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百九十一 旅人、プレゼントを買う

 エイブの実力にあやかって冒険者ギルドで小銭を稼がせてもらった後、丁度良く日がくれたので夕食を共にしてエイブと別れた。

 俺とヴェニアとハルは真っ直ぐ宿には戻らず、街中をぶらぶらと歩いていた。ハルは途中で眠くなってしまったようで、仕方なく俺が負ぶった。

 日は沈んだというのに外の人の数は昼間よりもむしろ増えているような気がした。人込みにはぐれないように、俺はヴェニアと手を繋いで歩いた。

 ふらふらと目に入った出店に顔を出して、冷やかしで商品を眺める。時折ヴェニアの方をちらちらと見るが、彼女のお眼鏡にかなったものは無かったみたいだ。

 数軒目に立ち寄った店に赤いピアスが売っていたので、そういえばと思いちらりとヴェニアの耳元を見る。彼女の耳には、何の飾りも付いていなかった。捕まっている間に宝石などは付けられないだろうし、持ち出すことも出来なかっただろう。

 俺はヴェニアにばれないように、彼女の気がそれている内に買ったはずなのだが、宿への帰り道を歩いていると、ヴェニアがやけに嬉しそうにしていたので、こいつは恐らく気付かれているだろうなと思いながら、宿へと戻った。

 ヴェニアにピアスを渡す前に、俺は少し細工を施そうと考えた。魔法学園で行っていた魔法陣の研究に、昨夜港で見た魔力の密度で発動する魔道具という着想を組み合わせることによって、特定の物質に特殊な切れ込みを入れるだけで、魔法を発動できる魔道具になるのではないかと考えたのだ。

 ヴェニアとハルが眠った後、ピアスに付けられたルビーと同じ鉱物をいくつか買い、それらに魔法学園での研究で見つけたいくつかのパターンの細工を施す。ふと俺が魔法を使えないことを思い出したので、眠っていたハルに起きてもらって、寝ぼけ眼の彼女に実験を手伝ってもらった。

 ハルが再び眠りに落ちる前に完成することが出来たので、満足して俺は眠った。



 翌朝。ヴェニアとハルと俺の三人はしばらくクブルス島の観光を満喫に、昼をエイブと共に食べ、その後ロクフイユ商会へと足を運んだ。

 暫くお茶や歓談を繰り広げた後、いよいよ着替えるという時になって、部屋を移動しようとしていたヴェニアの手に、昨夜細工を施したピアスを渡した。

 特に何も言わず、「これ」とだけ言って渡したのだが、ヴェニアは何を渡されたのか見ずともわかっていたのだろう、「ありがとう」とにっこり笑ってそのまま部屋を後にした。

 俺とエイブも服を変えるという時になって、デイビスの後について部屋を移動する際に、ハルが俺達の後についてきたので、「ハルはヴェニアの方に行かなくちゃ」と俺が言うと、「私はパーティー参加しない」と言い出した。

「どうして?」

「パーティー参加しても美味しいものがいっぱい食べられるわけじゃないってヴェニアが言ってた」

 まあヴェニアは貴族だからそうかもしれないが、今回の商人主催のパーティーならできないことも無いような気がしなくもないが、まあいいや。

「パーティーの間何をしてるんだ?」

「外を飛んでる」

「わかった。何か危ないことがあったら、直ぐに俺の所かエイブの所に行くんだぞ」

「僕の所に来るの?」

「お前の方が強いだろ」

「そうかもしれないけど、ラック、君の戦闘力もかなりのものだと思うけど」

「俺は速く動けるだけで、魔法には弱いし普通の蹴りや拳が効かない相手には絶対に勝てない。精霊なんかは天敵だし、ドラゴンにも普通に勝てない。・・・・・・ハル、わかったか?」

「了解した」

 すると、ハルはとてとてと窓の方に歩いて行って、窓を開けるとそこから外に飛び出していった。我が子ながらフリーダムに育ったものだ。窓は出入り口じゃないって教えないと。

「僕の推測だと、ハルちゃん、多分僕よりも強いと思うんだけどなあ」

「能力的にはどうかはわからないけど、実際の戦闘ではわからんだろ」

 そんな他愛もない話をして、俺達はデイビスの後に付いて行き服を着替えた。さすがは天下の大商人。伯爵家の礼服と同等の服を用意していらっしゃる。

 服を着替え、俺達は会場へと向かう。途中ヴェニアと合流して、ふと彼女の耳元で赤い光が瞬いたのが見えた。

「・・・・・・似合ってるよ」

「・・・・・・ありがとう」

 俺達はそのまま会場へと入った。



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