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百 学生、嵌められる

 いつまで経っても名前が出てこない俺を見て、少女ははっと何かに気付くと、頭をぶんぶんと下げながら自己紹介をしだした。

「私、ヴェニア・バルカンと申します。先日は命を救っていただき、本当にありがとうございます」

 バルカンということは、スルビヤの一族。ということは、以前彼と殺し合いの決闘をした少女ということか。・・・・・・うん、やばい臭いしかしない。

「ええっと、何の話かわからないのですが」

「え? でも、スルビヤ兄様が私を助けてくれたのはルシウスさんだって言っていました。兄様と、仲が良いと聞いていたのですが」

 スルビヤの野郎ぜってえぶん殴ってやる。・・・・・・いや、普通聞かれたら答えるか。というか、殺し合いをした兄弟と会話をしたっていうのか? それもやばくない?

「もしかしたら違う「ルシウス」なのかもしれません。俺はスルビヤ・バロン・バルカンとは仲良くありませんよ」

「いや、でも、声が・・・・・・」

「声?」

「はい。私を助けてくれた方と貴方の声が全く同じ何です」

 なるほど。目は見えていなかったけど声は聞こえていたと。執念深過ぎでは? 怖い。

「たまたま声が似てしまっているのかもしれませんね。探しているのはどのような方なのですか? 良ければ心当たりを当たってみますよ」

「ええっと、ルシウス・イタラナイさんだったと」

「ああ! その人ね、はいはい、知っていますよ。先日この学校を離れたと聞きました。タイミングが悪かったですね」

「・・・・・・やっぱり、貴方がルシウス・イタロスさんですね」

 ヴェニアは少し不満そうな顔をしながらも、ほんの少しの喜びを瞳に宿しながら上目遣いに俺を見た。

「スルビヤ兄様の言った通りです。偽名を出せば必ず食いつくと」

 こいつ、俺を策にはめやがった。やはり危険だ。

「それで、パーティーの件ですが」

「いや、俺には少しやることが」

「兄様が代わりにやると言っていました」

「代わりに? それはどういう」

「学園長に訊いてくれればわかると言っていました」

 何? 学園長だと? どういうことだ?

「それで、一緒に参加してくれませんか?」

「・・・・・・パーティーの開始までには返答させていただきます」

 俺がその場を離れようとすると、「おやつ時に食堂で待っています」というヴェニアの声が聞こえた。



 急いで学園長室へと向かうと、何故かセバスチャンが一人で紅茶を入れていた。

「スルビヤは組織に入りました」

 来客用の机に紅茶を置き、セバスチャンは俺に座るように促した。スルビヤが天網に入っただと? いつの間に? 天網のメンバー二人からの推薦とリンゴちゃんの試験をいつ通ったって言うんだ?

 俺はソファーに腰を掛け、紅茶を口に含んだ。美味い。

 まあ、過程はこの際置いておこう。

「つまり、適性検査の課題がイズミルの部屋への侵入だと」

「貴方に休暇をと。今回面白い活躍をされましたし」

 おいセバスチャン。何てめえ笑ってんだよ。確かにまさかのマクマホンとの遭遇してしまい大惨事になったけど、作戦の目的は果たされたんだからな。

「王子との会話も気になるでしょう?」

 パーティー会場で行われるイズミルとスコットの会話。気にならないと言えば嘘になる。しかし、何か俺を無理やりにでもパーティーに参加させたいという悪意を感じるぞ。

「王城への侵入方法も教えますよ」

 だったら教えろよ。もったいぶるな。パーティーへの参加が条件とか止めろよ。

「・・・・・・わかりました。参加します」

 一体なにも狙っているんだセバスチャン。

 彼の顔から、俺は一切の情報を読み取ることが出来なかった。



 おやつ時、俺は食堂に向かった。少し早めに来たが、既にヴェニアは俺を待っていた。

 例えパーティーに参加することになっても、ヴェニアと一緒に出る理由はないのだ。うん、断ろう。

 しかしヴェニアの近くに寄った時、彼女が非常ににこやかな表情をしていることに気付いた。

「先程スルビヤ兄様から聞きました。ルシウスさん、パーティーに参加するのですね」

 え、いつの間に? どこから聞いたんだ?

 俺はふと思い出す。俺が来る前にセバスチャンが紅茶を入れていたことに。

 彼なら俺が来ることを予め察知していても不思議ではないとは思ったが、もし俺より先に来客がいて、俺が部屋にいる間もその人物が部屋の中に留まっていたとしたら?

 俺の予想が正しければ、スルビヤは部屋に隠れていたのだ。

 ちくしょう。やられた。もしかしたら、セバスチャンはヴェニアのことを聞いていたのかもしれない。だからあれほどまでにパーティーへの出席を推したのか。

「それで、ルシウスさん。私と一緒に、パーティーに参加してくれませんか?」

「・・・・・・はい、喜んで」

 喜ぶ彼女の姿を横目に、俺はどっと全身に疲労感を覚えた。



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