五十八 学生、告白現場を覗く
「まさか、勝ってしまうとは」
俺とレンは、彼の部屋で紅茶を飲んでいた。
「あれをやられては、僕も勝てないだろうね」
「しかし、攻撃してこないとわかれば、対処法もあるのでは?」
「武器を持った相手が近くに居て、何もせずにいられる人間などそうそういない。ロンは卑怯だと言ったが、あれは立派な作戦だよ」
「ありがとうございます」
少しだけ、レンの態度が柔らかくなったような気がした。俺はロンへの勝利以上に、彼の対応の変化が嬉しかった。
「しかし、貴様が提示した条件。「ロンがナオミに告白する」だったか。あれはどういう意図がたったんだ?」
「・・・・・・恐らく、ロンとナオミは恋仲ではありません」
レンの顔が驚きに包まれた。
「あいつはナオミと結婚すると言っていたのだぞ!」
「ロムルス様の片想いだと思われます」
「・・・・・・そんな馬鹿なことがあるか・・・・・・」
レンは天を仰ぎ見るように椅子の背にもたれかかった。彼が吐いた溜息の中には、映し鏡である兄への深い呆れが籠っているように感じた。
「誤解は早く解消した方が良いとレムス様も言っていたので、そうするように手配しておいたのです」
「なるほどな。・・・・・・実際、脈は?」
俺は無言で首を横に振った。
レンは再び、大きな溜息を洩らした。
翌日、俺とレンの監視の下、ロンの告白大会が始まった。ナオミには魔道具作製の授業の時に状況を説明しておいた。
「やっぱり」
ナオミは遠い目をして呟いた。
きっと、彼女は何度も経験したことなのだろう。
「はっきり言って来ないから、私もどう扱えばいいのかわかんなかったんだよね」
「俺としては、ナオミともロムルス様とも普通に関りを持ちたくて、性急にことを進めてしまったような気がしなくもないんだけど」
「ううん。大丈夫。いつかははっきりさせなきゃならないことだし。逆にありがとう」
そう言って苦笑いを浮かべた少女と、緊張でガッチガチの我が兄は、彼らがいつも密会に使う場所で二人きりで向かい合っていた。
俺とレンは少し離れた場所から、レンの風魔法を使って二人の会話の音を拾いながら様子をうかがっていた。
「急にどうしたの、改まって」
ナオミがロンに切り出した。
「い、いや、あのな。な、ナオミに、どうしても言いたいことがあって」
うーん、中学生かっ。でもこんな感じなのかな。・・・・・・そう言えば、俺前世を含めても告白の経験一度もないぞ。もしかしたら、俺も告白の時にこんな感じになるのかな。いや、でも・・・・・・、相手はもう人妻だし・・・・・・。うん。まだ未練たらたらやん俺。早く次の恋進まないと、このまま一生引きずりそうだ。
そんな風に内心思っている間、ロンとナオミは無言のままだった。レンの風魔法の調子が悪いというわけではく、「どうしても言いたいことがあって」の先からロンが一言も発することが出来ずにいたのだ。
頑張れ、頑張れロ~ン!
ふと横を見ると、レンも俺と同じように手に汗握っていた。
「あ、あの、俺」
お、とうとう動き出したぞ。
「ずっと、君のことが」
お、言え、言うんだよ!
「─────君のことが好きでした。俺と結婚してください」
サイコーかよ!? いや、貴族だし、基本結婚を前提としたお付き合いなのか。しかしよく言った。かっこいいぞ、ロン。
「─────ごめんなさい」
・・・・・・即答でしたね。
「私、他に好きな人がいるの」
「・・・・・・誰か、聞いてもいいかな」
いや聞くんかい。ロン君メンタル強すぎじゃない?
「わかった」
ナオミが小さく手招きをする。ロンが耳を寄せ、少女は囁く。
音があまりにも小さかった為に、風魔法で拾うことは出来なかった。しかし、ロンの納得したような表情が、俺には印象的だった。




