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百十四 下男、三角関係の情報を聞く

 俺が唇を離した後、ヴェニアはゆっくりと目を開けた。そしてしばらくの間きょとんという顔をした後に、脈絡もなく笑い出した。

 何事かとその様子を窺っていると、少女は上目遣いに俺を見ながら言った。

「ルシウス、力入り過ぎですよ」

 それはお前の方だろうが!

 そう言い返したくはなったが、緊張していたことを自覚はしていたので、強く言い出すことが出来ずにいた。

 ああ、暑い暑い。早く涼しい所に行かなくちゃ。

「何そわそわしているんですか?」

「してない」

 早口で返答すると、再びヴェニアは笑い出した。俺は居た堪れない気持ちになり、「もう用事はないから」と言って立ち去ろうとするが、彼女に服の袖を掴まれた。

 もう開放してくれと思いながら振り返ると、ヴェニアは一度逸らした視線を何度か空中を彷徨わせた後、俺の顔を覗くように言った。

「・・・・・・用事、増やしていきませんか?」

 端的に結論を述べるならば、用事は増えた。



 俺が食堂でしばらく待った後、丁度正午頃になってからナオミは食堂に現れた。一見するとそれほどやつれているようには見えないが、精神面の様子はいかほどなのか、わかったものではなかった。

 ナオミは俺の前の席に座ると、ふうっと息を吐いてから話し始めた。

「一応何でも答えるつもりだけど、交換条件があるの」

「何だよ一体?」

「詳しく教えてほしいの。・・・・・・学生寮裏のこと」

「いつから覗いてた!」

「「もう用事はないから」「・・・・・・用事、増やしていきませんか?」」

 後半全部じゃないか!

「いつの間に女なんてできたんだよこのこの。まだシスコン拗らせてるかと思ったよ」

「シスコンで悪かったね。・・・・・・パーティーの日に色々あってね」

 ナオミの様子をちらちらと確認しながら言葉を紡いだ。「そっか」という短い言葉にどれほどの想いが込められているのか、俺には判断がつかなかった。

「まあ、冗談は置いておいて。で、ゲームの話って?」

「辛かったら話さなくていいからな。パーティーで起きた事件はゲームのシナリオ通りだったのかどうか。そして、マルセイジュ、エルゼス、ケルンの三人のことについてだ」

「・・・・・・パーティーでのことは、私は全く知らなかったよ」

 そうか。と返事をすることすら、俺には出来なかった。

「三人のことについてって、具体的に何を訊きたいの?」

「心境だな。マルセイジュについては、エルゼスに対し愛情を寄せながらも彼女の幸せを望んで身を引いているがそのやり方が自暴自棄になっている、という解釈なんだが、エルゼスがどうしてマルセイジュとの関係を回復させたのか。そしてケルンが何を思っているのかが知りたいんだ」

「私も、ゲームのシナリオ通りの展開じゃないから確実なことは言えないんだけど、ヘレナがマルセイジュ以外のルートに入るとね、エルゼスがマルセイジュと喧嘩するんだよ。エルゼスは自分のせいでマルセイジュが暴走しちゃってることに気が付いて、確か、こんなことを言うんだったかな。「貴方が傷つくと私も痛いの」って。

 そこから、マルセイジュはすっぱり女性関係を断つんだよね。それで、ケルンルートに入っていると、マルセイジュとエルゼスは結婚するの。エルゼスはケルンといると女の子になるんだけど、マルセイジュといるとお母さんになっちゃうんだよね。保護欲と言うか、母性本能がくすぐられると言うか。

 でもケルンルート以外に入っていると、マルセイジュとエルゼスの婚約は解消して、ケルンとエルゼスが結婚することになる」

「ケルンルート以外に入ると、ケルンは自身の想いを捨てきれず、自らの婚約を解消してエルゼスと結婚するっていうことか?」

「そこは、わからない。原作では何も書かれていなかったの。でも、成人している公爵家の長男に婚約者がいないっていうのに、考えてみれば少し変だよね」

 つまり、原作にルフィは出てこないということなのか。あれ? つまり今回のイレギュラーは、俺ではなくルフィ自身ということになるのか? まるで世界が、辻褄を合わせるために自身のバグを自ら修正に掛かっているような・・・・・・。いや、それは行き過ぎた考え方だな。

「なあ、ケルンルートに入った時、ケルンはヘレナのことを好きになって、エルゼスへの想いを断ち切ることが出来たのか?」

「・・・・・・出来ていない、かな。ヘレナに、「君のことが好きなんだ。でも、俺はエルゼスのことをどうしようもなく愛してしまっている」って言ってしまうの。ヘレナは、そんなケルンに対し優しく、「それでもいい」って答えるの。

 エルゼスとマルセイジュが結婚してから、少しずつ踏ん切りがつくようになってきた、って言うのが正解なのかもしれない」

 それはつまり、エルゼスが結婚しないとケルンは想いを諦めきれないということだ。

 現状、俺はマルセイジュとエルゼスがこのままくっついてくれればいいと思っている。エルゼスの気持ち的にも、それが一番自然な展開のはずだ。

 しかし、このまま政治的な圧力によってマルセイジュとエルゼスの婚約が解消されてケルンと結婚することになる場合、確実にひと悶着起きてしかるべきだ。

 いや、そもそもエルゼス・ロートリンゲ、という少女に纏わる結婚はどうしようもなく政治的意図が絡んでしまっている。そもそもはケルンと婚約していたはずなのに、それが解消された所で因縁深い別の公爵家が関わってきてしまったことでこじれてしまっている。

 というか、そもそも、政治経済的な理由で婚約解消って何だ? 曖昧過ぎるだろ。詳しく知るためには、一度ライン伯爵家に潜入してみた方が良いんじゃないか。

 そこまで考えて、俺は自分の友人の中に恐ろしく貴族の事情に精通している男の顔を思い出した。

 ユークレイン・バロン・クリム。丁度俺は、彼の結婚式に参加できるじゃないか。

 ナイスタイミングと思い、俺は無意識に拳を握っていた。




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