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百五十 下男、予言者が誰かを知る

 戦争前と戦争後で、王都の様子は何一つ変わっていなかった。それもそのはず、結論として戦争は無かった、と言っても過言ではないからだ。

 しかし、変わったものもあった。一つはドゥイチェ公爵家の派閥が自然に解体したことだ。力を持たない主君よりも力を持つ別の誰かを主君とするのは当然だろう。だからと言ってエクサゴナル公爵家の一強になるかと言えばそう単純に事が運ぶわけでもなく、戦争に参加したルーシ公爵家とエラダ伯爵家、そしてモンス公爵家などが集まり、結果として貴族間の勢力図は二大派閥の対立、という構図を残すこととなった。

 もう一つ変わったものがある。俺とヴェニアの上下関係だ。俺は彼女に機嫌を直してもらうために、実家に案内する、という恐ろしい約束を取り付けされられた。

 正直エルトリアがロマ家に帰るまではその約束を履行したくはないのだが、出来るだけ早く家に行きたいとせがむヴェニアのプレッシャーを日々浴び続けることになった。

 しこりを残したまま幕を閉じたマルセイジュ、エルゼス、ケルンの三人の関係のことを思いながら夏休みの終了まで惰性で続けている王城への出仕へと向かうと、アテネからスルビヤ、俺へと流れてきた雑用の為に歩いていた王城の廊下で、思いがけない人物の姿を捉えて、俺はその人物を追いかけた。

 その人が入って行った部屋へと飛び込むとそこは暗く、ふと何かが首に巻き付いて来る違和感と共にしゃがみ込んで前方に跳ねて振り向いた。

 そこにいたのは、クーニャ・トリスタンであった。

「久しぶりだね」

「お久しぶりです。・・・・・・その眼鏡、やはり外した方が素敵ですよ」

「これを掛けている方が良く見えるものもあるんだよ。君の肌の色とかね」

「・・・・・・変装を見破れる眼鏡、というわけですか」

 変装は眼鏡が無くても見破れるのだが、そんなことをわざわざ教える必要は無かった。

「・・・・・・なら、やはり外してください。見ていて、不快でしょ」

 突然何を言い出すんだろうと思ったが、俺は気にしないことにした。

「肌の色なんて大した問題じゃない。もんだ」

 俺が言葉を言い終わらない内に、クーニャは笑い出した。どこか嬉しそうなその笑い声は、あまりの不気味さに俺に不安感を植え付けたほどだった。

「そうよね。貴方は、私の本当の姿がわかっていて、踊ってくれたんだから」

「・・・・・・さっきから何を話しているんだ?」

「個人的な話よ。・・・・・・それで、私を追いかけたということは、デートのお誘い?」

「いいや。君がどこの国の人間なのか、力尽くで聞き出そうと思って」

「・・・・・・あら、マントに身を包んだ奇人集団の一員かもしれないわよ」

 反応を見るにスパイということは間違いないだろう。しかし、彼女の狙いは一体どこまでなのだろうか。今回の戦争で終わりか、既に次の計画の為の種をまいているのか。

「そんなに警戒しなくても、もう私は何もしないわ。会うことも無いでしょう。・・・・・・個人的に、というなら考えるけど」

「俺は君を捕まえる」

 クーニャの体は常に魔法に変換寸前の魔力を纏っていて、どの瞬間にも魔法を放つことが出来るようになっていた。すなわち、正面から突っ込んだ場合一瞬で返り討ちに合う可能性があった。

 話をしている内に少しでも隙が出来てくれればありがたかったのだが、その様子も見えない。このまま会話で少しでも情報を聞き出した方が得策だろう。

「今ここで見逃してくれれば、一つだけとっておきの情報を教えてあげる」

「情報にもよるね」

「予言者は今の所、一人しか確認されていないって知ってる? それも、貴方の身近に」

 その瞬間、俺の頭の中に一人の少女の顔が浮かんだ。その動揺の隙があまりにも大きかったのだろう。

 俺は数泊の遅れの後に逃げ出したクーニャを追いかけたが、気付けば彼女を見失っていた。



 仕事を終え、俺は魔法学園へと向かう。ハルを預けているヴェニアの許に向かうという理由や、現在はエラダ伯爵邸が燃えてしまったので自室に寝泊まりしているという理由もあるが、俺が向かったのは学生寮の女子棟であり、ヴェニアの部屋がある階とは異なる階だった。

 一つの部屋の前に立ってその扉をノックするも、返事は無かった。心の中で謝りながら、俺は扉を開けた。

 鍵が掛かっておらず、扉はあっさりと開いた。

 ナオミの部屋は、もぬけの殻となっていた。



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