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百十八 下男、少女に出会う

 俺の推測に寄れば、大抵の水魔法はその仕組みが効果対象も魔法が使えることが前提で作られている節がある。だからこそ、催眠術に近しい魔法の類は俺に効果がないのだろう。

 この霧は恐らく、来るものを拒む霧なのだ。この霧の中に近付くと、無意識の内に霧から離れていくような行動をとってしまうのだろう。

 しかし、それにどれほどの意味があるのだろう。

 普通、相手を霧の中に閉じ込めようとする方が実用的なのではなかろうか。どうしてこんな視界の悪い場所から人を遠ざけようとする。何かを隠している?

 それだったら、あり得るかもしれない。しかし、一体何を? この魔法を使っている人間は何を考えている?

 そんなことを考えながら歩いていると、ふと、突然ぱっと視界が開けた。まるで台風の目の様に、ぽかりと霧の無い空間が現れた。

 そしてその中心に、一人の女の子が座り込んでいた。膝を抱え、小さく、小さく蹲っている。

 彼女がこの霧の魔法を使っているのだろうか? 見た所、まだ俺よりも幼いことは確実だ。十歳前後だろうか。

 しかし、リンゴちゃんの前例があるように、もしかしたら神様レベルの存在なのかもしれない。ここは慎重に、失礼のないように行こう。

「あの、少しよろしいですか?」

 俺が声を掛けても、女の子は反応を見せなかった。寝てる? いや、聞こえていないのか?

「あの~、こちらで何をしていらっしゃるのでしょうか?」

 女の子は、おもむろに首をこちらに向けた。虚ろな目で俺を見詰め、何かを言おうとしているのか口をパクパクと動かしているが、声は聞こえない。

 緩慢な動きで俺の足に手を伸ばし、ちょんと突いた。再び、ちょん、ちょんとつつき、ちょんちょんちょんちょんとつついた後、驚いたように頭を上げ、俺の顔を覗き込んだ?

「あの、どうされま」


「人だああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 突然大きな声で女の子が叫んだ。俺は驚きのあまり後ろに転倒して尻もちを突いてしまった。ディズニーアニメの登場人物にも負けないオーバーな驚きの声を上げた後、開いた口が塞がらないまま、女の子は俺と視線を合わせる。


「人だああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 何となく再び叫び出すことが予測できたので、今回俺は早い段階で耳を塞ぐことに成功した。大声って心臓に悪い。

「はい、人ですが」

「お兄さん誰? どこから来たの? どうやってここに来たの?」

 立て続けに放たれる質問の圧の強さに少々身を引きつつも、俺は「落ち着いて」という意志をジェスチャーで女の子に示した。

「俺はラックっていいます。今はルーシ領から王都への帰りの途中で。霧の中には、何でか普通に入って来られました」

「すごいすごいすごいすごい! 人だああぁぁぁ! 人ひと! ラック? っていうの? よろしくね? ・・・・・・ちなみに、何で敬語なの? 私年下だよ?」

 少女の瞳の色は赤。今の所の経験則に当てはめるならば、神様の瞳の色は金色なので、彼女は神様ではないのだろうか。いや、赤い瞳は大抵のアニメでは吸血鬼とかそう言うダークな存在の瞳の色と相場が決まっているのだ。ここは油断してはならない。

 しかし、敬語の使用を控えるように言われているのだ。失礼のない範囲で普通にしゃべることにしよう。

「君の名前は?」

「私? 私は、私は、ええっと、ええっと、確か・・・・・・」

 自分の名前忘れるとかある? 絶対ご長寿キャラだよこの子。

「ハル。そう、確かハルっていうんだ私の名前。よろしくね」

「・・・・・・ああ、よろしく」

 ハル? 春? まさか春の女神とか。ははは。瞳の色も違うし多分普通(吸血鬼や怪物も含む)女の子だよあはははは。

「えっと、ハルはここで何をしているの?」

「かくれんぼ! してた、ん、だけど・・・・・・」

 かくれんぼだと? 何かの隠語か? こんな近くに町もない所で一体誰とかくれんぼしてたって言うんだ?

「気付いたら、この霧から抜け出せなくなっちゃって」

 抜け出せない? 何を言っているんだこの子は。だってこの台風の目的な空間と言い、どう見てもハルが魔法を使っているじゃないか。

「この霧って春の魔法じゃないの?」

「ええ? 貴族でもないのに、私が魔法を使えるわけないじゃん」

 いや言ってることはまともだけどな。状況が状況だし。

「じゃあ、とりあえず試してみますか」

 俺はハルの手を引いて霧から出ようと歩き出したが、台風の目の様な霧の無い空間ごと移動する羽目となった。今度は俺一人で歩いていくと、俺はあっさりと霧の壁に触れることが出来た。

 やっぱりハルが中心やーん。霧から出られないのは当然やで。だって常にハルが中心となるように霧が展開しているんだからな。

「やっぱりこれ、ハルの魔法だよ」

「でも、私貴族じゃないよ?」

「貴族じゃなくても魔法は使えるよ。俺の親友は平民だけど、ドラゴンだって倒したんだからな」

「すごい! 勇者様だ!」

 ハルは目を輝かせた。

 勇者ねえ。まさかこの世界にも魔王が居たりとか。いや、学園物の乙女ゲームに魔王とか、設定詰め込みすぎだろ。

「とりあえず、魔力の流れを感じてみようか」

 そう言って、俺は学んだ知識をかみ砕いてハルに伝える。実践は出来ないが、知識はちゃんと頭の中に入っているから。

「指先に意識を集中させると、指がピリピリするだろう。そのピリピリが段々と熱くなって生きて、火が点いちゃうかも!」

「うわっ!」

 ハルが意識を集中させていた自身の指先から出た火に驚きの声を上げた。

「燃えた~、すごい!」

 俺はすかさず、地面の適当な小枝を拾い上げる。

「他にも、この枝を操ることだってできるぞ」

「ほんとに!」

 目をキラキラと輝かせる少女にものを教えることは、とてもいい気分になった。



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