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百七十 学生、婚約者の痕跡を見つける

 廊下を歩いていると、仲良く二人並んで歩くスコットとヘレナを見かけた。

スコットがマクマホンに指示してヴェニアに何かをしたのでは、とも思ったが、そもそもあれほど短時間の間に、魔法学園から離れ王城で夜を過ごしていたスコットが事件の話を耳にしただろうか。仮に耳にしていたとしても、そこから直ぐにヴェニアを連れ去ろうと考えるから甚だ疑問だ。

 これから見かけるすべての人間に疑いの目を向けてしまうのではないかと考えると、そんな自分が嫌になってくる。ヴェニアは一体、どこに行ったというのか?

 気を紛らわせようと、昼食後の昼休み、特に目的も無く魔法学園中をぶらぶらと歩きまわった。自分が想像していたよりも遥に多くの思い出が散乱していて、少しだけ胸が痛んだ。レンも、ロンも、ナオミも、ユークレインも、ウラルも、最早この学園にはいないのだ。

 ヴェニアが突如として居なくなってしまった為に精神が弱り、感傷的な気分になっているかもしれない。

 いかんいかんと頭を振り、午後の魔道具作製の授業へと向かった。



 授業の終わる時間まで、ついぞ教師は現れなかった。授業自体は個人が魔道具を作るだけなので必ずしも講師が必要というわけではないが、それでもいつも見ている顔が見えないというのは疑問を抱かせるものなのだ。

そう言えば、昨夜クーニャから手紙を渡されていた。ナオミを探して、昨夜のうちに魔法学園を抜けたとか? どいつもこいつも勝手に居なくなりやがって。

 しかし、ふと流れてきた噂話から、魔道具作製の教授は体調を崩しているだけだと知り、俺は猛烈に恥ずかしくなった。

 穴があったら入りたい。いや、誰もいない場所に行って孤独に反省したい。

 そんなことを考える思考の延長で、どこでもドアがあったらなあ、などと考えた時、ふと思い至った。森の中から、スティヴァレ領内の山の頂上まで瞬間移動する方法があるじゃないか?

 俺は駆け足で学園長室へと向かった。

 返事を待たずに部屋に飛び込んできた俺に対し、セバスチャンはいつも通りの様子で対応した。

「随分と慌てていますね」

「昨夜、瞬間移動できる社を使いましたか?」

「はい。スルビヤが」

 スルビヤが?

 おいおいおいおい。ちょっと待て。ということは、どちらが先かはわからないが、俺がヴェニアの許から居なくなった後、命令を受けて森に来ていたスルビヤがヴェニアを連れてどこかに行ったっていうことか?

「・・・・・・そう言えばリンゴちゃんは?」

「庭園にいますよ」

「失礼しました」

 俺は慌てて学園長室を飛び出した後、全力で庭園へと向かった。

 どこにいるのかと探す手間は、ハルが俺に体当たりしてきてくれたおかげで直ぐに省けた。ハルのそばにリンゴちゃんがいたからだ。

「リンゴちゃん様。昨夜、ヴェニアが貴方の社を使いましたか?」

「ヴェニア? が誰かはわからないけど、男の子と女の子が使ったよ」

「どこに行きましたか?」

「わかんない」

「ありがとうございます!」

 そりゃわかんないか。リンゴちゃんは人に興味ないし。

 セバスチャンが言っていた通りスルビヤがケルンの調査に向かったのなら、王都にある公爵邸? それとも領にある屋敷か? いずれにせよ、目星は付いた。

 俺はハルを連れて魔法学園を離れた。



 そしてドゥイチェ公爵邸の前に立ち、俺は目を丸くした。公爵邸は売りに出されていたからだ。

 よくよく考えてみれば、現在ゲルマニア家は戦争責任と共に押し付けられた借金で火の車のはずだ。そりゃ売りに出されているはずだ。

 近所に住む人に話を聞いたところ、夏休み中には既に売りに出されていたという。つまり、ケルンはこの公爵邸以外から通っていたことになる。まさか学生寮? しかし、彼が入寮したなどという話は聞いたことがないし見かけたことも無い。いや、そう言うこともあるのか?

 しかし、もし学生寮なら、わざわざスルビヤがテレポートマシンを使って移動する必要はない。ということは、彼が向かったのはドゥイチェ領ということになる。

 俺は王都の適当な建物の屋根の上に移動した後、腕に抱えていたハルに尋ねる。

「ハル。ひつじ出せるか?」

「ん」

 直ぐに、目の前に筋斗雲が現れた。

 俺とハルはすぐさま雲の上に跨ると、急いでドゥイチェ領へと向かった。



 ドゥイチェ領へと向かう道すがら、スルビヤとすれ違うこととなったらどうすればいいだろうと思いつつ、帰りは瞬間移動で戻ることが出来ない事を思い出し、街道の町を一つずつ確認しながら向かうことにした。

 日が暮れる頃、俺はゲルマニア家の屋敷から二、三個離れた町にスルビヤが滞在している痕跡を見つけ、彼が泊まる宿屋を尋ねた。

 突如として俺が部屋に現れた為か、彼はやや嘘くささを感じる程の大げさな反応を見せた後に俺を出迎えた。

「どうしたの? わざわざこんな所まで」

 彼と同じ部屋にヴェニアはいなかった。別の部屋を取っているのだろうか?

「単刀直入に訊くけど、ヴェニアがどこにいるか知ってるか?」

 すると、スルビヤは「ああ、もちろん」と言って、一旦間を置いた後にスルビヤは答えた。

「王城の地下牢だよ」

「・・・・・・は?」


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