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百十六 下男、友人の結婚式に参加する

一部変更しました。2020/5/26

 新郎新婦と同じ馬車に乗るというのは何とも不思議な気分であったが、俺はユークレインとウラルと共に、ルーシ領へと向かった。

 王都からスティヴァレ領への道のりの二倍ほどの距離を行き、俺達はルーシ領へ到着した。道中はウラルの目が気になりユークレインに話しを訊くこと出来なかった。なにぶん、宿では俺だけ一人部屋だったからな。

 ラッスィーヤ家の屋敷についてからようやく、俺はユークレインをゆっくり話をする時間を得ることが出来た。

「まずは、結婚おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

 三日後の結婚式を前に、ユークレインはがちがちに固まっていた。

「何でそんなに緊張してるの」

「い、いや、その、色々あるんだよ色々」

 ユークレインの緊張をほぐすために前世のあるある話などをしてから、俺は自分が今一番聞きたいことを彼に切り出した。

「ライン伯爵家について聞きたいんだ」

「ああ。一番面倒な家だね。何でも、また婚約する家を変えるとか」

「まさに、その婚約に関してなんだ。どうしてライン伯爵家は、こうもころころ婚約する家を変えているんだ?」

「まず、公爵家がライン伯爵家との縁談を狙っているのは、領地が二つの公爵家に挟まれているっていうこととか、鉱山があるっていうこともあるけど、エルゼスが使える特別な魔法が原因なんだ」

「特別な魔法?」

「動物の心の声が聞こえるって魔法だよ」

 今までこの世界で聞いた中で一番ファンタジックな魔法だわ。何だよ『業火』って。あんな喰らったら即死の魔法があふれる世界とか本当に殺伐としてるって思ってた。

「何か、おとぎ話みたいな魔法だな」

「本当にそうだったら良いんだけどね。動物には、人間も含まれるんだ」

 瞬間、全てが繋がった。エルゼスは人の心が読める。絶えず周囲との微妙な関係性の中で生きている貴族に取って、これほどありがたい能力は存在しない。通りで、公爵家がこぞって欲しがるわけだ。

 そして何より、エルゼスはこの能力を持っているからこそ、マルセイジュの心の痛みに気付くことが出来たのかもしれない。

 ・・・・・・じゃあ、ケルンは?

「その話、結構周知の事実なのか?」

「いや、ドウィチェ公爵家とエクサゴナル公爵家しか知らないと思うよ。・・・・・・まあ、他家の情報を集めていたり、僕みたいにそう言った家と懇意にしている人間だったりは知っているだろうけどね。

 この三家は家が近いということもあり、頻繁にお茶会などで顔を合わせているから。幼少期から一緒に居た様だし、どのタイミングで聞いたっておかしくないよ」

「お茶会って、エクサゴナル公爵家とドゥイチェ公爵家って仲悪いんじゃないの?」

「状況に寄るよ。感情的になって行動してたらいいことないからね。でも、今は違う。たった一人しかいない貴重な人材なんだ。是が非でも手に入れたいはずだよ」

「・・・・・・それって、どっちかの公爵家とエルゼスが結婚したら、状況って解決に向かう感じなのかな?」

「うーん。周囲の状況に寄るんじゃないかな? まあ、いずれは解消されると思うけど」

 もし片方の家の手にエルゼスが渡れば、常に圧倒的アドバンテージをエルゼスが手に入れてしまっているということになる。力は均衡していることが大切だというのに、どちらか一方に力が偏ってしまっていいのだろうか。それは両家の友好につながるのだろうか。

 なんか、解決しにくい問題に足を突っ込んでしまったなあ。

「ちなみに、第一王子が病気だって知ってる?」

「え、それは初耳だな」

 あちゃー、初耳学かい。

「病気って、治癒魔法で治せないの?」

「それ、俺も思ったことある。でも、治癒魔法って恐らく、細胞の中の遺伝子情報を読み取って、その通りに細胞を増殖させている魔法なんだよな。だから、病原体に打ち勝つための抗体を増やすための魔法じゃないから」

 自分で言っていて、俺はどこかに違和感を覚えていた。知識は合っているはずだ。だとしたら何がおかしい。何が? 一体何が?

 ふと、パーティーの夜を思い出す。

 ルフィの体から、流れていた血。

 おかしい。おかしいおかしいおかしい。何で血は止まっていないんだ? 仮に死んでいたとしても、全ての細胞の活動が停止しているわけじゃないはずだ。だから細胞分裂によって傷口が塞がり血は止まるはずなんだ。どういうことだ? どういうことなんだ?

 もしかしたら、俺の前世の中途半端な知識のせいで勘違いしているだけかもしれない。思い違いをしているだけかもしれない。

 しかし、どうしようもない違和感が、あの夜の記憶に付き纏っていた。

 せっかくの友人の結婚式。

 普通なら、心から彼らを祝福できるだろう。

 俺は辛うじて顔は笑うことが出来たが、内心は膨れ上がる違和感の中で混沌とした状態になっていた。



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