のない俺が噂を流したとなれば信憑性はかなり高いというのに、マルセイジュはそれを利用しようとはしなかった。
無論俺の考えが間違っている可能性を含め、俺はナオミから話を訊いておきたかった。
「ルシウス。私はお前が望む情報を与えてやっても良いと思っている」
なんかこいつ態度でかいぞ。
「でも、その前に私の要求を呑んでください」
「要求って?」
「誰でもいいから恋人作ってよ」
「・・・・・・は?」
「恋人作れ」
急に何言ってんだこいつ。
「まずは理由を聞かせてくれよ」
「・・・・・・今日貴方が私に話しかけた時、一緒に居た女の子覚えてる?」
「君がルフィって呼んでいた?」
「うん。その子が、私と貴方の関係を誤解しちゃって」
「その誤解を解きたいというわけか」
しかし、そんな直ぐに恋人なんぞ出来るわけないやろ。
そう思った瞬間、俺の脳裏にある計画が思いつく。
「恋人は無理だが、偽の恋人なら用意可能だよ」
「本当?」
「ああ、ただし君に頼みがある」
「頼み?」
俺は出来るだけ小声で、ナオミに話しかけた。
「制服貸してくれないか?」
俺の一言に何かを察したのか、彼女はなるほど、という顔をする。
「アンドレ君を女装させるのね」
違うわい。ていうか俺とアンドレそれほど仲良くないからね。
「・・・・・・いや、他に当てがあるんだよ」
俺の頭の中には、自ら女装を志望している男の顔が浮かんでいた。・・・・・・やはりやつは童顔だな。




