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百四 学生、手紙を盗み見る

 ドレスだというのに足早に歩くヴェニアに付いて行くと、偶然ヘレナとイズミルの姿を目撃する。

「先程王子と言い争っていた人たちですね。今はこちらです」

 俺が立ち止まることを許さぬように、足が止まった俺の背中をぐいぐいとヴェニアが押した。一体彼女は何を急いでいるのだろうか。

「どこに行くの?」

「・・・・・・森です」

「森? 森は危険だろ」

 確かに魔法学園のそばの森は獣が全く出てこないし、さんざん森の中を駆けまわっていた俺が言えることでもないが、それでも森、特に視界が悪い夜の森は危険だ。いつどこから火球が飛んでくるかわかったものではないし。

「・・・・・・では、どこで?」

 どこでと言われても。静かな所で話がしたいというのなら、人通りが少なく明るい所が良いだろう。丁度いいことに、今夜は月明かりがある。

「学生寮の前とか?」

「・・・・・・せめて中が、いいです」

 まあとにかく学生寮の方へと向かおう。

 俺達が学生寮の前に来ると、一羽の鳥が学生寮の窓の一つの前に止まっているのが見えた。

 また鳩か。

 俺はヴェニアに少し待ってと言うと、窓枠に手を掛けながら壁を駆け上り、ハトのいる三階の窓枠へと手を掛けた。

 鳩は驚いて一度飛び去るも、再びロバート・コンクェストの部屋の窓の許へと戻ってくる。窓から部屋の中を覗くが、ロバートの姿は無い。

「ちょいと失礼しますよ」

 パーティーの雰囲気に当てられて気が大きくなっているのか、俺はさんざん気になっていたロバートに送られてくる手紙を盗み見た。

 丸められた小さな紙には、短く一言こう書かれていた。

『スカンジナビアの令嬢を殺せ』

 俺は動揺で手紙を落としそうになりつつも、何とか落とさずに手紙をハトに戻した。ハトはその場でロバートの到来をじっと待ち続けており、動こうともしない。

 感覚共有魔法の存在をその時ようやく思い出すが、もしその魔法を使っているのならば、わざわざ窓でずっと待ち続ける必要は無いだろう。運が良い。・・・・・・いや、これは運が悪いと言うべきなのか?

 幸いなことにまだロバートはこの手紙を見ていない。しかし処分してもそれは時間の問題でしかなくなる。重要なのは、俺がロバートよりも先にこの手紙の内容を知ることが出来たということだ。

