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百三十六 下男、相談される

 学園長室を出た後学生寮の自分の部屋に行き服を着替えた。

 眼鏡を掛け、闇に溶けるような黒尽くめの服に身を包む。俺は魔力が無いから結界の類には引っ掛からないのだが、魔法が使えないためにもし見つかったらかなり命の危険がある。

 最近自分の実力というやつが少しだけわかって来たが、魔法は基本一発でも喰らったら即死なので俺は敵が攻撃する前に先に相手を戦闘不能にさせなければならない。

 まあ、速さには自信があるから、何とかなるだろう。いや、しかし、マクマホンの一味がいたらどうする? あいつら俺より速いからな。

 不安になり、念のためという気持ちでいくつか魔除けの石をポケットに入れた。

 ちょうどその時、俺の部屋の扉がノックされた。

 誰だよ! いや、心当たりはある。一、セバスチャン。何か伝えることがある。二、スルビヤ。何か言っておきたいことがある。三、ヴェニア。きっと話が長くなる。四、ナオミ。暇だから俺にダル絡みしてきたに違いない。五、ハル。なぜか俺の存在に気付いて会いたくなった。

 さあてどれが来るかな。

 はいはい、と扉を開けると、そこに立っていたのはアンドレであった。彼は夏休み期間の現在、実家に帰っていないみたいだ。

 全く以って予想外の人物の来訪に少々面を喰らってしまった俺であったが、そういうこともあるだろうと思い、俺は直ぐに気持ちを切り替えた。

「どうしたんだ?」

「ルシウス。実は、君に相談があるんだ」

「相談、ねえ」

 ちらりと窓の外に目を向ける。まだ日は沈んでいないし、一時間程度なら何の問題もないだろう。

「俺の部屋でいいか?」

「うん。お邪魔します」

 ベッドに占領された狭い部屋に公爵家の人間を招き入れた。

「ベッドでも椅子でも、好きに腰掛けてよ」

「うん。ありがとう」

 そう言って、彼は椅子に腰を掛けた。俺もベッドに座り、彼の方に顔を向ける。

「その恰好、これから出かけるの?」

「ああ。と言っても急いでいるわけじゃないから、ゆっくり話してくれて構わないよ」

「ありがとう」

 そう言って、アンドレは二三回深呼吸をした後、ゆっくりと話し出した。

「実は、この手紙のことなんだ」

 そう言って、アンドレは懐から手紙を取り出して俺に手渡した。既に開けられた封蝋に刻まれた紋を見てみるが、俺にそれがどの家のものなのか判断する知識は無かった。

「中身を見てもいいか?」

「もちろん」

 開けて手紙の中身を見ると、俺はその中身に衝撃を受けた。

「これ、モンス公爵家にドゥイチェ公爵家の派閥に入るよう催促しているように見えるんだけど」

「僕もそう思ったよ」

 いやいやいやいや。これ、俺が見ていい手紙じゃないでしょ。いや、結果的に見ることが出来て良かったんだけどさ。

「今、兄様は王都に向かって移動しているんだけど、ケルン殿に着いたら渡すようにと頼まれたんだ。二人は知り合いだから手紙のやり取りくらい不思議じゃないんだけど、この手紙を渡した時のケルン殿の表情があまりにも深刻そうで。緊急の用件だったらどうしようかと、つい中身を見てしまったんだ」

 それでも見てはやばいのでは? いや、気にしてはいけない。情報提供者にはそう言う感情を持たず、素直にありがとうと思っておけばいいのだ。

「最近、戦争が起こるかもしれないという話を聞いてさ。今、ドゥイチェ公爵家の派閥が戦争に賛成していて、エクサゴナル公爵家の派閥が戦争に反対しているんだ。もし王が、貴族の動向を注視しているさなかに、ロマ家まで戦争賛成派に回ると、戦争が起こってしまうかもしれないって」

「・・・・・・つまり、アンドレはこの手紙を処分してしまおうと考えているんだな」

 一瞬どきりとしたような表情になったが、やがてコクリとアンドレは頷いた。

「この手紙だけを消しても、二通目が届くだけだ。それに、君の立場が危うくなる。自分の手紙だと思って謝って開封したことにして、この手紙はちゃんとシモンさんに渡すんだ」

「でも、戦争が起こっちゃうかもしれないんだよ」

 戦争が起こらないように、今から俺はヘレナを誘拐する。しかし、そのことをアンドレに話すことは出来なかった。

「大勢っていうものはそうそう覆らない。君は、一度モンス領に戻ってのんびり過ごして心を休めた方がいい。人の手紙を開けるなんて褒められたことじゃないぞ」

 そう言って、少しの違和感があった。俺の言い分だと、手紙を開ける前からアンドレが正気じゃないみたいじゃないか。

「アンドレは、いつ戦争のことを聞いたんだ?」

「・・・・・・昨日だよ」

 昨日だと!?

「昨日、火事が起きて屋敷が一つ燃えただろ。そこに住んでいた貴族を、うちの屋敷に泊めたんだ。その時に話を聞いて」

「誰から? 誰から聞いた?」

「・・・・・・エラダ伯爵だよ。彼女と誰かの話声を偶然耳にしてしまったんだ」

「誰かって誰だ? 他に貴族を止めていたりしたのか?」

「いいや。多分侍女じゃないかな。他に誰かが居るわけでもないし」

「アンドレ。君はどこでその話を聞いたんだ」

「自分の部屋だよ。扉の前で立ち聞きするわけにもいかないだろ」

「・・・・・・確か、客間と君の部屋はかなり離れていたよな?」

 俺はモンス公爵邸泊まった時の記憶を思い出しながら訪ねた。

「最近、どこかに隙間が空いたのか、風の流れで偶然聞こえたんだ。僕だって聞きたくなかったよ。でも、偶然聞こえちゃったら、不安にもなるだろ? 実際手紙の確認をしてみたら、物騒な内容が書かれていたし」

 なあ、アンドレよ。エラダ伯爵と話をしていたのは、本当に侍女か? いや、君は知らないか。人を疑ってばかりの俺には、マクマホンだとしか思えないんだが。



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