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百八十一 旅人、護衛をする

 翌朝、早々に目を覚ました俺達は手早く出立の準備を済ませ、次の町へと移動する片手間にこなす護衛依頼の依頼主と会うために冒険者ギルドへと向かった。

 冒険者になってまだ一日しか経っていない新参者に護衛をするような信頼や実力の評価があるものかと俺は思ってしまうのだが、訓練場で行ったボーパルバニーとの戦闘に加え、ギルド職員への対応、及び依頼者が特に冒険者を指名せず誰でもいいから受けてほしいということであったので、俺達にも受けることが出来たらしい。

 しかし、一番の評価項目が「子持ち」であるという可能性を受付嬢がハルへと向けた優しい表情から察した時、自分はもしかしたら老けて見えるのか、という疑念が湧き上がって来たが、恐らく他人の子供であると承知したうえで、他人の子供を育てることが出来る程精神にゆとりがあると評価されたのだ、と考えることによって己の中の邪な気持ちに退散してもらうことに成功した。

 待合席でヴェニアと他愛もない話をしながら依頼主が来るのを待っていると、暫くして受付嬢が誰かを伴って俺達に近付いてきた。

 俺は顔を上げ、立ち上がって応対をする。

「お待たせしました、ラックさん。こちら、依頼主のカイトさんです」

「本日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 少しぎこちない様子で、カイトという少年は軽く頭を下げた。

「カイトさん。こちらが、今回護衛の依頼を引き受けたラックさんです。冒険者歴は浅いですが、実力は確かなので安心してください」

 浅いどころか昨日なんですけどー、とは口が裂けても言うまい。

「子連れ、何ですね。・・・・・・随分と大きなお子さんですが」

「俺の子供ではないんですが、少々訳ありで。・・・・・・早速ですが、出発の準備はよろしいですか?」

「・・・・・・はい。構いません」

 カイトも深くは追及してこず、俺達は冒険者ギルドを出た。馬車を引いて町を出て、目的地のある南へと下る。

 俺とヴェニアが御者台に、ハルとカイトが荷台に乗るという形で座ることにした。

 初対面ということもありだいぶ警戒している様子のカイトであったが、人懐っこいハルの行動に程なくして心を許したようで、そのお陰か俺とヴェニアに対する警戒心も少しだけ和らいだようだった。

 道中滞りなく進むための円滑な人間関係作りの一環として、ハルと戯れていたカイトに声を掛けた。

「カイトさんは、どうしてキシネウに向かわれるんですか?」

 俺は目的地ある街の名前を口にしながら訪ねた。

「仕事でグリス領へと向かう予定なんです」

「へえ、俺達もグリス領へと向かう途中なんですよ。どうです? 良かったら、キシネウからの護衛も、俺達に依頼しませんか?」

「それはまた、おいおい決めるということで」

 ちょっと距離を詰めるのが早過ぎたなと思いつつ、俺は会話を途切れさせないように、直前のカイトの言葉を思い起こしながら、話題を広げる種を探した。

「そいつは仕事のし甲斐がありますね。・・・・・・所で、仕事は何をされていらっしゃるんですか?」

「錬金術師です」

 今この人フルメタルアルケミストって言った? うん、空耳だわ。しかし錬金術師か。異世界物の最強職業を上げたら、かなり上位に入るチート職業じゃないか。うらやましい。俺なんて諜報員だぜ? しかも末端の末端の末端。・・・・・・あれ、目にゴミが・・・・・・。

「・・・・・・恥ずかしながら、錬金術師という職種に対してほぼ全くと言っていいほど知識がないのですが、どういったお仕事なのですか?」

 明後日の方向にフライアウェイしていた意識を何とか現実に戻して、俺は無難な質問をカイトに投げかけた。

「物質の組成を変化させて、金を生み出すことを目的としている・・・・・・というのが本来の意味での錬金術師なんですが、はっきり言って、錬金術師は魔法が使えない平民がなる職業ですから、物質の変換なんて夢のまた夢って感じで。一般の錬金術師の仕事は、俺を含め、薬の調合です」

 つまり薬屋ってことだな。ひとりごと呟いたりするのだろうか?

「薬の調合ですか。生憎、私は想像のつかない世界です。やはり、オリジナルの薬を作ったりするのですか?」

「一応試してはみるんですが。古書などで掘り起こした先人たちの薬には、やはり遠く及びませんよ・・・・・・」

「──────先程仕事でグリス領へと向かうとおっしゃっていましたが、それってやはり、特殊なお薬を必要とされている方がいらっしゃる、ということですよね?」

 隣で俺とカイトの話を聞いていたヴェニアは、話の継ぎ目にするりと入り込んできた。正直、そろそろ話題が付きそうだったので。俺は心の中でヴェニアに感謝の念を送った。

「そう、ですね。私はルーシ領で店を構えているのですが、そんな遠くの地にいる私の些末な噂を聞きつけて呼び出すのですから、余程の奇病なのでしょうね」

 あくまでも仕事の具体的な内容は口にしないが、重病患者がいるということだけは聞き出すことが出来た。そして、その情報を聞いて、俺にしかわからない程度ではあるが、ヴェニアが僅かに顔を曇らせた。

 話に一区切りがつき、再びハルとカイトが戯れ始めた所で、俺は小声でヴェニアに尋ねた。

「・・・・・・どうかしたのか?」

「・・・・・・えっと、あくまでも推測なんですけど・・・・・・」

 そう言って、ヴェニアは躊躇いがちに呟いた。

「カイトさんに依頼した人物、恐らく、現グリス伯爵です」

 ヴェニアが言いたいことはつまり、もうすぐグリス伯爵が亡くなるということなのだろう。



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