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二十二 少年、悪魔の実と出会う

「また来てくれるとは思いませんでした」

 教会の前で神父は、エイブと一緒にやって来た俺を見て驚きの声を上げた。

「前回のは、神父様のせいじゃありません。俺の、個人的な好き嫌いの問題ですから」

「・・・・・・そうですか」

 神父に案内され、俺達は再び客室の席に座る。

「今回は、そうですね。魔道具、の話をしても構いませんか?」

 神父は俺へと確認を取るように、恐る恐る口にした。

「別に触るのを強要されなければ、水晶玉が目の前にあっても俺は怒りませんよ」

「それは良かった」

 神父は安堵の溜息を吐いた。

「魔道具。君たちの身近な例を挙げるなら、魔除けの石ですね。私たちが呪文で魔力の形を変化させるように、魔道具は様々な方法で魔力を変化させて魔法を発動させる道具なのです。

 ちなみに、私達が触れた物には、私達の魔力が付着する、ということは知っていますか?」

 俺とエイブが頷く。

「結構。これは余談なのですが、人同士が触れあっても相手の魔力が付着します。ですがそれは、直ぐに自分の魔力の形に変化してしまうので、風魔法では人間や生き物を操ることが出来ない、というのが原則なのですよ」

 なるほど。だからエイブは、基本的に空気ばかりを操っているのか。

「付着した魔力は、時間と共に剥がれてしまいます。しかし、魔道具の中には、その中に魔力を溜めておく構造が備わっているものがあります。この構造は生物の他に鉱物でも確認されていて、魔除けの石には、この魔力を蓄える構造を持つ鉱物が使われています

 君たちは知らないかもしれませんが、町の大人たちは毎日決まった場所の石に決まった時間触ることが義務付けられています。まあ、ほんの五分程度ですが。それで魔除けの石に溜まった魔力が枯渇しないように定期的に補給しているのですよ。

 そして魔除けの石は独特な色をしていますよね。あれは、魔除けの石内部の魔力が表面から外に出て行く過程で、その魔力の形を変化させ魔法を発動させる特殊な色遣いになっているのですよ」

 初出の情報が立て続けにやって来て、エイブの頭から煙が上がっているような気がした。

「これもその魔除けの石みたいな色遣いなんですか?」

 俺はポケットから金の笛を取り出して、神父に見せた。

「少しお借りしますね」

 神父は俺から笛を受け取ると、暫くの間まじまじと観察して、そして感動の溜息をついた。

「ありがとうございます」

 神父は俺に笛を返した後、非常に幸福そうな顔をした。

「これは、大変素晴らしいものを見させていただきました。

その笛は純金です。つまり、この色は笛の元になった鉱物の色そのものなのですよ。金は魔力の保持する能力が非常に高く、あくまでも物の例えですが、一万年たっても込めた魔力の量は変わらないと言われています。

 それは笛を吹いた時の音色で魔力の形を変える類の魔道具ですよ。しかし、笛型の魔道具は希少なのですよ。何せ、特定の魔力の形を持った人が魔力を込めないと、その魔法が使えないのですから。はっきり言って一点ものです。その代わり、とても特殊な魔法が使えると聞いていますよ。

それに、芸術品としての価値も感じられるほど美しい。何より、この草の紋様。子供が健やかに成長するように、という意味が込められているのですよ。それはお守りなのですか?」

「・・・・・・ええ、母からもらいました」

「そうですか。大切になさってください」

「師匠、あの、あの水晶玉は・・・・・・」

「エイブ」

 神父がたしなめるように言った。

「構いませんよ」

 俺がそう言うと、神父は咳払いを一つした。

「・・・・・・そうですか。

あの水晶玉には、実は魔力を蓄える構造は存在していません。あれに触れた時に着いた魔力が内部に染み込む過程で形を変えて、そのまま魔法を発動します。あの水晶の内部構造そのものが特殊である、ということですね」

 そこまで話して、神父は何かを思い出したように「あっ」と呟いた。

「そうそう。今回魔道具の話をした理由をすっかり忘れていました。君達、少し付いてきてくれますか」

 神父の後についていき、俺達は教会の裏の空き地にやって来た。空き地の一部が畑となっており、そこでいくつかの植物が育てられていた。

「これを見てください」

 そう言って神父が指差したものは、丸々として、先が少しだけ尖っている赤い実だった。異世界出身の俺からすると、それはトマトにしか見えなかった。

「これは、トマトという植物です」

 トマトなんかい!

「これは貴族が観賞用に育てている植物なのですが、毒があって食べることはできません。悪魔の実、とも呼ばれています。ですが、この植物にはすごい特徴がありまして、この実を絞って取り出した汁は、長い間魔力を保存する効果があるのですよ。つまり、この実を絞った汁に魔力を蓄える構造の魔道具を浸しておけば、私達が魔力を消費せずとも魔道具に魔力を溜めることが出来る、というわけなのです。

 まあ、まだその効率が非常に悪く、あくまでも研究段階なのですが」

 ・・・・・・その技術、この世界で産業革命起こせない? やばくない? 世紀の大発見じゃない?

「これはこのトマトの種です。どうぞ受け取ってください」

 神父は懐から二つの袋を取り出して渡してきたので、俺達は袋を受け取った。

「詳しいやり方は教えますので、君達も一緒に育ててみませんか?」

 俺の中に、革命の予感が渦巻いていた。


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