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百七十五 学生、罵られる

「取引ってどういう意味だよ」

『そのまんまの意味さ。お互いの持っている情報の交換だよ』

「いや、そもそもいつからクーニャと繋がりが?」

『アテネ姉上がモンテ公爵邸に泊まった時に、アンドレが話声を聞いたと言っていただろう。あれ、クーニャがアテネ姉上に接触を図ったらしいんだ。エラダ伯爵領は国境に接した領地だから、他国との仲介役的な側面がどうしてもある。その過程でスパイと線を持っても不思議じゃない』

「だからって、お前と何の関係があるんだよ?」

『姉上が、俺に彼女との交渉を全て任せてくれたんだ』

 少なくともエラダ伯爵邸をマクマホンが襲撃した後に、スルビヤはクーニャとの繋がりを持ったらしい。思い返してみれば、どことなく彼はアテネとクーニャの繋がりをぼかそうとしていた節がある。

「ちなみに、セバスチャンさんには?」

『言っていない。けど、多分黙認されているんだと思う』

 まあ、セバスチャンなら「面白いから」の一言で全てを済ませるだろうな。

「お前は、ケルンが暴走することを前もって知らされていたのか?」

『いや、事後報告だった。話を総合すると、「分岐」とやらが起こって、ヴェニアがケルンを殺したために、彼女がマクマホンに狙われる未来が決定したらしい』

 スルビヤお前今、「分岐」と言ったのか? それは乙女ゲームのシナリオの話なのか? 乙女ゲームに攻略対象が焼死するルートなんて組み込むか普通。

 駄目だ。全然わからない。

「その話本当か? そもそも、ヴェニアは死刑になるはずだったんだろ? だったら、マクマホンの介入の余地なんて」

 自分で言っていて、ふと気付いた。俺の行動も含めて、「分岐」は発生しているのだと。俺の行動も含めて、ゲームのシナリオの内なのだと。

『どうした? 急に黙って』

「いや、何でもない。それで、どうして俺にヴェニアの救出作戦を教えてくれなかったんだ」

『未来を確定させるためらしい』

「未来を確定?」

『ああ。ラックがヴェニアの死を認識することが、どうしても必要だったらしいんだ。詳しいことはわからないんだが』

 何となく、自分の中にあった違和感の正体に気付き始めた。

 もしかすると、ナオミは乙女ゲームの知識を駆使した未来予測のみならず、アニメや漫画などで見られる特殊能力としての未来視の能力も持ち合わせているのではなかろうか。個人の認識云々でゲームのシナリオが分岐などするはずがない。しかも、俺はメインではなく、仮にゲームに登場していたとしてもモブキャラだろう。それなのに、俺の認識一つで未来が確定する、つまり「分岐」が成立するだと? そんな馬鹿な。そんなクソ細かいシナリオなんてやってられるか。メインキャラの描写に専念しやがれ。・・・・・・話がそれたが、ナオミが前世の知識を用いて自身の未来を見る力を覆い隠していた、という可能性は決してあり得ない話ではない。むしろそう考える方が色々としっくりくる。

 しかし、未来の確定か。そんな二番煎じの様な能力、いや、二番煎じだからこそ、予測でき、また有り得る能力だ。もし、エデンが転生者に対し特殊な能力を与えているとすれば。ナオミの能力はそれが未来視なのかもしれない。

「・・・・・・大体把握した。これから、俺達はどうすればいいんだ?」

『ヴェニアはもう死んだことになっているから、マクマホンのお膝元である王都には戻ってほしくないな。それに、セバスチャンさんからお前に伝言もある』

 そう言って、スルビヤがセバスチャンからの言伝を話している間、隣に居たヴェニアが少しソワソワと落ち着かない様子をしていた。

「どうした?」

「・・・・・・いや、あの・・・・・・」

 何かを言いたげにしているが、羞恥心からかそれが言い出せないようであった。ここは俺が推測してやらねばなるまい。

 少し考えて、そして直ぐに気付いた。

「トイレか」

 ヴェニアが顔を赤らめながらも頷いた。

「別に好きなタイミングで行っていいから」

「・・・・・・ありがとう」

 別に礼を言われることではないんだがな。手を繋いでいるのは、あくまでも俺のわがままでしかないし。

 ヴェニアが用を足しに移動しようとして、そして困惑した顔で俺を見た。

「あの、手、放してください」

「え、やだ」

 さすがに怒ったヴェニアによって俺の手は彼女の手から力づくに外された。そしてトイレに付いて行こうとした俺に嫌そうな顔を向け、俺の監視をハルに命じた。

 ハルなら容易に説得できると思っていたが、彼女は「デリカシー」だの「プライバシー」だの難解な言葉を連呼して俺の行く手を阻み、結局ヴェニアが戻って来るまで、俺は気が気でない時間を過ごした。

 そしてヴェニアが戻って来てから、ずっと通話中であったスルビヤから「さすがにきもいだろ」と罵られてしまった。



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