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五十七 学生、決闘する

 足元に落ちた手袋を見詰めて、俺は固まっていた。この手袋を拾ってしまえば決闘を承諾してしまったことになるのだろう。しかし、ロンが俺に投げつけたのは真っ白いきれいな手袋なのだ。これ早く拾わなかったら汚れ着いちゃうよ。でも拾ったら決闘になっちゃうし、そうか、足で拾えばセーフなのでは?

 俺がそんな風に悩んでいると、レンが手袋を拾い上げてしまった。あれ、この場合レンとロンが決闘することになるのか?

 無論そんな様子は無く、レンはロンに手袋を投げ返してしまった。

「いきなり何をしているんだ、ロン」

「それはこっちのセリフだ、レン。俺は覚悟を持ってその男に決闘を持ち掛けたんだぞ」

「決闘するならまず、その理由を言え。この男にはロンと闘う理由などないんだ」

「いいやある。俺は覗き屋の連中から聞いたんだ。その男がナオミと学生寮の裏で二人きりで会っている所を目撃したと」

 覗き屋って何? ・・・・・・ああ、ゴシップ記者、パパラッチ達のことか。

「二人は知り合いだそうだぞ。二人きりで会うこともあるだろう」

「ただの知り合いが二人きりで会うわけがないだろう」

 ねえロン君、それブーメランだって気付いてる?

「兎に角、俺はこのままでは気が済まないのだ」

 そう言って、ロンは再び手袋を俺の足元に叩きつけた。恋は盲目ということなのだろうか。どう足掻いても決闘をしなければならないらしい。

 俺は覚悟を決めて手袋を拾い上げた。

 レンは驚きの表情をもって俺のことを見ていたが、彼は敢えて何も言わず俺の行動を注視していた。

「ロムルス様が勝ったら、金輪際俺はナオミと関わらない、という条件で合っていますか?」

「その通りだ。安心しろ、命までは取らないでおいてやる」

「・・・・・・じゃあ、俺が勝ったら、ロムルス様はナオミに告白してください」


「「─────は!?」」


 ロンとレンが同時に声を出した。同じ声だから、一人の人間が発言しているように錯覚してしまう。

「俺が勝ったら、ロムルス様はナオミに告白する。いいですね」

 そしてさっさと振られろ。

 自分勝手なやつは心底ムカつく。勝手に人を好きになって、勝手に嫌いになるのだ。前世の父親を見ているみたいだよ。

「・・・・・・ま、まあなんだっていいさ。勝つのは俺だからな」

 放課後、学生寮裏と決闘場所と時間を定め、俺とロンは別れた。



 そして放課後の学生寮裏。刃引きした剣を互いに持った俺とロンが向かい合った。審判はレンが務めてくれるらしい。

 レン曰く、ロンの強さは自身と同程度かそれ以上らしい。つまり、どう足掻いても勝ち目はないということだ。・・・・・・正攻法ではな。

 俺とロンは互いに剣を構えた。レンが開始の号令をかけた。

 瞬間、ロンが肉薄する。

 が、彼の剣が届く前に、俺は間合いから抜け出す。

 直ぐに俺を見付けたロンが再び切りかかって来るが、俺はそれをかわす。

 ロンが襲ってくる。俺は避ける。再びロンが襲ってくる。もう一度俺は避ける。襲ってくる。避ける。襲う。避ける。襲う。避ける。・・・・・・。

 ひたすら繰り返し避け続けると、肩で息をしだしたロンが叫び出す。

「卑怯だぞ!」

 俺は何も言わない。レンが反則とは言わないので、この避け続ける作戦は有効なのだ。

 俺の体力はハトに負けるとはいえ、そう簡単に人間に負けたりはしない。それに速さでは負ける気がしない。

 ロンは俺に向かって剣を構えるが、切りかかってこない。俺が攻めてこないのをいいことに、休む気なのだろう。

 そんなことさせるものか。

 俺はロンに肉薄する。

 彼は俺に剣を振るうが、その前に間合いを出る。

 俺が肉薄し、ロンが剣を振るい、その瞬間に間合いからでる。再び、俺はその行動を繰り返し続ける。

 打ち合ったら力と技術で捻じ伏せられるのはレンが既に証明している。ならば、打ち合わないことだ。

 俺が攻めを繰り返している内に、やがてロンの背後を簡単に取れるようになった。

だが、それでも攻め切らない。好機の様にも見えてしまうが、同時にこれはロンの罠かもしれないからだ。

 焦ってはいけない。何故なら、既に俺の勝利は確定しているからだ。

 ロンの方は、既に「卑怯だ」と罵る体力も残っていないようだった。それでも俺は、攻めては引いての行動を繰り返し、ロンの体力を奪い続ける。

 これはヒット&アウェイという立派な戦法なのだ。

 実際そんなことをわざわざ言うことは無かった。

 やがて、一度の剣の打ち合いもなく、疲労の限界を迎えたロンは地に倒れた。

 レンが静かに俺の勝利を宣言した。だが、ロンにその声が届いているか否かは定かではなかった。


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