 俺は地面へと着地し、ヴェニアの許による。

「・・・・・・ごめん。忘れ物したから、会場に戻るね。少し、遅くなるかもしれない」

 俺はヴェニアの返事を待たずに素早くパーティー会場へと戻った。



 歓楽に興じる雑踏の中を抜け、俺は人を探した。

 まず見付けたのはレンとルフィ。俺は彼らに近寄ると、「やあ二人とも」と直ぐに声を掛けた。

「ルシウスか。そう言えば、ペアで入って来た彼女はどこに行ったんだ?」

「まあ、ペアで? ・・・・・・おめでとうございます」

「・・・・・・まあ、少しね。それよりレムス、少しお金の相談が」

「この前魔除けの石の件で貸してやったというのに・・・・・・」

 レンはルフィと距離を取り、俺はレンだけに聞こえるように小声で話した。

「実は、ロバート・コンクェストの伝書鳩の手紙を盗み見た。シルフィアさんの命が狙われている」

 レンは驚きつつも、声を上げるのを我慢していた。

「どういうことだ?」

 声を潜めながらの叫び。そこには疑いと怒りが込められていた。

「わからない。『スカンジナビアの令嬢を殺せ』とだけ書かれていた。シルフィアさんから目を離さないように」

 何も言えず、コクリと頷くレンを置いて俺はその場を離れた。暫く顔を動かしていると、ロバートとよく会話をしているパパラッチの学生を見付けた。

 俺は彼に近付いて話しかける。

「こんばんは」

「うお! って、君は? ・・・・・・君は、あの時の! 同業者が何か用?」

 黒縁眼鏡で俺のことを覚えてくれていたらしい。ならば話が早い。

「最近、どんな情報をロバートに売ったのか教えてほしいんだ」

「おいおい。そういうのはご法度だって言っているだろ」

 そうは言いつつも、パパラッチが親指と人差し指で輪を作ってちらちらと俺に見せてくる。

この世界でもお金のジェスチャーはそれなのね。

 俺は少し驚き呆れつつも、指でピースサインを作った。

「二倍じゃ足りないよ」

「二十倍」

「二十!?」

 思わず大声を出しそうになったパパラッチは、自分で自分の口を塞いだ。

 今は速度が何よりも優先だ。どの道俺の創ったトマトの粉による金だから、多少家からお金をもらっても問題ないだろう。・・・・・・でも、いつかは働いて返さないと。

「それで、何を話したんだ?」

「・・・・・・最近、マルセイジュのやつが真面目になってさ。何人もいた女とすっぱり関係を切っちまったんだ。完全に冷え切っていると思われていた婚約者様とは、ご覧の有様でよ」

 パパラッチの指差す先には、楽しそうに踊るマルセイジュとエルゼスの姿があった。

「他には?」

「それだけだよ。なにせ、もうスキャンダルは落としてくれなくなっちまったんだからさ」

「ありがとう。で、いくらになるのかな?」

 パパラッチが耳打ちした額が予想より一桁多かったので、俺は冷や汗が止まらなかった。

 ・・・・・・この黒縁眼鏡とか、売ったらお金にならないかな?

「じゃあありがとう」

 そういって俺はパパラッチの許を離れた。

 本当は真っ先にロバートに話しかけに行きたかったのだが、彼のことはなかなか見付けることが出来ずにいた。

 ルフィの方はレンががっちり、そりゃもうがっちりと付いているので、それほど心配はいらないだろう。

 しかし、どうしてロバートにルフィを殺せという命令が来るのだろうか。

 ノルマン伯爵家はロバートを使ってマルセイジュの行動を逐一報告させていた。それがマルセイジュが現在の婚約者との縒りを戻しつつあると見るや、ルフィを殺すように仕向けた。もしルフィが無くなれば、その婚約者であるケルンは、安心してエルゼスにアプローチできる。

 結局ノルマン伯爵家の考えは全くわからないが、どうやらエクサゴナル公爵家とドゥイチェ公爵家との争いを望んでいるということだけはわかる。

 兎に角ロバートを発見しなければならない。その為には、エイブの様に索敵魔法が使える人間がいるといいんだが。

 そこまで考えた頭に浮かんできたのがスルビヤの顔だったので、俺は自分自身の思考回路がどうしようも無く嫌になってしまった。

 しかし、彼以外に頼る当てなど他になく、俺は慌ただしく再び会場の外に出た。

 そしてその出入り口でばったりと、スルビヤと出会った。

「丁度良かった。お前に頼みたいことがあるんだ」

「まあ、それはいいけど。ルシウス、ヴェニアがめちゃくちゃ怒って学生寮の中に入っていったけど、君何したの?」

 え、怒らせちゃった? まあ、突然置いて行かれたらそりゃ怒るか。

「そんなことより、聞いてくれよ」

 俺は学生寮の方に走って移動しながら、ロバートに送られた伝書鳩の手紙のことについてスルビヤに話した。

 学生寮の手前で彼は息を切らしながら答えた。

「つまり、俺にロバートを探せと」

「ああ。任せた」

「はいはい」

 スルビヤは学生寮の中に入っていった。

 学生寮の窓には、まだ伝書鳩がロバートの到着を待ち続けていた。しかし、ロバートは一体、どこに行ったのだろうか。

 月のきれいな夜。ふとドラゴンに襲われた時のことを思い出す。

 さすがのマクマホンも魔法学園をドラゴンに襲わせはしないだろうと思いつつ、俺は嫌な予感を覚えていた。



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