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百二十七 下男、炙り出される

空へと立ち上る煙の場所を目指せば、自然と足はエラダ伯爵邸へと向いた。近付くほどに群衆は過密になっていき、人々の群れを掻き分けて進むと、ようやくエラダ伯爵邸の前に着いた。

 煌々と闇を染め上げる赤い光。パチパチと何かが爆ぜる音。使用人が住む別邸を中心に、激しく火が逆巻いていた。

 半ば無意識に燃え上がる建造物の中に走り出そうとした瞬間、がしりと強く腕を掴まれた。振り向くと、スルビヤがいた。

「無事だったのか!」

「おう。無事だよ。姉上も使用人も全員無事だ。だから無闇に飛び込むなよ」

 友人の無事を確認して安心したのか、ほっと息を漏らしてしまった。そして直ぐにはっと息をのんだ。

「玉手箱が!」

「待て待て待て」

 再び灼熱の炎の中に飛び込まんとする俺の腕をスルビヤが掴んだ。

「それもここにある」

 動揺していたのか、スルビヤの脇に抱えられた玉手箱の存在に気付くことが出来なかった。

「迷わず飛び込むのはラックの長所だけど、しっかり状況判断が出来てなきゃただの悪手だぞ」

「・・・・・・わかってるよ」

 想像以上に気が動転していたようだ。もしやここに来る前にヴェニアの部屋の中で起こった一幕が何か関係しているとか。・・・・・・まさかなあ。いくら童貞とは言え、そこまで動揺することじゃないだろ。

「ラック、大丈夫か? 足が震えてるよ」

「ぶるえでないよ」

「声も震えてる」

 俺の様子を見て、スルビヤは快活に笑い声をあげた。どうやら、俺が緊張をほぐそうとわざと道化のような態度を取っていると考えてくれたらしい。

「・・・・・・所で、犯人は捕まったのか?」

 正直、俺は放火しか疑っていなかった。

「いや、追跡魔法を使っているんだが、何故か反応が上空に出るんだ」

「上空に?」

 俺は懐から黒縁眼鏡を取り出し、燃え盛る火を観察する。

 微かに残る、火の色とは違う赤い光が、その炎が魔法によって発生したもの、つまり人為的なものであることを示していた。

 そのまま視線を上空に向けた。しばらく首を動かして、ふと気になるものが視界の端に映り込んだ。

 赤い光だ。それも大きくまとまっている。何となく人型の様にも見える。

 何だあれは。

 そう思い黒縁眼鏡を外して確認するが、視線の先には何も無かった。疑問に思って再び黒縁眼鏡を掛けると、赤い人型の光は確かに空中に存在した。

「なあ、さっき反応が上空に出たって言ったよな?」

「言ったけど・・・・・・」

「ちょっと、こいつをかけてあそこら辺を見てくれないか?」

 そう言いながらスルビヤに黒縁眼鏡を渡し、赤い人型の光があった方角を指差した。

「一体どうしたんだ?」

 そう言いながらスルビヤは眼鏡を掛けて上空を見上げた。そしてはっと驚くと直ぐに頭を下に向けた。

「ラックにも、あれが見えたんだな?」

「ああ。でも肉眼じゃ観測出来ないんだよな、あれ。一体何なんだろう?」

「・・・・・・精霊だよ」

「・・・・・・精霊?」

 そんな存在居るような設定あったっけこの世界? まあ、魔法もあるしドラゴンも魔物もいるから、精霊みたいなファンタジックな存在がいても不思議ではないが。・・・・・・でも、エルフとかエルフとかエルフとか見たことないぞ?

「やばいぞ。何であんなものが王都にやってくるんだ?」

 スルビヤは俺が当初想像していた以上に動揺していた。

「確か、ラックは以前、マクマホンが関わる事件でドラゴンに襲撃されたんだよな?」

 俺ははっきりと思い出すことが出来た。我が姉、エルトリアの結婚式の数日前に起こった、イタロス家の別荘及びその近くに群生していた万能薬となる白い花が燃えてなくなった事件。その花畑を燃やし尽くした犯人こそ、ドラゴンであった。

「ああ。・・・・・・もしかして、精霊って言うのは、ドラゴン並みにやばい存在なのか?」

「やばい。かなりやばいぞ。ドラゴンというのは、人間か人間以上に賢い。だから方法さえあれば意思の疎通が出来るんだ。でも、精霊は違う。元来、あいつらは知性を持たないんだ。だがそれ故に何もしない。ただの力の塊なんだよ。

 そんな奴が、俺達の屋敷を、ピンポイントで襲っただって!? やばすぎるだろ。明確な攻撃の意志を持ち、的確に攻撃する知性を持ってるんだぞ!」

「具体的に、どれくらいやばいの?」

「精霊は魔法そのものと言っていい。端的に言えば、『業火』みたいなものだ」

 それって即死じゃないですかい!

「何でそんなやつがこの屋敷を襲ったんだよ?」

「わからん! ただ、マクマホンかその関係者の差し金であることは間違いない」

 ふと、今日の出来事を思い出す。等々に第三王子に話しかけられたことだ。

彼はマクマホンと繋がっている。偶然見かけたと言っていたが、もしそれが嘘で、俺が王城に居ることをあらかじめ知っていたとしたらどうだろうか?

 何らかの形で第一王子の病気を治す手段を俺かシャノンが持っていることを知ったら、何をすればいいだろうか。

 あぶり出せばいいのだ。

 王子は文字通りそれを行った。

 咄嗟に家に火を放てば、本当に大切なものだけを持ち出す。その人間の真理を突き、スコットは俺達が第一王子の病気を治す手段を持ち出すと考えたのではないだろうか。

 相当無理がある作戦だ。・・・・・・いや、仮に持ち出せなくてもいいのか。

 第一王子の病気を治す手段が無くなればスコットは王位継承に近付くし、もし病気を治す手段を持ち出したとすれば、それを奪うことでスコットは大きな力を得ることが出来るのだ。

 俺はスルビヤにこの推理を簡潔に話すと、慎重に周囲の警戒を始めた。

 俺も警戒を行う。周囲にこの玉手箱を狙う人間はいないか、と。

 ふと、俺の視界を見慣れたマント姿の人間がかすめた。

「いたぞ。どうする?」

「一旦人混みから出よう。対応している時に周囲の人が邪魔になる」

 スルビヤの指示に従い、俺達は人混みを抜けた。その時、俺達の後を付けるマントと姿の人間を確認することが出来た。

 それも、複数。

 そう言えば、マクマホンが複数人の可能性って言うのもあったっけ。

 そんなことを考えながら、どこで対処しようかと適当な場所を目で探していた。



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