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百四十 下男、ヒロインを寝かしつける

 暫くの沈黙が俺とヘレナの間に流れた。そこに甘い雰囲気など少しもなく、俺は何か後ろ暗い思いが彼女を突き動かしたことを容易に想像することが出来た。

 そして、ようやく彼女が口を開いた。

「・・・・・・貴方が、私のことをわかってくれたから、だと思います」

 俺は偶々タイミング良く彼女が望んでいた言葉を彼女が望んでいる時に与えることに成功していたらしい。これがほぼ初対面で攫われることを承諾した理由か。

「貴方に、呪いだって言われて、私、はっとしたんです。ものの見方が百八十度変わったような、そんな気分。私の中で、母は正しいって思いと、歌を歌いたいって気持ちがいつもぶつかっていたんです。そしていつも、母が正しいって考えが勝つんです。でも、それは頭で考えた結果でしかなくって、どれほどそう思っても、何度も同じ問いを繰り返してしまうのは、心が納得していなかったからだって、私ようやく気付けたんです。

 スコット殿下は、私にとても優しくしてくれる。でも、最近は自分の想いに振り回されているのか、私を城に閉じ込めて、自由にさせてくれないんです。その分会う時間が増えるなら構わないと思っていたんですが、彼は忙しくして、会う時間は増えるどころかむしろ減ってしまって。彼の、私を大切にしたいって気持ちが、呪いに変わってしまったんだって思うと、何だか、全部どうでも良くなっちゃって。

 貴方ならきっと、私のことをちゃんと見てくれて、私のことをわかってくれると思ったから、だから・・・・・・」

 ヘレナの瞳には、期待の色が浮かんでいた。

 俺は他人の心を読めるわけじゃないから、彼女が今何を考えているのかはこれっぽっちもわからない。しかし、今どんな空気が流れているかは少しだけ察することが出来る。

 しかし、俺はヘレナに対する恋愛感情が無かった。これっぽっちも無かった。そして、ヴェニアがこういう目をしていたら、きっと口付けをしてしまうのだろうと、俺は考えていた。

「俺は、王子の代わりにはなれませんよ」

 ヘレナは目を細めた。

スコットの代わりだけじゃない。俺はヘレナの母親の代わりにも慣れない。俺は君の望む愛を与えられないよ。

「それでもいいです。今だけは、私に優しくしてください」

 それでも俺がどうしようとも思わないのは、どうしてなのだろう。魔法学園のパーティーの時には、流れに身を任せてしまえ、と思えたのに。今はそういう気分になれなかった。

「・・・・・・膝枕、してもらえませんか」

 瞬間、俺は顔から火が出る程恥ずかしくなった。

 膝枕か。そうかそうか。優しくってそういうことだよね、うん。俺は一瞬たりともこれっぽっちも他のことを考えてなかったよ。変なことを考えてなかったよ。いやー、膝枕か、膝枕。そうだよな、うん。普通膝枕だよ。

「それくらいなら、構わないですよ」

 俺が投げだした足の太ももの上に、ヘレナが頭を置いた。

「頭を、撫でてくれませんか」

 俺は彼女の頭を撫でた。よしよし、よしよし、と念じながら。

「私、アルセーヌさんのこと、父親みたいだな、って、少し思っているんです」

「・・・・・・父親!?」

「はい。私が間違えたら正してくれて、私のことを見てくれていて。父親がいたら、きっとこんな感じなのかなって」

「・・・・・・貴方の、本当の父親は・・・・・・?」

「生まれた時にはもう、母と二人暮らしでした。母は父の話題を嫌がっていたので、生きているのか、死んでいるのかもわからないんです」

「でも、お墓には」

「お墓のことを知っているんですか!?」

 やっべ、調査していることがバレた。

「貴方のことを少しだけ調べさせてもらう過程でね」

「そうなんですか。・・・・・・お墓は、確かに父の名前も掘ってあります。でも、あそこに父の骨は無いんです。掘り返してみたので、間違いありません。・・・・・・もう少し、撫でてもらえませんか?」

 あ、手が止まってた。

「・・・・・・それで、母親の方は?」

「亡くなりました」

 ですよね。

「申し訳ありません」

「いえ。お気になさらず」

「・・・・・・所で、貴方はどうやって魔法学園のことをお知りになったのですか?」

「母が亡くなってしばらくしてから、ある人に言われたんです。「君の魔力は透明だ」って」

「透明?」

「はい。特異な魔法が無い分、どんな魔法でも使える特徴を持った魔力らしくて。その人が魔法学園のことを教えてくれました」

「その方はどのような方なのですか?」

 もしや貴族? もしくはマクマホン?

「ゴンベエ・ナナシノさんという方です。名字がおありなので、貴族の方だと思います」

 ヘレナさん、それ一ミリも名乗っていませんよ。

 それから、愚痴とか、不満とか、他愛もない話とかを、ヘレナは疲れて眠りにつくまで、俺の脚の上で延々と話し続けた。

 レベルアップしているとは言え、さすがに脚が痛くなった。



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