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百五十一 学生、魔法学園に戻る

 夏休みが明け、けだるそうな表情の貴族の子女達が次々に魔法学園へと帰ってくる。彼らはきっと、これから訪れるであろう代わり映えの無い日々に辟易しているのだろうが、すっかり周囲の様相が変わってしまった俺は、どこか物寂しさを覚えていた。

 共に通っていた二人の兄、この学園で知り合った友人達。彼らは各々の理由でこの魔法学園から居なくなってしまった。この学園のシステム上、生徒が減っていくのは不思議なことではないのだが、いざ実際に身の回りで起こってしまうと、どうしようもない寂しさを覚えるのだ。

 特に、受講生徒数がたった二人しかいない魔道具作製の授業など、虚しいの一言に尽きる。

 そんな憂いを帯びて一人食堂で昼飯を掻き込む俺にも、声を掛けてくれる人物がまだ魔法学園に残っていた。

「隣いい?」

「いいよ」

 どっこらせ、と言わんばかりにスルビヤが俺の隣に座った。

「仕事が一段落したって言うのに、どうしてそんなに暗い顔をしているんだ?」

 昼食を頬張りながら、スルビヤが尋ねてきた。

「・・・・・・なんやかんや言って、ナオミとは普通に友達のつもりだったんだよ」

「別に友情が壊れたわけでもあるまいに。それに、むしろ良かったじゃないか」

「どういうことだよ?」

「これで、シルフィア・スカンジナビアが生きている可能性がぐっと上がったじゃないか。ナオミと彼女は親友同士なんだろ。だったら、命の危機をみすみす見逃すはずがない。それに、例え暗闇という状況下とは言え、君のお兄さん程の強者が、あっさりと出し抜かれる方が不思議だよ。事前に取引があって、二人一緒に遠い地で幸せに過ごしているかもしれないぜ」

 スルビヤの考えたことは、俺もおおむね賛成だ。ルフィの流血に対する疑問。遺体の火葬処理をナオミが頼んだ疑問。そのた諸々の疑問を、大方説明することが出来る。

「そうだといいとは、思うんだがな」

「まあ、確かに、少し出来過ぎた筋書きだよな」

「・・・・・・付け加えるなら、エラダ伯爵がモンテ公爵家で密会していた人間は、クーニャの可能性もある。さらに、ナオミがマクマホンと繋がっていると考えるよりは、ナオミと繋がっているクーニャからマクマホンに対し予言がもたらされた、と考えた方が良いかもしれない。ナオミの助言は俺が運命を変えるのを手助けする形になっていたから、マクマホン側に悪い結果しかもたらさないからな」

「どれも確かめようがないんだけどね」

 どれも確かめようがない。唯一、アテネに関しては調査することが出来なくもないが、スルビヤも俺もそれをする気は無いし、セバスチャンも命令しないだろう。それは駐在員の仕事であり、派遣員である俺達は、問題が起きてから行動するしかないからだ。

 勿論自主的に調査しても構わないが、正直藪蛇としか思えない。

「アテネ姉上に関しては、自領が国境にあるだけに、他国の間諜と繋がりがあっても別に不思議はないからなあ。もしかしたら、クーニャが所属している所とも違う、第四国の可能性だってある。

 だから、切り替えていこうぜ。指令があるまでは魔法学園に居られるんだから。折角の青春、めいっぱい楽しまないと」

「なんだかおっさんみたいな言い回しだな」

 実は、スルビヤも転生者だったのか? そんなことを考えながら俺が昼飯を平らげると、それを見ていてスルビヤが、ごほん、と一つ咳払いを入れた後に尋ねてきた。

「・・・・・・結婚おめでとう」

 むせた。丁度皿をきれいにしたタイミングで言われたので、口に含んだものを吐き出すという漫画の様な行為をせずに済んだ。

「結婚しないから」

「ヴェニアを連れて、両親に挨拶に行くんだろ?」

「実家に連れて行くだけだ。結婚なんてしないよ」

「思わせぶりだねえ。貴族の見合いは出会って一秒で決まるって知っているだろ?」

 いや知らんわ。一秒って初対面の人間の第一印象が決定するまでの時間じゃないか。

「そう言うお前は、影も形も見えないけどな」

「今が楽しいからね。全く考えていないよ。それに、相手もいないから。バルカン家は跡取りも決まっていて、俺は結婚を急ぐ理由もないし」

「さいですかー」

 棒読み気味に呟きながら、視界の端に移った人物に俺の意識が吸い寄せられた。

「・・・・・・ケルン」

「普通に通ってくるとは。俺なら数日は部屋に引きこもるね」

 お前はそんなタマじゃないだろ、と内心スルビヤにツッコミを入れつつ、俺はドゥイチェ公爵家の長男を眺めた。

「少し、やせたか?」

「俺はわからん」

 スルビヤは突き放すようにそう言った。

「クーニャは、ケルンをだましていたのか?」

「どうだろうな。だが結果だけ見れば、自分の導く人間の言うとおりに行動して、自分の望む結果が得られなくなってしまったのだから、裏切られた、とケルン自身は思っているだろうね」

 これも、俺が介入した結果なのだろうか。ケルンに対し同情を向けている俺に対し、スルビヤがぴしゃりと言い放った。

「ラックが少し動いた程度で変わるなら、それは運命でもなんでもなかったんだよ。どれもこれもケルン自身の問題だ。君は気にするな」

「・・・・・・スルビヤ。お前、人の心を読む魔法でも使っているのか?」

「内緒」

 仮に人の心を読む魔法があったとして、それが水魔法の場合、魔力が無い俺に通じるとも思えないのだが。

 そんなことを考えながら、俺はふうっと溜息を吐いた。



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