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百六十三 学生、振り返る

 昨日、ヘレナの勢いに押されて彼女の父という謎の称号を獲得するに至ったが、よくよく考えてみれば俺とヘレナは同い年であり、もしかしたら誕生日は彼女の方が早いかもしれない。同い年の子供なんていて堪るかいなと思いつつ、薄い本には幼馴染が父親と結婚して母親となるという混沌極まる展開がしばしば題材として扱われることを考えると、世界のどこかではそういう展開もあるのかもしれないと俺は一人納得していた。

 ともかく俺とヘレナの関係において、その名前が些か奇怪に聞こえるものであったとしても、要は親しいが恋愛感情はないということを押さえておけば問題はないのだ。そして何より、ヘレナと恋仲の第三王子スコットにだけは、俺は夏休みの彼女を王城から誘拐した怪盗アルセーヌという二番煎じどころか三番煎じ名前の人物であるという事実がバレないようにしなければならない。

 しかも、服屋ではヘレナとヴェニアがいる手前普通に応対してしまったが、よくよく思い起こしてみると、俺がマクマホンと対立している事実をスコットは恐らく周知しており、何なら第一王子の病気の治療を妨害するためにマクマホンを通じてエラダ伯爵邸を放火までしているのだから、はっきり言ってスコットとは敵対関係と言っても過言ではない。

 しかし、アテネがマクマホンと繋がっていたとすればわざわざ放火などすることも無く玉手箱を手に入れることが出来たはずであり、やはりモンテ公爵邸でアテネと接触していたのはクーニャ・トリスタンであり、彼女はマクマホンに潜入していた敵国のスパイと考えるのが妥当であるような気がする。

 そしてナオミは部屋の荷物ごといなくなっていたことを鑑みるに、暗殺や誘拐というよりもクーニャを通じて移動したと考える方が適切であり、クーニャとナオミが通じていると思いたい。あくまでこれが願望であるのは、俺がルフィの生存と、彼女がレンと幸せに暮らしているかもしれないという可能性を信じているからに他ならない。

 いっそのこと、アテネを常に見張っていれば、クーニャでなくとも彼女の所属している組織の人間が接触を図るかもしれない。

 そんなことを考えつつ、一番気がかりになっている男の情報を今か今かと待ちながら朝食を頬張っていると、スルビヤが声を掛けてきた。

「おはようラック」

「スルビヤ、どうなった?」

 俺がそう聞くと、彼は何かに納得したように頷き、緩慢な動作で俺の前の席に座った。

「君の心配するようなことは何も起きなかったよ。ケルンが空腹で動けなくなって意識を失った後、俺が森の外まで運んだ。その後は保健室の先生に保護されたよ。報告に行ったら、セバスチャンさんには見殺しにしても面白かったのに、とか言われてしまったが」

「・・・・・・無事ならいいんだ。お疲れ様」

「なあラック。俺ははっきり言って、あんな男は君が心配する価値がないと思っているんだ。あいつは自分の弱さのせいで破滅した。それだけだ。いくら君が目の前の人間を無条件に救おうとするような人間だからって、自分から破滅へと向かう様な人間まで助ける必要はないだろ?」

「俺はそこまでお人好しじゃないよ。わかってるさ」

 朝食をパクパクと口に頬張りながら少しぶっきらぼうに答えた。

「本当にわかってるのか? 義弟くん?」

「何言ってんだか」

「・・・・・・言っておくが、ちゃんとヴェニアから聞いたからな」

 俺は危うく口の中の食べ物を吐き出しそうになった。

「お前達、本当に殺し合いをした兄妹なのか?」

「普通の兄妹は結婚の報告くらいするだろ?」

 普通じゃないって言ったんだよ。

「最初はすさまじいすれ違いをしてたっていうのに。一体何があったんだか」

 何があったかと言われても・・・・・・。

 俺は改めて自分の行動を振り返る。パーティに誘われ、共に参加し、踊り、抜け出して置いてきぼりにし、再会して金的をくらい、名誉を回復せんと口付けを交わし、火事があって何もなく、女体化して玩具にされ、放置し、デートし、気付けば結婚しようかなと思っていた。

「・・・・・・俺、結構やばい思考回路しているかもしれない」

「今更気付いたか」

 そう言って、スルビヤはけらけらと笑っていた。



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