四十八 貴族の子、姉の結婚式に出る
一部修正しました。2020/4/21
一日以上行方不明になっていた俺は、奥様やオヤジからもとても心配されていた。俺はその時、オヤジの「心配した」という言葉を素直に受け取ることが出来た。あまりにもすんなりと受け入れられた為に、自分で自分に驚いてしまった程だ。
多分、今回の件で、自分という存在があまりにも小さい存在であることを痛感して、気持ちが麻痺してしまっているのだろう。
俺はオヤジや奥様に、「心配かけて申し訳ありません」と、そうはっきり言うことが出来た。
レンは「心配していなかった」と口では言っていたが、その日は彼の視界に留まる度に話しかけられ、少し鬱陶しいと思う程関りを持った。
少しだけ本物の兄弟に近付けた気がした。
翌日。予定通り、エルトリアの結婚式が開かれた。場所はイタロス家の屋敷。結婚式後、花嫁は花婿の家に共に向かうのだとか。要は、家での最後のお祝いということだ。
エルトリアの結婚相手のシモン・ロマは、エルトリアの横に並んでも遜色ないほど美しく整った顔立ちをしていた。レンすらも見劣りする程であり、アーカヴィーヴァが嫉妬するのも頷けるというものだ。
しかし、ロン、イタロス家の長男、ロムルスはエルトリアの結婚式にすら現れなかった。レンの様に何か月も休学するのは如何なものとは言え、妹の結婚式の当日にすら現れないというのは一体何ごとなのだろうか。
そんな一部家族不在、かつ裏では火事が起きている、という問題だらけの結婚式はつつがなく進行した。
俺は不思議と穏やかな気持ちでエルトリアの結婚式を祝福することが出来た。自分の身を引き裂くようなあの気持ちが完全になくなってしまったのか、と言われるとそういうわけではない。けれども、彼女への恋心を、自分の体よりも少しだけ遠い位置に置くことが出来たような気がしていた。
それは恐らく、エルトリアに対する想いの内から、恋心だけをどこかに隔離して、家族としての感情を別に育てることが出来るようになった、ということなのかもしれない。そうは言ってもシモンに嫉妬しないと言われれば嘘になる。例えば、シモンとエルトリアの誓いのキスだけは目を瞑ってやり過ごした。
無事結婚式は終了し、シモンとエルトリアはモンス領へと旅立ち、イタロス家には日常が訪れた。
後日。屋敷を訪れた神父が、俺に思いがけない提案をした。
「君に王都に行ってもらいたい」
「王都ですか?」
「ああ。ぜひ会ってもらいたい人物がいるんだ。案内は、・・・・・・君はデクと呼んでいるんだったな、彼に任せているよ」
これはどう考えても天網絡みだな、と思ったが俺は口には出さなかった。
いつの間にオヤジに話を通していたのか、出発は明日ということになった。名目は魔法学園の視察。・・・・・・魔法学園?
案の定、レンも一緒に付いて来ることになった。
移動に際しては、俺とレンで一つの馬車、デクと毒舌お嬢様で一つの馬車。計二台で魔法学園に向かうこととなった。
馬車で王都に向かう旅路は長く、凡そ一週間かかる。そんな長い間二人きりで狭い場所にいるのだから、レンとの話題でいつかは魔法に関することが出てくるというものだ。
「貴様は魔法に関しては芳しくないと聞いたのだがな」
「お話通り、俺の魔法は学園に通えるような代物ではないんですが、教師が一度魔法学園を見て来いと」
「一度貴族がどれほど魔法の扱いに優れた存在か見てみるのも良い経験となるだろう。そして、そもそも魔法学園は貴族が民を守る為に魔法の扱いを研鑽する場。貴様の様な平民上がりでも、通ってみればそこそこ扱いが良くなるかもしれないぞ」
レンがすごく俺のことをフォローしてくれてとても嬉しいのだが、申し訳ない、俺は魔力が無い。つまり、そもそも魔法が使えないのだ。
「所で、後ろの冒険者は一体何者なんだ?」
「彼は元学園の生徒らしく、今回家庭教師の方が用意してくれた案内人です」
「そいつと共にいる女、どう見てもあれは貴族だろう。社交界や学園では見たことがないが、貴族が何故冒険者と共に行動しているのだ」
「その辺の理由は俺にもわかりません」
「身元がわからないような怪しいやつを連れているのか? 貴様は常々愚かだな」
レンがツンデレだと思って話を聞いていると、どう考えても俺を心配しているようにしか聞こえてこないから不思議だわ。
こんな感じの馬車内であったが、道中、話題が尽きることは無かった。レンが魔法学園に関する話、家に関する話などを絶妙に切り出してくれたおかげである。こういうさり気な気遣いは、社交界で磨かれたものなのだろうか。
そうこうしている内に、あっという間に俺達は魔法学園に着いた。




