百三十五 下男、展開に追いつく
スルビヤが学園長室を出て行った後、俺はセバスチャンに尋ねた。
「状況を把握しきれていないのですが?」
「何でもお答えしますよ」
セバスチャンがいつもより上機嫌だったので、俺は少しだけ嫌な予感を覚えながらもセバスチャンに尋ねた。
「そもそも、ヘレナの調査を指示した理由を教えてください」
「貴方の想像通りです」
「俺は彼女の見た目が王族の様に見える点が問題だと言っていた。しかし貴方は彼女の血筋が気になっているみたいだ」
「建国神話では、不死鳥が王に魔法を授けました。しかし実際は、不死鳥の持つ血の力のお蔭なのです」
「・・・・・・意味が分かりません」
「そもそも、何故人は魔法を使えるのでしょうか?」
「何故って・・・・・・、魔力が、あるからです」
「そう。意思によってその形状を変化させるエネルギー源である魔力があるからこそ、我々は魔法を使うことが出来、貴方は魔法を使うことが出来ない」
セバスチャンのやつ、俺に魔力が無いことを知っていたのか。
「では、魔力とはどこから湧いて来るのか?」
「どこから・・・・・・?」
確かに。自然現象を引き起こす魔力というエネルギー源は、一体どこから湧いてくるのだろうか。まさか、無から生まれるというわけではあるまい。
「魂からだ、というのが私の認識です」
「はあ?」
「貴方が魔法を使うことが出来ないのは、リンネ様が貴方の魂をこちらの世界に送ってくる時に、魔力を放出するように調整していなかったことが原因と考えられます」
何だ。全部あいつのせいだったのか。
「ですが、何もせずに送り出した貴方が魔法を使えないことが物語っているように、元来、この世界の人々も魔法を使うことが出来ませんでした」
「・・・・・・不死鳥の血が混じった人間だけが、魂から魔力を放出できると?」
「はい。不死鳥はその不死性故か、存在が精霊に近いのです」
「存在が魔法であるから、その子孫も魔法が使えると?」
「はい」
納得できるような、納得できないような微妙な話だ。
「つまり存在が精霊に近いと、すごい魔法が使える、と言いたのですか?」
「結論はそうです。しかし、例えばハルさんでは駄目なのです。彼女の存在は確かに精霊に近いが、その種類が不死鳥から大きくかけ離れてしまっている」
「つまり不死鳥の血の濃いヘレナにだけ始祖の王の様に、争いを静める歌を歌えるというわけですね」
「そう言うことです」
「それ、王家の人々にも同じことが言えますよね?」
「はい。しかし、王家の方々が私の頼みを聞いてくれるとは思えません」
まあそりゃそうか。
「まだ何か気になることでも?」
「・・・・・・貴方が戦争を止めようとしていることが意外で」
「同族嫌悪、というやつです」
「同族?」
「この世界で一人だけおいしい思いをしているのが許せないんですよ」
「何の話ですか?」
「個人的な話です」
「そうですか・・・・・・。ちなみに、その人ってマクマホンとか今回の戦争の裏で糸を引いていたり」
「しますね」
「そいつをとっちめれば全部丸く収まるじゃないですか!?」
「不可能です。神ですから」
「ゴッド?」
「ヤオヨロズ」
セバスチャンもしかして日本通なのか。今度から少しずつネタを振って行こう。
「私は転生者ではありませんよ」
心の中を読むな。
「その神様って、悪戯好きな方ですか?」
「もちろん」
つまり、セバスチャンは神話の時代から生きているお方ってことだ。不死になる実を盗んだとかいう話だが、まさかそれがリンゴちゃんだったりして。あっはっは。
「後、聖地の話を聞きたいんですが」
「こちらは宗教的な話なので、熱心でない方は興味がないでしょうね。簡単に言えば故郷が他国に奪われて散り散りになった民族を集めて国を建てるという大義のもと戦争して領土を獲得したい、ということがわかれば十分です」
「つまりめんどくさい問題だと」
「そう言うことです」
「・・・・・・で、俺はヘレナを魔法学園に連れてくれば良いんですか?」
「はい」
「でも、索敵魔法なり追跡魔法なりでヘレナの位置は直ぐに割れてしまうのでは?」
「ここは私のテリトリーなので問題ありません」
「そうですか・・・・・・」
「質問がないようでしたら、早速お願いしますよ」
やけに気合の入った目だった。余程エデンのことが嫌いらしい。何があったのかは知らないが、とりあえず俺は俺の出来ることをしよう。