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百十九 下男、霧を抜ける

 ハルは魔法を操るセンスがかなり良く、あっという間に火をおこしたり枝を操ったり、果ては結界を張ることまで出来るようになった。

「なあ、ハルがこの霧の中に迷い込んだ時の状況を教えてくれないか?」

 俺がこう尋ねるのは、ハルを中心として広がる霧が、ハルが無意識の内に発動してしまっている魔法なのではないかと考えているからだ。

 こうして魔法を意識的に操れるようになった今、この霧が発生した原因を突き止めることが出来れば、霧を晴らすこともできるようになるのではないか。

「霧に迷い込んだ時のこと? う~ん」

 しばらく唸り声を上げた後、「あっ!」と大きな声を上げてハルは俺の方を見た。

「かくれんぼ!」

「かくれんぼ?」

「そう! 私、かくれんぼしてたよ」

 かくれんぼ、ねえ。かくれんぼ、かくれんぼ・・・・・・。

 これはあくまでも推測だが、かくれんぼで「見つからないように」という無意識が働いてしまった結果、この様な霧が生まれてしまった、とか。

 もし仮にそうだとして、どうしたら霧は晴れるんだ?

「とりあえず、ハル。一度「見つかっちゃった」と言ってみようか」

「みつかっちゃった?」

 しかし、霧が晴れる様子はない。どうやら、あの日したかくれんぼのルールを俺達はまだ知らないようだぞ。

「かくれんぼしてたけど、ハルは俺に見つかっただろ。だから、かくれんぼはもう終わりだ」

「え? ラックいつの間にかくれんぼに参加してたの? ちゃんと「い~れ~て」って言わないとだめでしょ」

「な、何だと・・・・・・」

 念のため「い~れ~て」と言ってみたが、やはり霧が晴れる様子は無かった。

 こりゃ一体どういう仕組みになっているのかね。

 しばらく考えてみるも、やはり良案は何も浮かんでこなかった。

 俺のはらから音が鳴り、かなりの時間が経過したことがわかる。霧の中は絶えず白く、外が暗闇なのかどうかすらわからない。こいつは、もしかすると霧が発光しているのだろうか?

 俺がどうしたものかと悩みつつ、考えがまとまらないまま人差し指の先で黒縁眼鏡をひゅんひゅんと回していると、ハルが興味深そうにその眼鏡を眺めていた。

「これ何?」

「眼鏡だよ。とりあえずかけてみよう」

 そう言ってハルに黒縁眼鏡を掛けると、彼女はアッチョンブリケと驚いた。

「青い!」

 まあ、霧は水魔法らしいからな。

「何で霧が青いの?」

「その眼鏡は、魔法の種類が色でわかるんだ。青色の霧は、水魔法っていう種類の魔法だとわかるってこと」

「ほええ。ラックは青くないよ」

「俺は水魔法を使おうとしていないってこと」

「なるほど~」

 何がなるほどやねん。

 しばらくハルに黒縁眼鏡を預けたまま、どうしたものかと俺はその場に寝転がった。

 俺はこの霧に自由に出入りすることが出来る為、このまま町を探しに行くことは出来る。しかし、それはハルを置いていくということであり、そうするのは忍びなかった。

 白い天井をぼんやりと見詰めながら、星が見えんなあと思っていると、ひょこりとハルが俺の顔を覗いてきた。

「星?」

 ありゃ。口に出てた?

「ああ。星が見えないなあと思って」

「星、星ねえ」

 ハルがじっと天井を睨む。いや見えないだろうとハルの視線の先に目を向けると、ほんの少し、気のせいかもしれないが、彼女の視線の先の霧が晴れたような気がした。

 これはもしやと思い、俺はハルに話しかけた。

「眼鏡を掛けているハルなら見えるはずだよ。星が」

「ほんとに?」

「ああ。本当だ。もっと、じいっと見つめてごらん」

 黒縁眼鏡を掛けたハルがじっと白い天井を見詰めた。彼女の視線の先の霧は次第に黒く染まっていき、気付けば穴が開き、そこには夜空が現れた。

「星!」

 やっぱり! 目には目を。歯には歯を。無意識には無意識を、だ。外界からの遮断という無意識からこの霧が生まれたのなら、外界への興味と、「見える」という意識を補助する「おまじない」があれば見えるんだ!

「星だけじゃないぞ。ほら、ハル。こっちにも何か見えるぞ」

 そう言って、俺は正面の霧の壁を指差した。

「霧しか見えないよ」

「いいや、見えるはずだ。ほらじっと見つめてみて。じっと。じいっと」

「じいっと。じいっと」

 すると、ハルの正面の霧が段々と晴れ、そこには暗黒が支配する夜の森が広がっていた。

「森だ!」

「ほらほら。あたりを見回してごらん」

「森だ! ここは森だったんだ!」

 気付けば、俺達の周囲から霧が消え去っていた。

そして、直ぐ近くには巨大なクマがいた。

 お前登場しすぎだろ!

 クマに気付かれる前に、俺はハルを抱えて木の上に飛び乗った。

「すごい! 飛んでる!」

「それだけじゃないぞ」

「うわあ。はやいはやい」

 俺はハルを抱えたまま夜の森を駆けた。



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