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百三十三 下男、ヒロインを秘密を知る

 王族を前にして恭しく礼をしたシャノンに続き俺も頭を下げる。俺達の姿を見た途端、駆け足で王が近付いてきた。

 無意識に顔を綻ばせていた王は、シャノンの手を取り固く握った。

「其方の様な忠臣に恵まれるとは。これを天の采配と呼ばずして何と言うべきか」

「勿体無きお言葉、卑小なる我が身には過ぎたる光栄です」

「何を言うか。其方がいなければエングに明日は無かった。これは揺るぎない事実だ。心の底からの感謝を」

 王とシャノンの会話を話半分に聞きながら、内心今すぐこの部屋を出て行きたいと思っていた。先ほどから王はシャノンと話してばかりいて、俺には少しの注目も来ていない。

 それもそのはず、そもそも今回の話はシャノンの手柄、ということにしたいのだから、一体なぜ俺を呼びつけたのか、シャノンとエリンの意図を測りかねていた。

 この後にも用事があるのか、やや名残惜しそうに王と王妃は部屋を出て行き、俺とシャノン、エリンとエングが部屋に残された。

「殿下。お加減は如何でしょうか?」

 シャノンがベッドの上の第一王子に話しかけた。

「胸の痛みも倦怠感もない。まるで子供の頃に戻ったような気分だ。全て其方のお蔭だ」

「僭越ながら殿下、此度のことは、私一人の力では到底なし得られませんでした」

「そこにいる者の協力があったということか。其方、名は?」

 王には紹介せず、第一王子には紹介した。なるほど。王族に聞いてほしい願いがあるなら、第一王子の方が力になれるかもしれないと考えたのか。しかし、病で政治の世界から身を引いていた王子が、そもそもヘレナの存在を知っているかどうかも怪しいぞ。

「ラック・イタラナイです」

 シャノンとエリンが僅かに顔を曇らせたが、俺は気付かないふりをした。

「ラック。何か望みはないか? 私の力の及ぶ限り、其方の望みをかなえて見せよう」

「ではまず、お人払いを」

 第一王子が目配せをすると、シャノンとエリンは直ぐに部屋を出て行った。

「望み通り人払いをした。せめて、本当の名を教えてはくれぬか?」

 シャノンとエリンの小さな表情の変化に気付いたのか。意外と食わせ物なのかもしれない。

「・・・・・・ルシウスです」

「ルシウス。其方の望みは何だ?」

「ヘレナ、という少女をご存じでしょうか?」

「スコットが目をかけている魔法学園の女生徒だな。確か、紫紺の瞳を持つとか」

 そう言ったエングの紫の瞳がきらりと光ったような気がした。

 やはり知っていたのか。病で臥せっていた期間は、少なくとも一年間、まあ恐らくはもっと長いだろう。

 だというのに、その間に起こった情報をちゃんと手に入れている。使用人たちの噂話に目敏いのか、情報を仕入れる伝手があるのか。

 もしかしたらマクマホンと繋がっている? いや、それはない。彼らは第一王子の死を望んでいる。仮に通じていたとしても、第一王子はマクマホンが自分を殺そうとしていることに気付いているのではないだろうか?

「単刀直入にお伺いします。彼女は王族なのでしょうか?」

「・・・・・・答えは是であり、否だ」

 どういうことだ?

「彼女はアルビオン王家とは血の繋がりを持っていない。王城に出仕している人間で、王の手付きにあった者の消息は全て把握しているが、ヘレナはそことは全く関係ない所の出身だ。

 けれど、王の資質を持っているかと問われれば、それは是だろう」

「瞳の色の問題ですか?」

「いいや。ルシウス。この王国の建国神話は覚えているかい?」

 俺はユークレインの嬉々として語る様子を思い出しながら「はい」と返事をした。

「建国神話を信じるならば、王家とは不死鳥の血を引いている。・・・・・・勿論、不死ではないがな。つまり、王家の血の特異性は、不死鳥の子孫であるという伝説によって意味づけられているのだ。勿論、歴史と伝統はあるがな。そして、ヘレナという少女は、まさにその伝説通りの少女ではないかと推測できるのだ」

 こいつは、何を言っているんだ?

「それは、ヘレナが不死鳥の血を受け継いでいる、という意味なのでしょうか?」

「そうだ」

「・・・・・・偶然瞳の色が紫になる、という可能性もあるのでは?」

「・・・・・・私は、病で臥せっている間に、一つの特技を身に付けたんだ」

「特技、ですか?」

「ああ。私は、人の魔力の色が見えるのだ」

 それは、俺の眼鏡の上位互換に当たる能力では? 俺の眼鏡は、あくまでも使おうとしている魔力の種類を特定する程度の働きしかしていない。勿論、周囲が暗ければ体から僅かに漏れる魔力の色を見ることもできるが。

「端的に言うなら、個人個人が違う色に見えるのだ。そしてその色には大まかに傾向があって、血が濃いほど色が似るんだ」

「つまり、ヘレナの色が、王族の人々の色と極めて酷似している、ということでしょうか?」

「そうだ。王家の血を引いていないのに、同じ質の魔力を持っている。これは、始祖を同じくしている、と考えるしかないだろう」

 何とも言えないが、俺も同条件で推測するならば、同じ結論に至ってしまう。不死鳥の子供? それがヘレナの秘密だったのか?

 こいつは少し予想外の結論だな。

「ということは、殿下はヘレナにお会いしたことがあるのですね?」

「ああ。スコットが見舞いに来た時に連れてきたよ。恐らく、彼女の方がわがままを言ってついてきたのだと思うのだが」

 まさかの意外とスコットの方が尻に敷かれているかもしれない新情報まで手に入れてしまった。こいつは大収穫だ。

「殿下。このことは」

「もちろん誰にも言っていない。言うべき事柄ではないからだ。其方が命の恩人故、私は其方に話したのだ」

「お心遣い、痛み入ります」

 もうこの話をセバスチャンに持って帰って、さっさと王城からは引き上げるか。恐らくは、次の任務はその不死鳥の捜索になるだろう。

「時に、ルシウス。一つ、尋ねてもいいか?」

「はい。何でございましょう?」

「私は先程、人の魔力の色が見える、と言ったのを覚えているか?」

「もちろんでございます」

「・・・・・・では、何故其方の魔力の色が見えないのだろうか?」

 そう言えば俺、魔力が無いって設定でしたっけ?



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