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百三十 下男、女神様のお仕置きを受ける

 ヴェニアの部屋に向かうと、布団の上で丸くなっているハルとけらけらと笑っているスルビヤ、そして無表情だが凄みのある顔のヴェニアがいた。

 これって一体どういう状況?

 ヴェニアに聞ける雰囲気ではなく、俺はスルビヤに話しかけようと隣に座った。

 瞬間、舌打ちの音が部屋に響いた。

 俺はびくりと体を震わせて音がした方に目を向けた。先ほどまで無表情であったはずのヴェニアの顔に、静かな殺意が込められているような気がした。

「ラック、お前、やらかしたな・・・・・・」

 スルビヤが大声で笑いだしたくなるのを必死で耐えて言う様子を見て、大方の出来事をヴェニアがスルビヤに伝えたのだと気付いた。

 いや、普通話すようなことか? いや、兄弟なら話さないことも無いのか?

「あの時は、丁度タイミングよくエラダ伯爵邸の方から火の手が上がっているのが見えて」

「普通そんな状況で窓の外なんて見ないだろ」

 そう言って遂に我慢の限界を迎えたのか、スルビヤは腹を抱えて笑い出した。いくら夏休みで周囲の部屋の人間がいないとは言え、夜中に大きな声で騒ぐのは如何なものかと思った。特に不機嫌な人間がいる状況下でするようなことではない。

「そんなに笑うことないだろ」

「そう。笑い事じゃすまさないですよ」

 ヴェニアの一言に俺の背筋が凍りついた。

「仏の顔も三度までって言葉、以前教えてあげましたよね?」

 いや怖い怖い。そんなヤンデレみたいな顔しないでよヴェニアさん。ていうか三度って何?

「パーティの夜、路地裏、今日の三回ですよ。当然わかりますよね」

 勿論わかりませんでした。

「まあまあ妹よ。そう怒ってやるな。ラックにもタイミング、というものが、きっと、恐らく、多分、あるのではないだろうか、と推測することが、出来なくもない、ような気がする」

 すごいぞスルビヤ。全く説得力がない。

「そんな話どうでもいいんですよ。ていうか何ですかラックって。兄様とハルちゃんはラック呼び何ですか。そうですか。ふーん、へー」

 なになになに? 呼びたいなら好きに呼んでいいから。

「折角だし、私も特別な呼び方がしてみたいです。でも、私はとっても優しいので、本人の希望を優先させてあげたいと思います」

 あれ、とっても優しい提案じゃないか。さてはヴェニア、機嫌を直したな。

「一、ひよりん。二、へたれん。三、童貞。この三つの中から好きに選んでいいですよ童貞」

 それもう選んじゃってるよね? ていうか三つ目もっとオブラートに包もうか?

「あの、四、ラックという選択肢は」

「童貞に選択権なんてありませんよ」

 辛辣! 理不尽過ぎる。俺そんなに怒らせるようなことしたっけ?

「ラック、お前はきっと、自分はヴェニアをここまで怒らせるようなことをしていないと考えていることだろう」

 スルビヤお前、いつ心の中を読む魔法なんて習得したんだ。

「いいか。この世には二種類の達が悪い人間がいる。一つは終始ろくでもない人間。もう一つは、上げてから落とす人間だ。しかも、後者の中には無自覚に行っている人間も多く更に性質が悪い」

「あの、何の話をしているの?」

「人に期待させておいて裏切る男はクソって話だ」

 そんなにぼろくそ言われることか!? ねえ神様。俺悪くないよね?


“いいえ。貴方が悪いです”


 おかしい。俺の心の中の何でも許してくれるはずの神様が俺を否定してきたぞ。

“いつまでも布教の約束を果たさない貴方は、人をさんざん期待させておいて落とす最悪の存在です”

 この神様も辛辣だ。ていうか布教の約束って何?

“それすらも忘れてしまわれたのですね。貴方を転生させたことを後悔しそうです”

 まさか・・・・・・、女神様か? 確かリンゴちゃんはリンネって呼んでいたっけ。

“ええ。その認識で合っていますよ。私は今、貴方の心に直接話しかけています”

 いや、そもそもそんな約束した覚えありませんよ。

“貴方が覚えていなくても、私は覚えているのです”

 何という理不尽。

“いつまでも約束を履行しない貴方には、私が直々に制裁を下してあげましょう”

 いやいやいやいや。ちょっと待ってください。転生時に約束していたとして十五年放置しておいたとしても、まだ警告を受けたのは春ですよ。半年も経っていません。

“いいえ。私は同じ長さちゃんと待ちましたよ。それすらもわからないとは。これはお仕置き確定ですね”

 いやお仕置きって。

 瞬間、体が勝手に動き出した。抵抗しようにも、無慈悲に俺の手は玉手箱へと延びる。

 スルビヤとヴェニアは不思議そうに俺の様子を見ており、俺の手はするすると玉手箱の紐を解いていった。

 いやいやいやいや、ちょちょ待ってちょおい!

“私はもう待ちませんよ”

 いやそっちの話じゃ、いやおい。

 俺の手は意識に逆らって玉手箱の蓋を開け、中身の秘宝をばっちり目視した後その蓋を閉じた。

 瞬間体の自由を獲得し、俺は咄嗟に胸に手を当てた。あった。下腹部に手を当てた。なかった。

 嘘だろ・・・・・・。

「ラック、お前、何してるんだ?」

「女に、成っちまった」

 開いた口が塞がらない様子のスルビヤをよそに、状況が全く呑み込めていないヴェニアは俺の胸に手を当てて、驚いて、再び手を当てた。

 いやどんだけ触るねん。

「なるほどなるほど。これが貴方なりの誠意の見せ方というわけですか」

 何やら邪な笑みを浮かべたヴェニアは、スルビヤを「ここからは女の子だけの時間ですよ」と言って部屋から追い出した。

「たっぷり遊んであげますからね」



 結論から言えば、俺はヴェニアの玩具になった。夜通し俺で遊び倒して、彼女が疲れて眠った隙に、俺は再び玉手箱の蓋を開けた。

 胸。ない。下腹部。ある。

 俺は、一度変わった性別が元に戻ることを、身をもって発見した。

 朝日が窓からこぼれ、スズメがちゅんちゅんと鳴いていた。

俺は明るくなりつつある世界に、第一王子の病気を治したらキュウビに玉手箱を返すことを誓った。



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