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七十八 学生、図書館で出会う

 おいおいおいおい。アーカヴィーヴァの野郎、余計なこと言ってくれちゃって。俺はただでさえ今やるべきことが多いってのによ。

 イズミル・テュルキイェに関する調査。マクマホンの狙いの把握。マルセイジュの密会を覗いていたパパラッチと話していたロバート・コンクェストの動向確認。マルセイジュ、ケルン、エルゼス達の人間関係への対処。そこに加えてアーカヴィーヴァ女装作戦ときた。

 ちくしょう。後ろ二つは俺が掘った墓穴やないかい。

 前世で作業の並行処理を苦手としており上司にこっぴどく叱られた過去を持つ俺にとって、今の状況はどうしようもなく最悪であった。

 まずは一番簡単そうな女装についてだ。こういうのは専門家である女子に訊くのが一番早い。つまりナオミに訊けばいい。はい、おしまい。

 ・・・・・・あれ? そう言えば俺、ナオミが私服着ていたり化粧していたりする所見たことないぞ。

 いや、エルトリアの部屋に入った時、化粧水や乳液の様なものがあったことは把握しているだろうから、この世界にもスキンケアなる概念があることは間違いないのだが、口紅を付けたりファンデーションを塗ったりしている女性はこの十五年間一度も見たことがない。もしかして化粧という概念がないのか?

 確かに異世界の人は前世に比べれば皆顔立ちは整っているが、え、まじでないの? 化粧まじでないの?

 しかも着飾る服平民のナオミが持ってない可能性の方が高いじゃん。あれ、やばくね。そう言えばこの世界カツラもないじゃん。やばいやばいやばい。いきなり万事休すじゃね。

 再び混乱の渦の中に飲み込まれていた俺は、目の前に壁が迫っていることに気付かずものの見事に激突した。

 そしてその痛烈な衝撃によって、少しだけ正気を取り戻すことが出来た。

 服は制服でいいし、髪を伸ばせればアーカヴィーヴァの顔なら化粧なくても大丈夫だろ。カツラが無くても魔法で髪を生やせるかもしれない。

 すらすらと打開のアイディアが湧いて来て、俺はふと思った。

 今、自分の精神状態がかなり不安定であると。

 どこかで冷静にならないとなあ。

 俺はそんなことを考えながら、髪を伸ばす魔法が無いか調べるために図書館へと向かった。



 調べてみると、意外に簡単に髪を伸ばす魔法が見つかった。簡単な原理の説明としては、頭皮の時間だけを早送りにするというものの様だ。

 何でそんなことが出来るのか全く分からないが、以前エルトリアが持っていて時を遅くする魔道具のことを考えれば、魔法はある程度の時間操作が可能の様だ。

 髪を伸ばす魔法の歴史は長く、ある時、髪型を自由に変えたい女王の要望を叶えるために国家総出で研究が行われたらしい。

 デメリットとしては、剥げやすくなったり白髪になりやすかったりと、要は頭皮だけ早く老けるらしい。しかも魔法が上手く発動できないと、髪の毛全てが抜けてしまうのだとか。それは、毛根一本一本を膜で包んで、閉鎖環境の無生物と定義出来る状態にしないと時間操作は原理的に不可能なのだが、その過程で幕の閉じ方に失敗すると髪の毛を頭皮から分離してしまう様なのだ。

 かなり精密な魔法の制御が求められる高難度の魔法ということだ。これ扱える人間魔法学園の中にいるのかな。

 早く調べ物が終わり、ナオミとの夕食までまだ時間があるので、ついでにイズミルに関する何か手掛かりでもと思い、俺は歴史書を紐解いた。

 無論本に答えの様なものが乗っているとは思わないが、先祖代々の因縁云々という可能性に少しだけ期待していたからだ。

 ナオミ自身はイズミルのルートをプレイしたことがないらしいので、こればかりは地道に調べていくしかない。

 やはり、無難なところはレンなどの貴族に関する噂に詳しい人物に訊くか、またはパパラッチに直接調べてもらうかの二択だろう。

 考えながら適当にパラパラとページを捲っている俺に、天井から声が降ってきた。

「何か調べものですか?」

 もしかして神様だろうか。

ふと上を見上げると、制服に身を包んだ男生徒が、高い位置にある本を取るための移動式の階段の上に座っていた。

「はい。少し知りたいことがありまして」

「自慢ではありませんが、少しだけ歴史には詳しいという自負があります。差し支えなければ、何が知りたいのか俺に教えていただけませんか?」

 正直に話していいものかと一瞬悩みはしたが、魔法学園は表向きとしては研究機関であるが、実態は政治とお見合いの場。貴族が他家のことを知りたがることは不思議なことではない。しかし、派閥というものを考慮すると、迂闊にどの貴族のことを調べている、などとばらすのは適切ではない。

「あの、名前を教えてもらえませんか?」

「ユ・・・・・・、ユヅル・バロン・ホイップです」

 ホイップ? そんな美味しそうな名前の男爵家があったとは。

「俺はルシウス・イタロスです」

「よろしくルシウス。それで、君は何を知りたいのですか?」

男爵家ならばまあ、別に、アレを話してしまっても構わんのだろう。

「実は、王家に関して知りたいなと思いまして」

「第三王子のスコット様のことですか?」

「はい。スコット様のことを含めて、王家のこと全般です。私自身養子という身で、この国に関する知識が乏しいものですから。我が家名に泥を塗らないようにと思いまして」

「そう言うことでしたら、まずはこの国の成り立ちから話しましょう。長い話になりそうですが、大丈夫ですか?」

「この後に約束があるので、時間が来るまで聞かせてください」

 俺達は話をする為に一旦図書館を抜け、中庭のベンチに座った。ユヅルは一度咳払いをすると、堰を切ったようにこの国の成り立ちを語り出した。


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