二十七 貴族の子、状況を整理する
割り当てられた部屋の中で一人、自分の置かれた状況を今一度整理してみる。
まず、トラックに轢かれて異世界に転生する。次に貴族の子供として生まれるが無能であった為に捨てられる。そして平民の子供として生活している中、一人の少女と出会って恋に落ちるが、何故かその少女とは会えなくなる。そうこうしている内に養子として生家に戻ってみると、恋した少女が実は姉であったと明かされる、と・・・・・・。
馬鹿な!
こんな理不尽な展開あるか! フロイト先生もびっくりだよ! 何でエディコン(=エディプスコンプレックス)設定なんてぶち込むんだよ! ・・・・・・いや、シスコンか?
いやどっちでもいいわ! 初恋は叶わないっていうあれなのか? ちくしょう。全く、まんまと手の平の上で転がされたわ。
俺が一人で悶絶していると、こんこんこん、と扉を叩く音がした。
「坊ちゃん。マリアです」
「どうぞ」
部屋の中に入ってくると、マリアは少し嬉しそうな様子で俺を見た。彼女は俺がこの家で生活することを、ずっと夢見ていたのかもしれない。
「頼まれていた情報集め、終わりましたよ」
「本当か!? 早速教えてくれ」
俺が生家、イタロス家に戻って来た時、まず真っ先に家族の情報を集めてもらった。それは弱みを握りたいからとかそういうことではなく、純粋に自分の姉のことが気になり過ぎてどうしようもなかったが、姉のことだけ調べて、とは言いだし辛かったからに他ならない。
「まず、長男のロムルス様と次男のレムス様ですが、二人は現在、魔法学園という魔法に関する教育機関に通っております。今は夏季休暇中でレムス様は屋敷に戻ってきておりますが、ロムルス様はご学友の領地に行っておられるようです。
二人は坊ちゃんの三歳年上の十六歳。現在は魔法学園の二年生であらせられます。魔法学園に通う前は、この屋敷に家庭教師などを呼んで勉強などをされていたそうです。二人とも十歳頃から旦那様に連れられて王都に出向いておられるご経験が何度かあるそうです
次に長女のエルトリア様ですが、坊ちゃんの一つ年上でございます。元々病気がちであったそうですが、十三の時、つまり今から一年前に病で体調を崩されてしまい、万病に効くとされる霊草のある花畑の近くの別荘で療養していたそうです。その為ほとんど家から外出されたことが無いそうです。
しかし、最近は体調も非常に優れており、まるで今までの病弱ぶりが嘘であったかの如く活発になられているそうですよ」
報告を終えると、マリアは嬉しそうに笑った。
「兄弟と早く仲良くなりたいから経歴を調べてきてくれだなんて頼まれた時はとても驚きましたが、私はとても良い心がけだと思いますよ」
本当は姉のことが知りたかっただけだったんだけどね。
「まあ、何も知らないと、さすがに手の付け様がないって思ったからさ。本当にありがとう、マリア」
「いえいえ。このぐらいのこと、大した手間ではありませんよ。では、失礼いたしました」
マリアが部屋を出て行った後、俺はふうっと溜息を吐いた。
つまり療養の為に花畑を訪れていたエルトリアと俺は偶然にも出会ってしまい、彼女は俺にシラクサと名乗って交遊を持っていた、というわけだ。いや、わかってはいたけども。改めて事実関係がはっきりすると、こう、かなり気落ちしてしまう。
彼女と最後に会った時、彼女が誤った理由。それはもしや、彼女が貴族だから平民とはこれ以上関われない、という意味だったのではなかろうか。そう考えると、点と点が繋がって線になっていっているような気がしなくもない。
いやしかし、彼女が指摘していたように、貴族の屋敷に来て転生してから初めての鏡とのご対面を経て、彼女と俺の瞳の色は同系統であることを確認した。この瞳はオヤジの瞳の色とも一緒だった。つまり、この瞳の色によって、彼女は俺と血がつながっていることを確信した可能性もある。
しかし、マリアも何も言ってこないし、俺を見たレンの反応も特に俺を覚えている風でもなかった。ということは、この家では俺がこの家の実子だ、という事実が実質無かったこととして扱われている可能性があるということだ。だがもし彼女がその事実を知っていたとすると、瞳の色を指摘した理由にも納得できる。そして謝罪の理由も、私達は血の繋がった兄弟だから関係はこれまで、という意味に変わってくる。
一言でまとめるならば、目下の問題は「姉が俺のことを血がつながっていると思っているかどうか」にある。そして一番の悩みは、答えがどちらであっても、俺は姉とはこれ以上の関係性を持てない、ということだ。




