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百八十七 旅人、故郷の味を思い出す

 丁寧な掃除が店の隅々にまで行き届いている大衆食堂に入ると、出てきた料理に俺は目を丸くした。

 端的に言えば、米料理である。米である。ヨネである。コメである。こめである。ライスである。ご飯である。白米である。あまりにも大事なことなので二回以上言ってしまった。それでも敢えて言おう。米である。

 魂が歓喜した。食す前から感極まって涙を流しそうになった。手を合わせて「いただきます」と言った後に、俺は真っ先に米料理を口に運んだ。


 ────────なんか、味ついてる・・・・・・。


「それはアナトリア領の料理だね。米という食材を使っているらしいんだ」

「・・・・・・なんか、味ついてる」

「ええぇ。そりゃ味ついてるよ。むしろ無味の料理なんて食べたくないでしょ?」

「パン食うやん」

「ジャムつけたり卵乗っけたりするでしょ」

「米もそうすればいいのに」

「そういう食べ方は見たことないけどな」

 そう言いながら、エイブは上手そうに米料理を口に頬張った。隣を見れば、ヴェニアがあまりの美味さに驚きの声を上げ、ハルは手当たり次第に皿をきれいにしていった。

 ハルは最近俺達と一緒に食事を取る習慣が生まれ始めたが、その量は極めて少ない。取らなくても平気なのだから、食事とはあくまでも嗜好品なのだ。つまり、美味であるとたくさん食べるというわけだ。

 俺は再び、目の前の米料理に口を付けた。おいしい。確かにおいしい。だが、求めていたものとは決定的に何かが違っていた。

 初めからパエリアだとわかっていたら味が付いているとわかるし、見た目がおかゆ状であったら触感も気にはならない。だが、俺の目には前世のレストランに出てきた皿に盛られたご飯にしか見えなかったのだ。

 何故だろう。米じゃないと思うと美味しく感じてしまう。

「ねえ。ラックはどうしてこの島に来たんだ?」

「話すと長いんだが、まず貴族の養子になって」

「・・・・・・え? それ、冗談じゃなかったの?」

「冗談でそんなことは言わないよ。その後に王都の魔法学園に入って」

「・・・・・・君、魔法不得意じゃなかったっけ?」

「大丈夫。今でも全く使えないから。それから、エイブと山で会って、ヴェニアと出会って、公爵家の長男を殺した罪でヴェニアが捕まって、彼女が公には死んだことになっているからこうして二人で旅することになって、知り合いに紹介されてこの島に来て、エイブがここにいるという話を聞いて、今こうして再会したと」

「途中とんでもない情報を平然と流したような気がしたんだけど・・・・・・」

「まあまあ。俺はこんな感じだよ。エイブの方は?」

「君程出来事が盛りだくさんではなかったなあ。でも、ドラゴンを倒してから自信が付いて、今ではこうして商人にこの島に来るように呼ばれるくらいの名声は得ているんだ」

「王国一って聞いたけど?」

「そいつは言い過ぎだよ。でも、コングコングコングっていう魔物を倒したことが吟遊詩人にすごく喜ばれてね。それで名前が広まったのかも」

 そのゴリラゴリラゴリラみたいな名前何なの?

「要は、強い魔物を倒して有名になって商人にぜひとも懇意にしてくださいとこの島に呼ばれたわけだな」

「まあそういうことかな。・・・・・・所で、ハルちゃんとはどういう関係で?」

「父はラック。母はヴェニア」

「まあ正確に言うなら森で拾った」

「で、今は君が親代わりということか。相変わらず冒険者の鑑みたいな人間だな」

「実際冒険者になったけどね」

「・・・・・・は?」

「ほら」

 そう言って、俺は冒険者カードをエイブに見せる。すると彼は恐ろしい怒りに満ちた顔をして俺の肩を強く掴んだ。

「どうして僕が誘った時に一緒に冒険者になってくれなかったんだよお!」

 エイブは力強く俺の肩を揺さぶった。

「タイミングの問題だよ。今は金が必要だったんだ」

「結局なるんだったらあの時一緒に冒険者になってくれても良かったじゃないかあ」

 この感じ覚えがあるぞ。酔っ払いのダル絡みだ。前世では酒癖の悪い上司に散々悩まされたものだが。・・・・・・だがしかし、今エイブは素面のはずだが? もしかして料理に酒が入ってたのか?

 情緒不安定なエイブを必死になだめた後、俺は改めてエイブの現状を探る話題を選んだ。

「所で、エイブを呼んだ商人って誰だ?」

「この島一番の大商人、ウィル・ロクフイユだよ。あまりの業績に、彼は男爵位を授けられたんだ」

 その名前には聞き覚えがあった。船の中で、クーニャが是非接触しておきたい商人の名簿の中で、一番に名前が挙がっていた人物だからだ。



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