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六十一 学生、義兄に違和感を覚える

 元来、成人の祝いというものは多くの人を集めて盛大に行うものである様だが、今回は家族だけで行う小さなものとなった。

 俺が養子だからだろうと思っていたが、レンの話によるとトマトに関する利益を獲得したい貴族があまりにも多く集まってきてしまう可能性がある為に、それならばと身内だけで執り行うことを決めたらしい。

 お前たちも、ただの観賞用から乾電池へと昇格したなあ。

 庭のトマトを褒める気持ちで撫でていると、共に庭を散策しているエルトリアが声を掛けてきた。

「悪魔の実が私達に利益をもたらしてくれるなんて、本当に驚きだわ」

「いつかはトマトが原料だって誰かが気付くと思うけど」

「そうでもないわ。いくら色味がきれいだからとはいえ、口にしたら命を落とす食べ物を手元に置こうとする貴族は少ないものよ。現に、ロマ家ではトマトは栽培されていないわ」

「・・・・・・俺は自分の魔法使用の助けになればいい、くらいにしか思ってなかったんだけどね。まさか花畑に代わる、イタロス家の貴重な収入源になるとは思わなかったよ」

「・・・・・・そうね。折角貴方に作り方が載った紙をもらったというのに、ロマ家に製造方法を知られてはいけないということで、紙を処分しなくてはならなくなったわ」

 そう言って、エルトリアは少し悲しそうな顔をした。きっとその悲しみは、今は無き花畑を思ってのことだろう。

「婚姻を取り結んだ家同士でも隠さなきゃいけないものなのかな?」


「───────政略結婚ですもの」


 その一言で、心がざわついた。

「・・・・・・シモンは、どんな人なんだ?」

「とても優しい人よ。どんな他愛のない話でもうんざりした様子を見せないし、いつも朗らかな空気を纏っているの」

 俺とは大違いだな。俺は自分の話したいことをべらべら話してしまう立ちだし、直ぐに心が乱れてしまう。

「それは良かった」

 この言葉は、俺の本心だった。エルトリアが心から笑っていたから。純粋にそう思えた。

「シモンは、貴方にとても興味があるそうよ」

「俺に?」

「ええ。時間が出来たら、彼と話をしてみない?」

 俺はもとよりそのつもりだった。



 その時は、意外に早くやって来た。居間でくつろいでいた俺に、シモンの方から話しかけてきたからだ。

「ルシウス君。魔法学園ではどんな具合かな?」

「平民出身ということもありまして、魔法に関しては芳しくありません。ですが、魔道具に関しては人並みに知り得ていると自負しております」

「今はどのようなことをしているのかな?」

「実際の魔道具作製段階ですね。俺は異なる種類の魔法を一つの魔道具で発動できるように、現在研究しているところです」

「それは面白いね。音で? それとも色で?」

 魔力は特定の形を持つことで魔法という現象を引き起こすエネルギー源となる。その形の一つに波があるが、音の場合は元々の魔力の形の影響が大きく自由に魔法が使えるとは言い難い。例えば、火魔法の形の魔力を込めると低い音で『発火』が使え、高い音で『業火』が使える笛型の魔道具に、火魔法の形の魔力を込めれば、低い音で『発火』、高い音で『業火』が使える。しかし、その魔道具に風魔法の形の魔力を込めると、低い音でも高い音でも何も起こらないのだ。

 対する色はもっと自由度が大きい。魔力が魔道具の表面から空気中に漏れていく過程で、その魔道具の表面及び内部が特殊な色の場合、その色に対応する光の波長の形が丁度何らかの魔法の形だったりすると、魔法が発動してしまう場合がある。魔道具に蓄えておく魔力の形に左右されない場合が多いのだ。しかし、こちらは制作が非常に難しい。音の場合は空洞の長さや太さ、温厚を調節する穴の大きさなどを規格通りにすれば再現できる。対して色の場合には、顔料を揃える難しさに加え、その配合や調整の手間などがある。具体的な色の配合割合などのデータが揃っていないので、現物を見ても再現が難しいのだ。

 だから俺は、それ以外の、込める魔力に関わらず、簡単に制作することが出来る魔道具を研究をしていたのだ。

「今は、幾何学文様に挑戦していまして」

「なるほど、魔法陣、というやつだね」

 このシモンという男、実に博識だな。

 前世の知識がある俺としては、魔法の発動には呪文又は魔法陣という先入観があった為に魔法陣の研究に取り組もうという気になっていたのだが、この剣と魔法の世界では魔法陣に関する研究がほとんど発達していない。

 故に、参考となる先行研究はほとんど存在しなかったのだ。専門分野でも無かろうに、そんなマニアックな知識を知っているとは。天才と呼ばれる裏で、もしや相当の努力をしているのではなかろうか。

「なかなか面白そうな研究じゃないか」

「ありがとうございます。ですが、シモンさんの研究も、とても興味深いものでしたよ。レベルアップに関する研究の中では、最も心惹かれましたよ」

「・・・・・・ここだけの話、あの研究は失敗だったんだ」

 シモンの落ち込んだ様子に、俺は疑問を覚えた。あの研究の何が失敗だったというのだろうか。

「確かにあの研究単体では足りないかもしれませんが、他の研究の土台となる、再現性のある研究だと思ったのですが」

「そこだよ。再現性が高過ぎたんだ」

「どういうことですか?」

「内容を知っていれば、誰でも研究できる。魔法の知識を独占しておきたい貴族の本心は、そんな研究の存在を認めたくないのさ。だからあの程度の研究によって、私を魔法学園から遠ざけたのだ。さっさと領地に籠って、日の当たる所で研究が出来ないようにする為にね」

 いくら何でも考え過ぎではないだろうか。

 しかし、シモンはそう考えてはいなかった。

「もっとくだらない研究をしていれば、そうすれば魔法学園を追い出されずにすんだんだ。私は何て馬鹿なのだろう。みすみす楽しい青春の日々を自ら手放すとは」

 ・・・・・・そっちの問題ですかね。

 どうやら、俺の中のイメージと実際のシモンの間には、少しズレがある様だ。


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