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五十九 学生、成人する

「~というわけで、今は、ロムルスとナオミは友人、という形に収まっています」

 後日、俺は事の次第を学園長に報告しに行った。しかし、学園長は急用で学園内におらず、執事のセバスチャンへの報告となった。

 なるほど、と呟いた後、彼は俺にこう告げた。

「貴方は派遣員が向いているようです」

「・・・・・・えっと、よく意味が分からないのですが」

「適性検査だったのです」

 それはつまり、こういうことなのだろうか。俺は予め裏が取れている事案を再調査して、派遣員と駐在員のどちらに向いているのかその適性を調べられたと。

「次の指示があるまで、学園で自由に生活してください」

 彼はそれだけ言い残すと、もう他に言うことはない、という様な態度を見せた。しかし、俺の方はそうもいかないのだ。

「実際、何をどこまで知っていたんですか?」

「二人が恋仲ではないこと。ナオミに脈が無いこと。貴方とナオミが転生者であること。貴方の魔力が無いこと」

 俺とナオミが転生者であることは風魔法か何かで盗聴していたとすれば聞き出せるとして、俺が魔力を持っていないことまで知ってたのか。神父から? それともイタロス家の中に天網のメンバーがいるのだろうか。

「・・・・・・転生者というのは、この世界では珍しい存在ではないのですか?」

 セバスチャンの顔には少しも動揺が現れない。彼はただ、淡々と答えた。

「転生者がこの学園を作りました」

 なに?

「他に質問は?」

「・・・・・・ありません。ありがとうございます。失礼します」

 俺は学園長室を後にした。全く、最後に飛んでも無い爆弾を落としていきやがった。こいつは、転生者のことについて知りたければ、この学園のことを調べろって言っているんだな。

 どれだけ長くこの学園に止まっていられるかはわからないが、時間の許す限りこの学園の創設者について調べてみようと思った。



 そうこうしている内に、一年以上の月日が流れた。

 俺は十五歳になり、晴れて成人。その祝いということもあり、イタロス家の面々が一同に屋敷に集まる運びとなった。

「今回はリアも帰って来るそうだ」

 レンが嬉しそうに言った。

「僕は一年ぶりだが、ロンは二年ぶりか?」

「結婚式に帰らなかったのは、本当に悪かったと思っているよ」

 ロンはレンの言葉の端から皮肉を感じ取ったのか、少し嫌そうな顔をした。

 現在、王都からスティヴァレ領への帰りの馬車の中。兄弟三人が一つの部屋に揃うというのは初めての経験で少し嬉しくもあるのだが、正直未だにナオミの件でロンとの関係には微妙にしこりが残っていた。その為、狭い馬車の中で面と向かい合うというのは、些か居心地が悪かった。

「謝罪は僕ではなく、リアに言うんだな。恋に現を抜かしていたら、結婚式の招待状を確認し損ねてしまったと」

「レン、意地が悪いぞ。俺はしっかり振られたんだから。もうこの話はおしまいだ」

「人間が真に正しくある為には、犯した過ちの歴史を忘れないようにすることだ。昨日ルシウスが上手いことを言っていたぞ。確か、そう、黒歴史だ。忘れたくて、思わず黒く塗りつぶしてしまいたくなるような、しかし、塗りつぶしたことで、逆にその部分が自分の過去の中ではっきりと浮き上がってしまうような、うん、実に良い表現だ」

 前世の記憶のネタだけどな。

「ふん、どうとでも言え。だがな、レン、お前は未だに浮いた話の一つもないぞ。学園在学中に婚約できなかった男は、生涯独身だという話を知っているか?」

「お前とは違い、噂にならんように行動しているとは考えないのか?」

「じゃあ相手の名前を言ってみろよ」

「ロン、もう自身の行いを忘れたのか? 軽々に相手の名前を言わないからこそ、情報を秘匿できるとどうしてわからないんだ」

「はん! そんなものはいないのと同じだろうに。全く。口ばかり達者になって」

「口が達者でないと恋路が難航するという立派な証拠じゃないか」

「お前! 本当に性格が悪いぞ!」

 とうとうロンが怒り出し、馬車の窓方を向いて、決してこちらを見ようとはしなくなった。

 告白の一件以来、この様にレンは事あるごとにロンを揶揄う様になっていた。恐らく、ロンが今まで好き勝手やっていたことに、レンは内心腹を立てていたのだろう。

 溜まりに溜まった鬱憤を、今こうして解消しているのだ。

「ルシウス、貴様からも言ってやるのだ。この前、ナオミから告白されたのだと」

「何っ!」

 鬼のような形相で、ロンが俺を睨んできた。

「告白は告白でも、愛の告白ではなく、学業の成績が散々だという告白だけどね。・・・・・・まさか先輩を教えることになるとは夢にも思わなかったよ」

 ナオミは魔法の実技に関しては優れていたが、理論の面に関しては、俺が教えられるほどに基礎から出来ていなかった。

 もうロンが勉強を見ないと宣言したために俺が勉強を手伝うことになったのだが、正直ロンがあそこまで熱心になっていたのが、心の底からすごいと思う程、ナオミは教え方に頭を悩まされる相手であった。

 地頭が悪いわけではないのに、感性が独特なため、彼女の理解を言語化してもらう度に、その解読に苦しめられたのだ。

「勉強ぐらい俺も見ていたぞ」

「そんなところで張り合うなよ、ロン。もう次の恋に進むんだろ」

「・・・・・・いざ新しい恋をするまで、なかなか忘れられるというものでもないんだ」

 ロンの言葉が、俺の胸に深々と刺さった。

 俺は果たして、エルトリアを見た時、普通に接することが出来るのだろうか。


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