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百九十二 旅人、パーティーに参加する

 パーティー会場に入ると、忽ちエイブは声を掛けられていた。いくら名声のある冒険者とは言え顔まで知れ渡っているのを少し不思議に思っていると、ヴェニアがエイブの胸に付けられたバッジを示して教えてくれた。

「冒険者はそのレベルに応じて記章が与えられるんです。今エイブさんが付けているあの金龍は最高位の冒険者であることを示すものです」

 良く知っているなあと思いつつエイブの胸の記章に目を凝らしてみれば、それは修学旅行の宿のお土産コーナーに売っている金メッキの龍に剣などを添えているものと非常に酷似していた。

 その中二病臭い造形は子供の頃は進んで欲しがったが、ふと後から振り返れば痛々しくて見ていられないデザインとなっている。

 そんなものを自慢げに付けるこの世界の価値観とはこれ如何に、と思いつつ、俺はエイブに話しかけに来る人々の話に耳を傾けた。

 しかし都合よくゴンベエ・ナナシノに関する情報が出るはずもなく、エイブにすり寄ってくる商人たちの生臭い話を延々と聞かされるだけだった。

 どうしたもんかねえと思っていると、わあっと人々の騒めきが聞こえた。何事かと顔を向ければ、本日のパーティーの主催者であるデイビスが会場に入って来たようだ。

 会場内の客の注目が粗方彼に集まったところで、デイビスは良く通る声で話し始める。

「皆さま。歓談中に失礼いたします。本日は集まっていただき、大変ありがとうございます。昨夜、ロクフイユ商会は代表であり、そして我が最愛の父でもあるウィル・ロクフイユを失うという悲劇がありました。代表を失い、今回のパーティーを中止にすべきだという声が商会内でもいくつも上がりました。しかし、私は開催することを選びました。悲しみの前に足を止めることは、父の教えに反するからです。そして、今宵父が皆様に披露せんとしていた大事を、どうしても皆様にお伝えしたかったからです。

 約一月前。王都からルーシ領へと至る大街道に魔物が発生し、半月もの間街道が使えなくなりました。また昨夜、港にクラーケンが出現しました。こちらは冒険者たちの活躍によって事なきを得ましたが、しかし、我々があの巨大な魔物が跋扈する海を渡るには、同じく魔物である海王の力を借りなければいけません。しかし、海王は一体のみ。我々の掲げる自由な交易は、魔物という圧倒的な脅威の前に著しく侵害されています。

 我が父、ウィル・ロクフイユは、この魔物に脅かされ続ける現状をひどく嘆いていました。そして、魔物に脅かされない自由な商いの実現に向けて、着々と計画を進めていったのです。皆様がお察しの通り、その計画は遂に成し遂げられ、今宵皆様にその成果をお伝えするのは父の役目でした。

 今、私は亡き父の代わりに、彼がなした偉業を皆様にぜひ伝えさせていただきたい。父は気付いたのです。この世界にはまだ、魔物に侵されることの無い聖域が残されていると。陸も、海も魔物によって閉ざされてはいるが、空だけは、その自由が奪われてはいないと」

 瞬間、人々の間にどよめきが走った。声がしたのは、デイビスとは真逆の、会場の入り口から最も遠い方の壁であった。振り返ってみれば、その理由は一目瞭然で会った。先ほどまでそこにあった壁が無く、突如として開けた視界の先には、巨大な船があったからだ。

 ここは陸地だ。クブルス島が海に囲まれているとはいえ、海上からは大きく離れており、港の船が見えるような距離には無い。だというのに、壁が無くなった向こう側には、巨大な船があったのだ。・・・・・・それも、空中に浮かんでいる。

「あれこそは、空を介した交易をおこなうために作られた空飛ぶ船。その名を、飛空船」

 剣と魔法の世界に、突如として文明の風が吹き込んできたような気がした。



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