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七十七 学生、混乱する

 自分の思い通りに事が運んでいると思っていた矢先、自分の行いの思わぬ皺寄せによってとんでもない修羅場に巻き込まれてしまった。ひどく衝撃を受けた貴方はSAN値チェックです。〈1/1d3〉・・・・・・。

 そんなアナウンスを脳内に響かせていることからお察しの通り、俺は混乱の淵に居た。そんな時、偶然目に留まったナオミに藁にも縋る思い出しがみついた。

「ナオミ~~~」

「え、なに、どうした?」

 ナオミは状況がつかめず戸惑っていた。彼女の目線はちらちらと隣の女生徒へと向けられており、混乱している俺の視線も自然にその方向に誘導されていた。

 いかにも庶民、女子高生という雰囲気のあるナオミとは対照的に、その女生徒は一見しただけでお嬢様という印象を抱く女性であった。

 一年間共に魔法学園で学んではいたが、俺はナオミの交友関係をほとんど知らなかった。というのも、最初の頃の彼女に対する調査で分かったことは異性との関りのみであったし、俺とナオミが会って話すことと言えば、ほとんど前世の記憶に関わってくることなので、必然的に俺とナオミが会う時は他の人間を避けていたからだ。

 つまり、俺は今ナオミの隣に居る女生徒のことを一切知らなかった。前世の記憶があるとはいえ乙女ゲームのヒロイン補正が掛かっている彼女に同性の友人がいることは意外であったし、何より一見した印象が百八十度異なる友人というのはそれだけで興味を引く存在である。

 そんな少女に気を取られている内に俺は少しずつ正気を取り戻していた。

「な、駄目だよ! ルフィちゃんはあげないから」

 俺が隣の女生徒に気を取られていることに気付いたのか、俺の視野の中でナオミがぶんぶん手を振り回して視界を遮って来た。

「とりゃしないって。それよりナオミ。少し話良いか?」

「────────駄目」

 即答ですかい。

「じゃあ、夕食の時に話を出来ないか?」

「それならいいよ」

「わかった。じゃあ」

 そう言って、俺は直ぐにその場を立ち去った。恐らく、ルフィと呼ばれた女生徒は、ナオミにとって大切な友人なのだろう。その友人との仲を邪魔されたくないと思うのは、至極当然なことだ。

 ・・・・・・しかし、ナオミはルフィと夕食を共に取る約束を元々していなかったみたいだ。ひょっとするとひょっとしなくても、ルフィは魔法学園の食堂で夕食を食べない部類の人間ということになるのか、もしくは平民と共に食事をしていると悪い噂が立ってしまうような部類の人間ということになる。そこから察するに、ルフィの家はかなり位の高い家柄なのではないだろうか。

 この一年魔法学園で過ごし、この学び舎に通う貴族、特に伯爵位以上の家と人間の名前はそれなりに覚えてきたつもりであったが、俺の記憶の中にルフィと呼ばれる少女は一人も存在しなかった。

 彼女は一体誰なのだろう。

 そんなことを考えながら校舎の廊下を歩いていると、突然呼び止められた。

 まさかマルセイジュか?

 そう思いながら振り返るが、そこに居たのはマルセイジュではなく、アーカヴィーヴァ・サマリノであった。

「ルシウス・イタロス。今、時間はあるか?」

 俺は昨晩のマクマホンの一件を思い出しながら、アーカヴィーヴァの誘いに乗った。



 魔法学園の新学期二日目にして、攻略対象との出会いイベントをことごとく潰されたヒロインよりも遥に濃密な時間を過ごしているような気がしなくもない俺は、数年ぶりのアーカヴィーヴァとの会話に緊張を覚えていた。

 というのも、彼が何をどこまで覚えているのか、俺は全く把握していなかったからだ。

 とりあえず昨晩のことを思い出す限り、アーカヴィーヴァがマクマホンのことを覚えていないことだけは間違いなかった。

 その他に、アーカヴィーヴァ・サマリノという人間のプロフィールはある程度把握している。一言で言って、結婚相手を探すために魔法学園に来たがエルトリアのことが忘れられずに未だ浮いた話の一つもない男である。

 つまり、恋愛の話は地雷だ。

 そのことだけに注意しながら、俺はアーカヴィーヴァが何を聞いて来るのか注意深く待っていた。まあ、恐らく内容はマクマホンに関することだろうが。

「昨晩の件なんだが、俺に話しかけてきた男、俺自身は全く身に覚えが無かったんだが、貴様は誰か知っているような風であったが?」

 やはりか。しかし、何をどこまで話すべきか。一般にはイタロス家の別荘炎上はドラゴンの仕業ということになっているから、その事件の背後にマクマホンがいた、などとは口が裂けても話すことが出来ない。それに下手に話をして、アーカヴィーヴァの記憶の扉が開いてしまうなんてことが起こるかもしれない。もしそうなったら、最悪アーカヴィーヴァは自害して、サマリノ家は御家取り潰しになるだろう。

 そうならないようにする為に、ここは俺が最善を尽くさなければならない。

「はい。やつは近頃王都に出没していると噂の、貴族を狙った誘拐犯でして」

 俺のすっからかんの引き出しの中から選ばれた最善策は、道化を演じることであった。

「それはつまり、その誘拐犯が俺をナンパしてきたということか?」

 アーカヴィーヴァの言葉に、昨晩のマクマホンの言葉を思い出す。

“私のことを、覚えていないのですか?”

 確かに。「あれ、俺達どこかで会ったことない?」とか「僕のこと覚えていませんか?」はナンパでよく使われる挨拶の一種ではある。

「まあ、恐らくそうだと思います」

 俺がふざけ半分でそう言った瞬間、アーカヴィーヴァの怒りが瞬間湯沸かし器の様にあっという間に頂点に達し、彼は力任せに地団駄を踏んだ。

「俺は女じゃねえ!」

 そんな大声出さないで。まだ童顔気にしてたのかよ。

 俺は怒り狂うアーカヴィーヴァから少しずつ後ずさりをしながら、改めて彼の顔を観察してみる。

 もしアーカヴィーヴァが髪を伸ばしたらと想像すると、じっと見つめても男と見破れる猛者は少数の様な気がした。というのも、アーカヴィーヴァは十九歳にしてのどぼとけが全くと言っていいほど出ていないし、顔の輪郭も丸くて角張っていない。よく見れば睫毛も長いし、女装すればナオミよりはナオミやヘレナとため張れるのでは、などとつい思ってしまった。

 そんな俺の思考を直感的に読み取ったのか、アーカヴィーヴァが俺を睨んできた。

「貴様今、何か失礼なことを考えなかったか」

「いえまさか。そんなに容姿を気になされるのであれば、一度女装をして現実を見て見れば良いと思いまして」

「俺に女の格好をしろと言うのか!」

「はい。そうすれば。自身が男である、という証左が如実に表れるかと思いまして」

 いいえ、そんなことは思っていません。完全に面白がっているだけです。

 しかし、俺の言葉を聞いて、アーカヴィーヴァは考えるような素振りを見せた。

「一理あるな。貴様、準備は任せたぞ」

 そう言い残して、アーカヴィーヴァは去っていった。一人取り残された俺は、まじかよ、と誰も聞いてくれない呟きを漏らした。


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