六十二 学生、プロポーズの場面に出くわす
一部変更しました。2020/4/29
「ほら、後継ぎは基本的に、成人したらずっと家に居なくてはならなくなるじゃないか。しかし、魔法学年に行けば最低五年間は、同年代に友人を作って楽しく生活できると思っていたんだ。しかし蓋を開けてみれば一年で追い出される始末だ。全く、嫌になるよ」
俺の中の硬派な大天才のイメージが崩れていくぞ。あれれ~、おかしいぞ。
「学生生活は本当に貴重だから。ルシウス君が心の底から楽しめることを祈っているよ」
同窓会で学生生活を振り返るおっさんみたいなことを言い出したぞ。シモン、あんたまだ十八だろ? 老成するには早すぎる。
「肝に銘じておきます」
意外と楽しい人なのかもしれない。レンの話でも聞いてみようかな。
「やはり、魔法学園と言えば、恋の話が王道だと思うのだが、ルシウス君はそういう話に興味はないかい?」
兄貴ぃ。そいつは地雷ですぜい。
「ロムルスに関するものでしたら、一つありますよ」
俺は自分の恋の話を全力で回避した。
「それはぜひ聞きたいな」
後でロンに恨まれることを覚悟で、俺の知る限りのロンとナオミの話をした。
夕食、ささやかな成人の祝い。家族全員がようやく揃ったということもあり、旦那様は嬉しそうな顔を隠していなかった。
養子の話を聞くまでの十三年間、こんな光景が現実のものになるとは、夢にも思わなかった。前世の食卓でも、家族全員が揃ったことなど無かったのだから。
これは夢なのかもしれない。
そう思ってしまう程、嬉しかった。・・・・・・こりゃ、旦那様のことをあーだこーだとは言えないな。
その日の夜。興奮が冷めやらず、俺は直ぐに寝付くことが出来なかった。体を起こした俺は、視界に入った、カーテンの隙間からこぼれる月の光があまりにも美しく、俺は窓から夜空を眺めることにした。
すると、どこからか誰かの話声が聞こえてきた。
それは窓の外、庭の方からだ。一人は男、一人は女。俺の頭の中に、想像したくない光景が広がった。
エルトリアとシモンは結婚一年目の、ぴちぴちの新婚夫婦なのだ。夜中、月の下で愛を語り合うことなどおかしくも何ともない。
聞きたくはなかった。しかし、聞かずにはいられなかった。
窓から飛び降りた。俺の部屋はイタロスの屋敷の二階にあったが、この程度の高さは慣れればそれほど怖くはないのだ。・・・・・・勿論、異世界に着た後の俺基準、ではあるが。
声する方向に近付く度に、俺は違和感を覚えた。明らかに女性の声はエルトリアのものではなく、男に至っては聞き覚えが無かった。
一体誰なのだろう。月明かりが照らす先を注視すると、そこにはマリアが立っていた。
マリア? いやいやいや。えっ、マリア?
彼女と向かい合う男は見たことも無い男であった。・・・・・・いや、どこかで見たような記憶があるぞ。どこでだ、俺はどこで見た。
───────町だ。
俺は町で、あの男の顔を見たことがある。しかし、どういうことだ。マリアに男の影など微塵も無かったはず。一体どういうことだ?
俺は困惑が消えぬままに、二人の会話に耳をそばだてた。
「───────マリア。十五年経ったよ」
「・・・・・・もう、私達いい年よ」
「まだ三十半ば。別に今から家庭を持ってもおかしくない」
「・・・・・・まさか、本当に十五年も待つなんて」
「君が言ったんだよ。ルシウス坊ちゃんが成人するまでは、結婚は考えられないと」
「あれで、貴方が諦めると思ったから」
「・・・・・・君に対する想いは、十五年で少しも衰えることは無かった。むしろ、僕はこの瞬間を迎えることが出来て、人生で最も君への想いがあふれているよ」
「溢れすぎよ。わざわざ夜中に来るなんて」
マリアが微笑んだ。どうやら、彼女もまんざらではないらしい。十五年も自分を好きでいてくれた男なのだ。どうしても嫌な所が無ければ、それなりの好意にはなっているはずだろう。
「三日かけてやって来て、目と鼻の先に君がいると思ったら、いても経ってもいられなくなったんだ」
男は跪き、マリアに手を差し出した。
「マリア。君が町に帰ってきた時に言った言葉を、今再び送るよ。
───────結婚しよう。マリア。
僕は、君と共に歩んでいきたい」
男の伸ばした手に、マリアがそっと手を添えた。
「はい。喜んで」
俺は言葉を失っていた。感情が現実に全く追いついていなかった。
ただ、俺は二人を祝福していた。




