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百二十三 下男、親友と姉の交友関係を知る

 これは好機とばかりに、少し出かけるのでハルの面倒を見ておいてくれないかとヴェニアに尋ねると、彼女は二つ返事で了承してくれた。

 俺は魔法学園を出てアイル伯爵邸へと向かった。尋ねてきた俺の深刻そうな表情を見て、シャノンに顔にも緊張の色が浮かんでいた。

「・・・・・・実は、第一王子のご病気を治す方法が見つかりまして・・・・・・」

 一瞬の間が開いて、ふっとシャノンの顔色が明るくなった。

「それは吉報ではないか。なぜもっと嬉しそうにしないのだ」

「その、方法が方法でして・・・・・・」

 そう言いながら、俺は机の上に玉手箱を置いた。

「これは?」

「この箱の中に、ご病気を治す秘宝が入っています」

「なんと。では早速殿下に届けねば」

「一旦お待ちを。この秘宝の本来の能力は病を癒やすことではありません。病気の治癒は、あくまでも副次的な効果なのです」

「・・・・・・貴殿は、秘宝本来の能力に問題がある、と言いたいのか?」

「・・・・・・はい」

「それは、何か命を縮めたり、五体の機能を奪ったりする能力なのか?」

「いいえ、違います」

「ならば何の問題もないのではないか?」

「・・・・・・この秘宝の本来の能力は、性別を変えることなのです」

「────────────は?」

「この秘宝を使うと、王子が姫になられてしまうのです」

「・・・・・・それは、ありだな」

 ありなの!?

「第一王子が姫となれば、必然的に他国の王族が我が国に婿としてやってくるだろう。関係強化のための政略結婚の責務を第一王子、否、第一王女が果たしてくれるならば、私が妃殿下と結ばれる道も開けるというもの」

 あらやだ、この人策士だわ。

「実によいものを持ってきてくれた。それでは早速王城へと参ろう」

 シャノンがそう宣言するとサクサクと準備は進み、俺達は王城の中に入った。形式上はエリン・アルビオンへの貢ぎ物という体で王城へと入ったシャノンと俺は、早速エリンに対して事情を説明する。

 兄が姉になる、という話を聞いてさすがに表情を僅かに曇らせたエリンであったが、「少しお待ちください」と言って、俺達を部屋に残したままどこかへと消えた。

 どこに行ったのだろうと不思議に思っていると、シャノンが小さい声で説明してくれた。

「王や王妃に尋ねに行ったのだろう。さすがに第一王子の性別が変わるとなれば、貴族や恰好への対応をどのようにするか考える必要があるからな」

 なるほど、と思いつつ、既に性転換の後我が兄との結婚を果たしたアーカヴィーヴァ改めアクア・ヴィーヴァのことをふと思い出す。親への説明とかロンへの説明とか諸々どうやって対処したのだろうか。まさか親に突然「性別変わっちゃったテヘペロ。早速だけど結婚するね」とかいう感じの手紙を送ったわけでもあるまいし。本人は親に勝手にしろと言われたらしいが、それは関係が崩壊しているのか、それとも呆れられているのか。

 そんなことを考えていると、エリンが部屋へと戻って来た。

「お待たせして申し訳ありません。本日中に結論を出すことは難しいので、結論が纏まり次第、後日こちらからお招きいたします」

「かしこまりました。では、失礼いたします」

 実に味気ない挨拶をして、シャノンは部屋を出て行った。

 しかしこの二人、実に態度が堅苦しい。好き合っているのではないのだろうか。

 そう思いつつもシャノンに続いて俺も部屋を出ようとすると、その間際、こそりとエリンが耳打ちをした。

「エルトリアの言っていた通り、貴方は本当にすごい人ね」

 俺は歩く勢いのまま部屋を出て、聞き返す間も無く扉は閉じた。

 エルトリア、だと・・・・・・。

 どういうことだ? エルトリアは俺が人を助けようとしたことなど知らないはず。それに、シャノンと知り合いだっていうのか?

 俺はやや疑うような眼でシャノンを見て、彼に一緒に屋敷に戻ってくれと言われ、俺は付いて行った。

 屋敷に着くなり、俺は彼に尋ねる。

「そろそろ、俺の話を誰から聞いたのか教えていただけないでしょうか?」

「ああ、そうか。まだ貴殿にはしていなかったか」

 そう言って少し思い出し笑いをした後、シャノンは話し出した。

「エイブ、と言えばわかるかな」

「どうしてその名前を?」

「以前、魔物に襲われた時に彼に助けられてね。その時に、君の話を浴びるように聞かされたんだ。今でも時々手紙のやり取りをするよ」

 シャノンはエイブだって言って、エリンはエルトリアだっていう。これって一体どういうことだ?

「よくわからないといった顔だな。恐らく、エイブと妃殿下の接点について考えているとしたら、それは想像通り存在していない。あちらはあちらで、友人から貴殿の話を聞かされていたらしい」

 なるほど。いやなるほどか? いやなるほどか。

「聞くところによると、ルシウス殿。貴殿、ドラゴンと闘っているエイブを助けに単身ドラゴンに向かっていったそうじゃないか。魔法が使えないくせに、とエイブは相当憤っていた様子であったよ」

 へえ、エイブのやつ、ドラゴンのことまで話していたのか。

「しかし、そのドラゴンの死骸が王城で暴れるとは予想外だった。まさか、マクマホンとはあそこまで愚かな奴だったとは」

「・・・・・・今なんて?」

「ああ、貴殿はマクマホンのことは知らないのであったか」

「いやいやいや、どうしてマクマホンのことをご存じなんですか?」

「知っているのなら話が早い。恐らく貴殿も取引を持ち掛けられたのだろう? やつは仰々しく言ってきたわ。妃殿下との婚姻をとりなす代わりに、我が父の腹心の部下を解雇するように仕向けろ、とな」

「それで、どうなされたのですか?」

「直ぐに断りを入れたらどこかへと消えたな。マントに身を包み、フードで顔を覆った男だった。王城に現れた人物が同じ姿だと聞かされた時は度肝を抜かれたわ」

 マクマホンの野郎、色んな家に接触を図っていたのか。それにしても、腹心の部下の解雇だと? 一体何の目的があってそんなことをしたんだ。

「私も、やつの目的など皆目見当がつかない。しかし、何か大きな目的を持って行動していることは間違いない」

 シャノンがそう話をした後俺の頭に浮かんだのは、ケルンは、一体どん取引をしたのか、ということであった。



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